その日の大学の講義は全サボり。まだ日が出ていない暗い空の中家を出る。
朝早くだというのに父が車で空港まで送ってくれた。
僕は父の運転する車の後部座席でキャリーバッグと共に眠った。
ボヤァ〜っと目が覚め、辺りを見回す。ひさしぶりに見る景色だった。
空港付近の入り組んだ道。空を見るとまだ日は出ておらず暗かった。
「もう着くぞー」
「ふぁいあい。ありがとうございます」
入り口付近に車が停まる。車のドアを開ける。
「朝早いのにすいません。ありがとうございます」
「いいのいいの。じゃ、くれぐれも気をつけるように」
「はい。気をつけて楽しんできます」
「あ」
とだけ言って父が助手席の財布を手に取って、財布の中から2万円を出して僕に差し出す。
「え、足りてるからいいよ」
と言うと
「北海道土産、家族で楽しみにしてるから」
と満面の笑みで言われた。
「う、うっす」
と言いながらその2万円を受け取る。
「あ、足りなかったら使っていいからな」
と言われ、お土産代というのは建前で、思う存分遊んで来いというメッセージが込められているのだと思った。
父さん…カッケェ〜
と思った。そんなカッケェ父に手を振る。車で華麗に去っていく。
空港内にキャリーバッグをガラガラひきながら入る。
朝一番の飛行機に乗るというのと、平日ということだけあり、人はまだ全然いない。
すぐに鹿島と音成がいることに気づいて合流する。
「おはよーございまーす」
「おはよぉ〜」
「おはー」
2人ともまだ眠そうだった。漏れなく僕も。ピカピカに磨かれ、ライトが反射する床。
普通の飲み物の自動販売機の横にお菓子の自動販売機も置いてある。
空港でしか見ない1席1席が独立しつつも繋がっている長椅子。鹿島は今にも寝そうな目をしていた。
もちろん僕も眠かったが空港独特の雰囲気にどこか緊張感を感じていた。
しばらくして妃馬、森本さん、匠も現れ、搭乗手続きを済ませて飛行機の見えるロビーに入る。
「飛行機だー」
「空港って感じだな」
「眠すぎる」
「わかる」
「コーヒーとかなんか買う?」
「ま、飲み物買おか」
と売店で飲み物を買い、空港でしか見たことない長椅子に座る。
飛行機への搭乗が始まり、飛行機の中はなんとなく空気が良くないような
圧迫感があるような、飛行機内独特の匂いがし、少し嫌だったので
搭乗が始まってすぐには乗らず、少し時間を置いてから乗った。
女子陣、男子陣で分かれて乗った。僕は窓側の席に座らせてもらった。
堅いと柔らかいとも言えない椅子座る。席に座ってまずなんともなしに窓の外見る。
ただの空港。すぐに視線を外し、お次はなんともなしに前のシートの背の網の部分に入っている冊子を見る。
緊急時の酸素マスクの付け方などが買いてある。
その他にも行き先の北海道のおすすめの料理、おすすめのスポットなどが書いてあった。
あくびが出る。めちゃくちゃ眠い。
「当機は羽田発、新千歳空港着の飛行機となります」
とどこか少し音質の悪いようなアナウンスが聞こえてくる。
「飛行機だねぇ〜」
「ね。はぁ〜…はっ…ふぁ〜ふ」
「匠ちゃんあくび感染(うつ)…はぁ〜…」
匠があくびをして鹿島に感染る。その鹿島を見ていたら
「あぁ〜…」
僕にも感染った。
「寝よ」
「賛成」
ということで寝ることにした。しかし飛行機のエンジンが元気になり始め、ゆっくりと飛行機が移動を始めた。
なんとなく離陸して安定するまで寝れれない。しかし寝れるかもしれないの一応目を瞑っておく。
ポンッっという優しくも耳に響く電子音がする。
「皆様にご案内致します。当機はまもなく離陸致します」
この電子音にこの音質が少し悪いアナウンス。これを聞くとまだなのに、もう耳が詰まった感覚になる。
しばらくすると飛行機がゆっくりと回転する感覚がする。そして一度止まる。
かと思ったらエンジンが限界なんじゃないかと思うほどフルスロットルのエンジン音を響かせる。
すると先程のゆっくりさとは比べ物にならない速さで飛行機が走り出す。シートの背もたれに押しつけられる。
しばらくその速さで走ると機体が傾くのを感じ、浮遊感も感じられた。飛んだ。
と思うとすぐ耳が詰まったので一生懸命唾を飲んで耳抜きをする。
チラッっと目を開けて窓の外を確認する。飛行場が下の方に見えた。完全に飛んでいた。
まだ少しシートに押し付けられるような感覚がある。もう少ししたら飛行機が平行になって
落ち着いたところで本格的に寝よう。なんてあくびをしながら考えていると
いつの間にか眠ってしまったようで、ポンッっという優しくも耳に響く電子音で目覚める。
「皆様にお知らせ致します。新千歳空港まで残り30分ほどとなりました。
只今の空港周辺の天気は晴れ、気温はマイナス2°」
というアナウンスで鹿島も匠も起きたらしく横でモゾモゾし始める。
「マイナス2°って言ってた?」
鹿島が細い目で僕に聞く。
「言ってたね」
「さーむー」
「キャリーからダウン出さないとな」
「それな」
そんな話をしながら、体が固まったようなので解すように
首を傾けたり胸を張ったり腰を回したりする。至るところの骨がポキバキ鳴る。
「皆様着陸体制に入りました」
というアナウンスに
「お。もうそろそろ着くな」
「まずは?レンタカー?」
「レンタカーは空港まで来てくれるらしい」
「おぉ親切設計」
「で最初どこ行く?」
「とりあえず移動かな。だから怜ちゃんはまた睡眠時間だね」
「北海道でけーもんな」
「とりあえず札幌に行って、またそれから考える。てか移動時間で決めちゃうかもだけどおけ?」
「おけおけ。良いとこ決めちゃって」
「任された」
シートベルトを改めて確認するようアナウンスされ、念のため一応シートベルトを触る。
しばらく鹿島や匠と話をしてチラチラ窓の外を眺めると
白銀の地面がどんどん近づいているのがわかった。体がバウンドするように少し振動がして
「皆様、只今新千歳空港に着陸致しました」
というアナウンスが流れ、鹿島も匠も僕のほうに首を伸ばし3人で窓の外を見る。
「寒そー」
「ダウン必須」
「皆様大変お待たせ致しました。携帯電話やタブレット端末など
お忘れ物のなさいませんようお降りください」
というアナウンスが流れ、席を立つ。匠が上の荷物入れから僕たちのキャリーバッグを出してくれて
鹿島は女子陣のキャリーバッグを出してあげていた。飛行機の出入り口から通路を進み空港内へ。
空港内はさすがに暖かくなっており、石油ストーブの香りが漂っていた。
「あぁ、この匂い」
「あ、わかる。卒業式ね」
「そうそう」
「うちもこの匂いしたわぁ〜」
「うちもしたよ。ね、サキちゃん」
「あぁ、後ろのほうにストーブあったね」
「中学もこの匂いした気がする」
「してたしてた。中学もしてたな」
懐かしい匂いの中空港を歩き、ゲートを潜って外に繋がる出入り口が見えた。
いかにも寒そうで全員漏れなくキャリーバッグからダウンジャケットを出して着た。
匠だけダウンジャケットではなかった。
なんで?と聞くとダウンジャケットは着膨れしてオシャレじゃないかららしい。
自動ドアを二箇所通過すると一気に寒さ襲ってきた。
「さっ…」
顔が凍るほどすぐに冷たくなる。手をダウンジャケットのポケットに突っ込む。
「車車ー…、あ、あそこだ」
鹿島が駆け寄る。キャリーバッグのガラガラが響く。
「すいませんわざわざ」
など車を持ってきてくれた方にお礼などを言い車を引き継ぎ
キャリーバッグをトランクに入れて車に乗り込む。
「札幌札幌ー…っと」
「案内を開始します」
ナビの声がして
「出発…進行ーー!!」
「「イエーイ!!」」
と全員で手を突き上げた。妃馬と僕は一番後ろに横並びで座った。
「あ、怜ちゃん妃馬さん」
「ん?」
「はい?」
目を瞑ったまま答える。
「大体1時間くらいで着くから」
「なるほど。りょーかい」
「わかりました。ありがとうございます」
「うっす。んなら行くぞー」
車が動く感覚がある。
「京弥気をつけてよ?北海道って信号ない一本道ってスピード出し過ぎるのあるあるらしいから」
「ん。わかった。一応気をつけるけど、ふーも一応メーターちょくちょく見といて」
「しゃーないな」
仲良いな
と心の中でニヤつく。妃馬の頭が僕の肩に乗っかる感覚がある。ダウンジャケットの擦れる音がする。
分厚いダウンジャケットのせいで妃馬の頭の重さが少ない。少し寂しい感覚もあったが
ダウンジャケットがいい枕になっているだろうなと思った。
僕は妃馬の頭を枕として使わせていただく。妃馬の髪のシャンプーの香りがする。
未だにこの匂いを嗅ぐとドキドキする。
「たっくんこの間のロナン見た?」
「見た見た。nyAmaZonプライムでも今、シーズン3いったね」
「おぉ!いってるね!」
「え、なに、もしかして匠ちゃん、ロナン1から見てんの?」
「見てるよー。意外と知らないでしょ。ロナンの第1話」
「え、あの薬で小さくされた話でしょ?」
「そこだけなんだよねー有名なの。ね、恋」
「そそ」
「てか京弥ロナン1から見てんの?でビビってたけど
もっさんが好きなアーティストの曲、極力全部聴くようにしてるって言ってたじゃん」
「おい!言うなよ」
「そーなの?」
「しまくんやるねぇ〜」
「あと焦らないで?危ないから」
「それ匠ちゃんに言ってくれる?焦らせないでって」
「ごめんごめん」
「で?なに聴いてんの?」
「え?いやいろいろと」
「たとえば?」
「ずっと頑張ってたってめっちゃ推してたISAとか」
「おぉ〜1 Sturdy arrowsをISAと略すとは京弥なかなか」
「いい曲ばっかでオレもハマっちゃってさ
あとCassos take ALLのライバルって言われてるJEWELRY BOYSとか」
「はいはい。恵まれてるのに恵まれてないグループね」
「あとはIKYKYとか」
「はいはい。ストイックな」
「カッコいいよね。SNSもやってない。MyPipeもやってない。
顔で売れたくないから顔出しもしてない。…まあ裏を返すと顔で売れたくないってことは
相当のイケメンなんだろうなってどんだけ自信あんだよって思うけど」
「それは私も思った」
「話してると聴きたくなるな。ふー、音量小さめでなんかオススメ流して」
「りょー」
「音楽だけじゃなくて芸人さんの動画も見てるって」
「おい、言うなぁ〜」
「お、双子」
その後寝ている妃馬と僕に気を遣ってくれて小さめのボリュームで曲が流れる。
聴いたことある曲もあったが、聴いたことない曲も多くあった。でもみんないい曲だった。
誰の曲なんだろう?とかみんな仲良くなったなとかを思っていると、いつの間にか寝てしまったようで
「お2人〜」
という声で目を覚ます。
「とりあえず札幌テレビ塔の前の大通公園に来てみました」
「とりあえず車停めてそこら辺歩いてみる?」
ということで車を駐車場に入れて、大通公園をぶらぶらしてみることにした。
札幌テレビ塔、高さ147.2メートルの大通公園内にある札幌市の中央の電波塔である。
その前の大通公園はよく冬のニュースで見かける「札幌雪まつり」の会場でもある。
その大通公園は思ったより雪が少なかった。まあ、その「札幌雪まつり」では
綺麗な雪を他の地域から持ってくるのだろうが、さすがは北海道。
めちゃくちゃ白銀の世界で雪が少なかろうがめちゃくちゃ寒い。
「これさぁ〜お散歩ーとか言って歩ける寒さじゃなくね?」
「それな」
「とりあえずホットの飲み物買お」
みんなポケットに手を突っ込み
縮こまりながら鹿島の後を子どもの頃の電車ごっこのように一列で着いて行って
カフェに入った。店内はさすがに暖かかったが、胃までもが冷えてる気がしたので
体の芯から温まるため、全員ホットの飲み物を頼んで席についた。
「これからどうしますか…。…あっ…たけぇ〜…胃があったまるわ」
「どうしよっか」
時間を確認する。9時27分。
「まだお昼には早いし」
「とりあえず写真でも撮る?札幌テレビ塔で」
「いいね。ちゃっちゃと写真撮って車に移動しよう」
正直車は嫌だなと思った。
「あれ?時計台って近くだっけ?」
「あぁ、そうか。フォトスポットとしては押さえておかないと」
「時計台時計台…車で2分。徒歩4分」
この寒さで恐らく全員徒歩4分のところを車で2分で行くことを考えたと思うが
「歩きだね」
「歩こー歩こー」
と歩いて行くのに決定した後
飲み物をゆっくり飲んで、暖かい店内から意を決して寒い外に出た。
また鹿島を先頭に子どもの頃の電車ごっこのように一列になって大通公園へと戻った。
写真どう撮ろうかと話していると
「写真っすか?撮りましょうか?」
と制服の高校生であろう男の子が話しかけてくれた。
「あ、じゃあお願いしてもいいっすか」
「あ、全然いいっすよ。テレビ塔入れてって感じっすよね?」
「あ、はい。お願いします」
「りょーかいです」
と言って鹿島がスマホを渡し、その男の子に撮ってもらうことにした。
「じゃいきまーす」
パシャ。パシャ、パシャ。3回撮ってくれた。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
と爽やかな笑顔で去って行った。
「薄着じゃね?」
「まあ薄着ってほどじゃないけど、東京の冬場の高校生と変わらないくらいだったね」
「なまらめんこい北海道のギャルも割と薄着だったなぁ〜。鼻赤くして、ミニスカで。
でもあれもハーレム臭いんよなぁ〜。
あのストーリーありきであの子たちが生まれたから全然好きではあるんだけど。
全員幸せになってほしいからやっぱハーレムものはなぁ〜。みんないい子たちだし」
とぶつぶつ呟く匠をよそに、写真確認し終えてお次の時計台へ向かった。
また鹿島を先頭に子どもの頃の電車ごっこのように一列で歩く。
「ねえ君たち」
「はい?」
「ん?」
「オレを風避けにしてるでしょ?」
「してないしてない」
鹿島が曲がる。今まで正面から吹いていた風が横からあたる。寒い。
「ちょ京弥、もっかい曲がって」
「やっぱり風避けにしてるじゃん」
「違うから。グリクエ(グリフォン クエストの略称)ごっこだから」
なるほど。たしかにグリフォン クエストといえば、未だに仲間を引き連れて歩き
曲がるときも直角に曲がるというドット絵の頃のゲームのイメージが強かった。
「じゃあ曲がるときも直角に曲がりますので」
鹿島を勇者と見立てた勇者御一行が時計台まで一列で歩いて行った。
しかし思い描いていた札幌時計台とは少し違い、道路に面していて、写真は撮りづらかった。
しかし記念ということで下のほうから煽り角度で時計台が入るように写真を撮った。
その後一旦旅館へチェックインしに行った。さすがに札幌や旭川、函館は都会で旅館やホテルは値段が高く
僕たちの立てた計画上の予算には合わなかったので、匠のおすすめの少し地方の旅館へ行くことになった。
車で約1時間。妃馬と僕は寝ていてあっという間に着いた。
少し小高い丘の上にある旅館で老舗という感じだった。
音成と匠がトランクからキャリーバッグを出してくれて、全員揃って旅館へ入った。
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