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「タバコ吸いに行ってくるわ〜」
撮影の休憩中に外に出る。
いつもはヴェノムとタバコを吸いに行くが、今日は休みのため俺一人。
しばらくタバコを嗜んでいると、一人の男が顔を出す。
「kunさぁ〜ん!一人じゃ寂しいと思って、ちしょうひまじん、馳せ参じましたぁ〜!」
ヘラヘラと軽口を叩く男は、先日俺の彼氏になったひまじんである。
まぁ、彼氏と言っても夜はかわいいんだけどね。
そんなことはさておいて、タバコのひとつも吸わないこの男は一体何をしに来たのか。
相変わらず笑顔を絶やさないひまじんに、訝しげな眼差しを向ければ
「ちょ、そんな顔せんといてくださいよ〜!別に特に用はないっす!強いて言うならタバコ吸ってる姿見に来ました!」
だなんてのたまう。
特段話すことも無く、無言でタバコを吸う俺と未だニコニコしているひまじん。
……これは、俺が話題を作った方がいいのか?
そんな考えを巡らせていると、ひまじんが口を開く。
「ねぇkunさん、俺も吸ってみたい」
あまりにも唐突すぎて、一瞬返す言葉を失う。
「っえ、あ、あぁ、いいけど」
何とか平静を装い持っているタバコを渡すと、違うとばかりに首を振る。
じゃあなんだと聞けば、指した先はタバコの箱。
「新品がいいの?」
「そうです!その通り!やってみたいことがあって」
別に新品をねだられても困らない懐事情ではあるので、特に渋ることも無く渡す。
「で、何?したいことってーーーー
スッ
顔が近づく。
言葉の通り、目と鼻の先にひまじんがいる。
やっぱりこいつ、顔がいいんだよなぁ。
ふとそんな、今考えること?みたいな考えが脳を通過する。
理解不能なことがあると、人間って本当に思考回路が飛ぶんだね。
俺のタバコから火を貰って、そのまま吸って、失敗したのかげほげほと涙目になっているひまじんが、まるで背景のように感じる。
「やっぱ不味いっすわ〜!ありがとうございました!」
立ち尽くす俺に、タバコの火を消しそそくさと去っていくひまじん。
声をかけることもできず、その後ろ姿をボーッと眺めることしかできなかった。
「……〜ん?kunさん〜?」
気がつけば目の前にはDD。ずっと声をかけてくれていたのだろう。少し心配そうにこちらを見ていた。
「……ぁ?何?なんかあった?」
「いや、戻ってこないなと思って見に来たんだけど、声掛けてんのに全然反応無いから」
無事ならいいんだ〜、と再び中に戻っていく。
手元には火傷しそうなくらい小さくなったタバコ。
慌てて消しながら、先程の光景を思い浮かべる。
「あいつ、どこであんなこと……」
タバコからタバコへの火移し。
世間では【シガーキス】と呼ばれている行為。
えっちじゃんと思っていたけれど、実際にされてみると破壊力が違いすぎる。
へなへなとその場にへたりこんだ時、思い出したひまじんの後ろ姿。
「……あいつ、耳もうなじも真っ赤だったじゃねぇかよ……」
むせたからとか、なれないタバコに緊張してとか、問い詰めた時に言い出しそうな言葉を思い浮かべながら、ニヤける口元を手で抑える。
「覚えてろよ」
やられっぱなしは性にあわない。
さぁて、撮影が終わったあとが楽しみだなぁ。
ねぇ?ひまじんさん。
本人には届かない、悔しさと欲の入り交じった言葉を吐き捨て、俺は撮影に戻る。
「よーし、撮影再開するぞー」
ちょっとときめいてしまったことは、ここだけの話。
シガーキスなんて柄じゃないだろ