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60
#公安
あーむ
185
東京・某所の地下アジト。櫻井里美の冷徹な声が、バルカ共和国の砂漠を駆ける乃木憂助のインカムへと届いた瞬間、モニターのログが一気に加速した。
バルカ警察の監視カメラ、ミリタリー衛星の追跡データ、そして敵組織「テント」のセーフハウスのセキュリティシステムが、次々と別班のコントロール下に置かれていく。
だが、画面を見つめる櫻井の眉が、突如として不穏に跳ね上がった。
「待って……これは、トラップ?」
画面に表示された潜入ポイントの熱源反応が、想定よりも「多すぎる」のだ。
突如、ノイズ混じりの音声がインカムから爆発的に弾けた。
「……こちら乃木! 櫻井さん、罠です! 東条のハッキングは、最初から敵のサイバー部隊に読まれていました。……くっ、囲まれた……!」
銃撃戦の激しい爆音が、数千キロ離れた東京のアジトに生々しく響き渡る。モニターのバイタルデータを示す波形が、乃木の心拍数の急上昇を告げていた。
「乃木! 応答しなさい、乃木!」
櫻井が叫ぶ。その時、彼女の背後の暗闇から、カチリ、と硬質な金属音が響いた。
「そこまでだ、櫻井司令。別班の命運も、ここで終わりだな」
振り返る櫻井の視線の先にいたのは、日本政府の要人であり、別班の防衛省内における協力者だったはずの男――長谷川だった。その手には、冷たい黒光りを放つ自動拳銃が握られている。
「長谷川……。あなたが、モニター(協力者)の顔をした『テント』の裏切り者(テント・スパイ)だったのね」
櫻井は微動だにせず、冷徹な眼差しを長谷川に向ける。長谷川は不敵な笑みを浮かべた。
「乃木憂助はバルカで処分される。そして、別班の全データが入ったその胸元のSDカードは、私がいただく。日本を真に変えるのは、お前たちの生ぬるい正義ではない。テントの理念だ」
「生ぬるい、か」
櫻井の唇が、わずかに吊り上がった。それは、絶体絶命の状況に追い詰められた人間の顔ではなかった。
「長谷川さん。あなたほどの切れ者が、なぜ気づかなかったのか不思議でならないわ」
「何だと?」
「別班が……これしきのハッキングで、敵の裏をかけると本気で思っていたの?」
その瞬間、櫻井のデスクのモニターが赤くフラッシュし、バルカの映像が一変した。銃撃の音がピタリと止む。画面に映し出されたのは、拘束されているはずのテントの幹部たちと、その中央で平然と銃を構え直す乃木憂助の姿だった。
インカムから、乃木の「もう一つの声」――冷酷で傲慢な別人格、F(エフ)の狂気じみた笑い声が響く。
『おいおい、間抜けな裏切り者さんよぉ。引っかかりやがったな。長谷川、お前がテントと繋がっている証拠を掴むために、わざとハッキングを検知させて、俺が追い詰められたフリをしたんだよ。バルカ警察も、テントの連中も、最初から俺たちの”チェス盤”の上だ』
「な、何……!? 乃木、貴様……!」
長谷川の顔から血の気が引いていく。
『櫻井さん、そっちのネズミの駆除、お願いします。……あ、それと』
乃木の声が、いつもの大人しいトーンに戻る。
『長谷川さん。あなたが握っているその銃、弾倉(マガジン)を抜いておきました。昨夜、あなたのご自宅でお会いした時にね』
長谷川が驚愕して手元の銃の底を見る。確かに、マガジンキャッチが外れ、弾倉は空だった。
「お前たち、最初から……!」
長谷川が叫ぶよりも早く、部屋の扉が激しく蹴り破られた。突入してきた別班員たちによって、長谷川は一瞬で床に組み伏せられ、拘束された。
静寂を取り戻したアジトで、櫻井は深くため息をつき、胸元ポケットのSDカードに触れた。これには最初からデータなど入っていない。長谷川の目を引きつけるための、ただの『囮(デコイ)』だ。
「……相変わらず、人使いの荒い作戦を立てる男ね、乃木」
櫻井はマイクに向かって、司令としての厳格な、しかしどこか安堵を含んだ声で告げた。
「任務完了よ。これより撤収し、日本への帰路につきなさい。……我が国を守るために」
バルカの砂漠の向こうから、乃木の静かで、しかし揺るぎない声が返ってきた。
『了解(シュハール)。……皇天親に無し、ただ徳を是れ輔く。日本(ひのもと)で、またお会いしましょう』
モニターの光が、影に生きる者たちの誇りを、静かに照らし続けていた。
コメント
9件
F *ck
まさかな
おお、第2話読んだわ!これは痺れる展開やった🔥 乃木くんのフリ作戦、まんまと嵌めたのが気持ち良すぎる。最初は追い詰められたふりして、実はチェス盤の上で動かしてた側だったってのが痩せ我慢じゃなくてちゃんと勝利に繋がってるのが良い。特に長谷川の銃の弾倉抜いてたってオチ、ニヤリとしたわ。性格変わると口調もガラリと変わるFとの切り替えもキャラの立たせ方上手いし、櫻井さんとのコンビも安定の信頼感。 続き待ってるで🔥