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「――ん、……小西さん」

「!」

「こんなところで寝てないで、ベッドで寝ないと疲れ、取れないよ?」

「あ……私、眠って……?」


杉野さんがお風呂から上がるのを待つはずが、いつの間にか眠ってしまっていたようで、ベッドで眠るようにと起こされてしまう。


「あ、あの、杉野さん、私、流石にベッドを借りるなんて……」


そもそもベッドを借りるつもりが無い事を伝えたかった私はそれを口にするも、


「遠慮なんてしなくていいよ。っていうか俺からすれば女の子を床やソファーで寝かせて自分だけベッドで寝るとか無理だし。それに、自宅に帰ったら休まらないだろうから、せめて今日ここに居る時くらいはゆっくり休めた方がいいよ、身体も心も」

「……すみません、ありがとうございます。それでは、使わせてもらいますね」


どうにかして私にベッドを使わせたいようで、気遣ってくれる彼の厚意に甘える形でベッドを使わせて貰う選択をした。


「あの、それじゃあ……おやすみなさい」


そうと決まれば早速寝室へ行って寝てしまおうと挨拶をした私がリビングから出ようとすると、


「――小西さん、ちょっといい?」


すれ違いざま、杉野さんに声を掛けられると同時に腕を掴まれた私はその場に立ち止まる。


「はい?」


そして、何事かと思いながら返事を返して次の言葉を待っていると、


「この腕の痣と、太腿の所にある痣、どうしたの?」


私の身体にあった複数の痣が気になったらしい杉野さんがそれについて尋ねてきた。


「あ……、えっと、これは……その、ぶつけちゃって……」

「ぶつけた?」

「はい、あの……私、結構よくそういう事あるんです」

「本当に、それだけ?」

「はい」

「……そっか、気を付けなきゃ駄目だよ?」

「はい、すみません」

「それじゃあ、おやすみ小西さん」

「はい、おやすみなさい」


私の話に納得したらしい杉野さんは掴んでいた手を離してくれたので、挨拶を交わしてリビングを後にした。


痣の事を聞かれた時、一瞬話すべきか迷った。


けど、言えなかった。


言えばきっと、優しい杉野さんはもう家には帰るなと言うに違いないって直感したから言えなかった。


指摘された痣は、本当はぶつけて出来たものじゃなくて、貴哉に殴られた時にできたもの。


あの人は時々暴力も振るう。


しかも、見えないところばかりを狙ってくる。


勿論、この証拠は全て写真に収めてある。


いつか役に立つだろうからと。


本当は、杉野さんに言いたかった。


だけど、今はまだ駄目。


人に迷惑が掛からないよう、一人で新たな生活が出来るくらいにならないと、今日みたいに人に迷惑を掛ける事になってしまうから。


それに暴力を振るうのは日常という訳じゃ無い。


それに気付いたのは不倫の事実を知ってから。


恐らく、不倫相手に会えない日が続いているとか、仕事で上手くいかない事があった時が殆どなのだ。


最近は会いに行く日が殆どだから殴られる事も無いし、きっと大丈夫。


もう少し、出来る限りの証拠を集めて、不倫の事実を突き付けて、言い逃れされないように外堀を埋めていく。


そして、これまで苦しめられた分の慰謝料を沢山貰って、貴哉から離れる。


離婚出来たら、実家とも疎遠になる。


誰にも頼らずに、一人で自由に生きていけるように……。


そう思いながら私はベッドに入り、すぐに眠りについた。

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