「これくらい全然。ほら、冷めないうちに飲んで?」
「はい、いただきます」
用意されたミルクを入れてカップを手にした私はフーっと冷ましながら少しずつ紅茶を口にしていく。
「そういえば、替えの下着とか、スキンケアグッズが無いよね。ミスったな、コンビニに寄れば良かったね? 今から行こうか」
「あ、それなら私が自分で行ってきます。マンションの隣にコンビニがありましたよね」
「これ飲んだら一緒に行こうよ。俺も買いたい物あるしさ」
「それなら私が買ってきますから杉野さんは待っていてください」
杉野さんに言われて下着やスキンケアグッズ、歯ブラシなど必要な物があった事に気付いて一人でコンビニに行こうとしたのだけど、
「いや、買ってきてもらうなんて悪いよ。小西さんさえ嫌じゃなければ一緒に行こう?」
買って来て貰うのは悪いと言われ、再度一緒に行こうと誘われる。
「嫌なんて、そんな事ないです……」
「良かった。それじゃ、もう少ししたら行こう」
「はい」
こんな事、初めてだった。
うちのマンションのすぐ側にもコンビニがあって、貴哉の煙草が無くなるといつも一人で買いに行かされていた。
それなのに杉野さんは頼むのが悪いだなんて、そういう考えの人もいるんだなと感心するのと同時に、一緒に行こうと言われた事が嬉しかった。
あれから杉野さんと共にコンビニへ行った私は必要な物を買い揃え、ついでに夕飯もという事でコンビニ弁当を買って部屋へ戻って食事を済ませた。
食事を終えてから暫く、お風呂のお湯を沸かしてくれた杉野さんは、
「お風呂、先入っていいよ。疲れただろうからゆっくりしてきて。入浴剤とタオル、それから寝間着になるような服も用意しておいたから」
私がお風呂に入れるよう色々準備を整えてくれた上でそう声を掛けてくれた。
「すみません、わざわざ……でも、私が先に入ってしまっていいんですか?」
「レディーファーストだよ。俺はちょっと仕事のメール返さなきゃならないから気にしないで」
「分かりました、ありがとうございます。それじゃあ、お先にお風呂借りますね」
彼の気遣いに感謝しつつ、私は下着などを持って一人浴室へと向かった。
シャワーを浴びて今日あった嫌な出来事を全て洗い流し、私はお湯に浸かる。
今こうして落ち着く空間に居れば居る程、明日家に帰らなきゃならない事が苦痛で仕方が無い。
だけど、いつまでも杉野さんの家で世話になる訳にもいかない私は溜め息を零した。
(早く、貴哉に離婚を切り出したい……もう、限界だよ……)
そして、ついにはそんな弱音を吐いてしまった私は泣きそうになるのを必死に我慢してお風呂から上がっていった。
「お風呂、ありがとうございました」
お風呂から上がった私は杉野さんが用意してくれた大きめのメンズサイズのTシャツに着替えると、スキンケアやヘアケアを済ませて彼の待つリビングへ戻った。
「小西さん、小柄だからTシャツがワンピースみたいになって良かったよ。流石にズボンは俺のじゃ大きさが合わないもんね」
彼の言う通り、用意されたTシャツは私が着ると少しだけ丈の短いワンピースみたいになっているので、ズボンを履かなくても大丈夫な格好になる。
とは言え太腿が隠れるギリギリのラインなので、普段短いズボンやスカートを履かない私には落ち着かない格好でもあるのだけど、わざわざ新品を用意してくれた彼の厚意を有り難く受けた。
「それじゃ、俺も入ってくるよ。ベッド、シーツとか替えておいたから使って? 俺の事は待ってなくていいからさ。それじゃあ、おやすみ」
「あ、杉野さん、私そこまでして貰うなんて――」
ベッドを借りるつもりが無かった私は彼の言葉に驚いて断ろうとしたのだけど、杉野さんは聞いているのかいないのか、私の言葉を遮る形でリビングのドアを閉めてお風呂に行ってしまった。
「どうしよう……流石に申し訳なさ過ぎる……とりあえず、杉野さんが出てくるのを待とう」
先に寝てて良いと言われたもののやっぱりベッドを使うのが申し訳無いと思う私は、彼がお風呂から上がるのを待つ為にソファーへ腰を下ろした。
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