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藤塚 太陽
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耀聖(ようせい)
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「……もう……疲れた……」
自室のデスクで、僕は完全に干からびていた。
埼玉県民のパリピクマ(熊田ベアー)を埼玉煽りで号泣させ、クーデレ博多弁トカゲをDT砲と殺意イケボでM開眼させ……僕(天使ミラ)のチャンネルは、もはや「清楚な天使」ではなく**『生意気な後輩を分からせる地声イケボ教育係』**というカオスな評判で大バズりしていた。
そんな僕の前に現れた、三人目の先輩。
モニターに映っているのは、華やかな振袖を纏い、狐の面を頭に斜め掛けした、超絶ハイテンションな美少女アバターだ。
**【都(みやこ)(22歳・設定上は天界の神使狐)】**
・ルミナスプロ結成初期からの古参ライバー。
・爆速マシンガントークのハイテンション京都弁ライバー。
・「京女のいけず(皮肉)」をフルスロットルのテンションでぶち込んでくる台風のような存在。
「未来さ〜ん! 都先輩はルミナスプロ随一の『アドバイザー』ですからね! しっかりアドバイス聞いてくださいね♪」
マネージャーの坂田さんの能天気な声。
そしてスマホには、いつもの絶望LINE。
『三日月茜:都先輩は天界の先駆者です。「はい」「承知しました」以外の返事は許可しません。天使のプライドを守りなさい』
『金城空斗:ハイテンション京都弁とか一番タチ悪いだろw お前の豆腐メンタルが京都の着物で締め上げられるの楽しみにしてるわ』
もう嫌だ。この事務所、まともな人が一人もいない……!
【コラボ配信開始】
[リスナーA]きたあああ! 都先輩とミラちゃん!
[リスナーB]ハイテンション京都弁VS事故天使ww
[リスナーC]嵐の予感しかしない
「み、みなさんこんミラ〜……♪ 今日は先輩の都さんと、まったりお話ししていくのです……♪(限界の裏声)」
画面内の天使ミラちゃんが、引きつった笑顔でペコリと頭を下げる。
すると、スピーカーから爆音の三味線BGMと共に、マシンガンのような京都弁が飛び出してきた。
『はいどーもどーも! 天界からおこしやす〜! 都でおま〜す!! ちょお未来ちゃん!? あんた今日も今日とて、そんな「キーキー届かへん裏声」で配信してはるん!? 耳がキーンってなってまうわ〜〜〜! ガハハハ!』
**ズドン。**
開始1秒で声量とテンションの暴力が叩きつけられた。
「ひっ……!? あ、あらあら〜……ミラは本当の天使だから、これが地声——」
『はいストップストップ〜! 嘘はあきまへんえ〜! あんたのその「地声事故」の切り抜き、YouTubeで何百万回再生されてると思ってんの!? 毎回毎回テンパってデスソース舐めて、後輩にイケボでブチギレて……あんた、それ「清楚な天使」の設定、息してへんやんか〜!』
「うぐっ……! そ、それは……っ!」
正論! ぐうの音も出ないほど完璧な正論!!
[リスナーA]都先輩のマシンガンぶっちゃけトークwww
[リスナーB]開幕から設定を粉砕しにいくスタイルww
[リスナーC]ミラちゃんのHPがゼロです
『うちな、ずっと言いたかったんよ! あんた、なんでそんな「宝の持ち腐れ」してはるの? 息吸って喋るだけでリスナーが「ギャー!」言うてスパチャ投げてくる神から授かったイケボ持っといて、なんでわざわざ裏声でキョドって自爆してはるん!?』
「だ、だって……事務所のキャラ設定が……三日月さんの設定が『清楚な天使』だから……っ!」
『そんなもん捨てちまいなはれ!!(爆音)』
「えっ!?」
画面の中の狐耳少女が、画面いっぱいにアップになった。
『ええか、未来ちゃん。世の中な、「開き直った奴」が一番強いんよ! 「天使ミラ」の皮かぶったまま、**【最初から隠さずイケボを売りにするドSイケボ天使】**として開き直ったらええどす!!』
「い、イケボを……最初から……売りに……!?」
『そうどす! 地声が出たら「事故」やなくて「ファンサービス」! 煽られたら「キレる」んやなくて「低音で分からせる」! 隠すからテンパるんよ! 最初から出していけば、誰も文句言えへん!! ほら、今ここで開き直って、うちに向かって一発極上のイケボカマしてみなはれ!!』
都先輩のマシンガントークと、突き抜けすぎたアドバイス。
僕の頭の中で、ガラガラと何かが崩れ去っていく音がした。
(隠すから……テンパる……? 開き直れば……怖くない……?)
そうだ。
僕は今まで「隠さなきゃ」「清楚じゃなきゃ」と思うからパニックになり、フットスイッチを踏み外して自爆していたんだ。
最初から……全部イケボで、開き直ってしまえば……デスソースも舐めなくていいし、ホラゲーでビビっても「ファンサービス」で押し通せるんじゃないか……!?
ストッパーが、外れた。
僕の手が、ゆっくりとキーボードへ伸びる。
フットスイッチを、自らの意志で踏み抜いた。
カチッ。
ボイチェン、完全オフ。
僕(彼方未来)は深く息を吸い、椅子の背もたれにゆったりと体を預けた。
そして、マイクに顔を近づけ、全神経を集中させて——**素の超絶極上低音ハスキーボイス**を響かせた。
**「……あー。マイクテスト、マイクテスト」**
『…………!』
一瞬で、コメント欄の流れるスピードが異常な領域へと跳ね上がった。
[リスナーA]ファッ!??!?!?!?
[リスナーB]自分からボイチェン切ったァァァ!?!
[リスナーC]覚醒!? 覚醒したの!??!?
画面内の天使ミラちゃんは可憐な姿のまま。
だが、そこから流れるのは、全世界の耳を溶かすような極上の低音。
**「……都先輩。……アドバイス、おおきに(超低音関西弁ニュアンス)」**
『〜〜〜〜〜〜ッッッ!!??!?(ガチで言葉を詰まらせる都先輩)』
**「今までウジウジ隠してて悪かったな、リスナー共。……今日からこのチャンネルは、俺のこの声でリスナーを『分からせる』配信にするから。文句ある奴は、スパチャ投げてから言え」**
[リスナーA]ギャアアアアアアアアアアッッッ!!!
[リスナーB]ドSイケボ天使爆誕wwwwwwww
[リスナーC]開き直りの威力がバグってるwwwww
[リスナーD]「文句ある奴はスパチャ投げろ」は草wwww
[スパチャ¥100,000](アーク):神が覚醒されたぁぁぁあ!! 隠すのをやめ、真の姿を現した天使様!! 一生ついていきます!!
『っ〜〜〜〜〜〜あー!! びっくりした!! あんた、腹括った瞬間のかっこよさエグいな!! 自分で提案しといてガチでゾクッとしたわ!!』
都先輩が叫びながら拍手する。
僕は低音のまま、ふっと息を漏らして鼻で笑ってみせた。
**「……フッ。これからは、俺の時代なんで。……先輩も、遅れないでついてきてくださいね?」**
『ガハハハハ! 言うたな〜! よっしゃ、新生・天使ミラのイケボ無双配信、ここからスタートやで〜〜〜!!』
配信終了後。
配信を終え、ボイチェンを切ったままの僕は、PCの前で静かに呟いた。
**「……ふぅ。……なんだ、開き直ったら、全然緊張しねぇじゃん……」**
そう、僕はついに克服したのだ。コミュ障も、クソザコメンタルも、イケボという最強の武器を最初から振りかざすことで、全てをねじ伏せられるようになったのだ!
勝利の余韻に浸っていた、その時。
バターンッ!!
部屋の扉が勢いよく開いた。
「「「未来(さん)!!!」」」
「……え?」
そこに立っていたのは——
激怒して顔を真っ赤にした、設定オタクの三日月茜。
目が完全にドル札の形になった、マネージャーの坂田さん。
そして、なぜか手土産のジュースを持った幼馴染の空斗だった。
三日月さんが指をさして叫ぶ。
「何が『俺の時代』ですか!! 『清楚で聖母』の設定はどこへ行ったんですか!! 反省文1万字!! 今すぐ正座してください!!」
坂田さんが書類を叩きつける。
「未来さんすごい!! 『イケボ覚醒配信』で同接8万人、スパチャ総額数百万円です!! 明日から全配信イケボ固定で、ファンクラブ開設しますね!!」
空斗が腹を抱えて爆笑する。
「ギャハハハハ!! お前『俺の時代』とか言っちゃってんのウケるwww 昔『僕と喋らないで』って泣いてた奴がwww」
「あ……あ……」
途端に、僕の脳内で何かが崩壊した。
覚醒したはずの「ドSイケボ人格」が一瞬で吹き飛び、いつものゴミカスメンタルが舞い戻ってくる。
「ひ、ひぃぃぃっ!? ごめんなさいごめんなさい!! 調子乗りましたぁぁぁ!!(裏声に戻って頭を抱える)」
こうして、開き直って「ドSイケボ天使」へと覚醒したはずの彼方未来は、現実の人間関係の圧により、わずか数分で元のクソザココミュ障へと逆戻りしたのだった。
(でも……まあ、配信の中だけなら……イケボで威張ってもいいのかな……?)
僕の、迷走と大バズりの配信ライフは、これからも続いていく。
コメント
1件
都先輩、すごかったですね……! あの爆速マシンガン京都弁で「隠すからテンパる」ってバッサリ切り捨てる感じ、気持ちよかったです。そしてついに未来くんが自らボイチェン切って「俺の時代」宣言……あの瞬間のカタルシス、たまらなかったです。でもラストの現実で秒で逆戻りするところも含めて、この作品の“人間らしさ”が好きだなあ。続き、気になります!