テラーノベル
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しめさば
於田縫紀
#主人公最強
歌と踊りが溢れる大きなステージに対して、謎の盛り上がりを見せ始める小さなステージ。
一体何をやっているんだろう?
全員をぞろぞろと連れて見に行ってみると、そこでは――
「うでずもう」
……を、していた。
屈強の男たちが誇りを懸けて競い合う、シンプルな戦いだ。
「――あ! アイナさんだ!」
「どうもー」
職人さんたちとは、基本的にはどこかで1回は会っている。
受け入れ試験のときと、それ以外にも大体はどこかで話くらいはしているのだ。
「もしかしてアイナさんも、腕相撲に参加するんですか!?」
「おお、神器の力士!」
……そこ、変なふたつ名を付けるのは止めなさい。
「あはは、さすがに腕相撲は負けますよ。
それにみなさんも、私が相手だったら本気を出せないでしょう?」
「いやいや、こう見えて……実は?」
「英雄ディートヘルムを倒したくらいですからねぇ……」
神器――……神剣カルタペズラが消滅したことは、『世界の声』で知られている。
だからこそ、その剣を持つ英雄ディートヘルムを私が倒したという話は、信憑性を持ってしまっているのだ。
「まぁまぁ、とにかく腕相撲なんて無理ですよ。
見てください、この腕の太さ。全然違うじゃないですか!」
「ははは、こちとらこれが商売ですからね!」
「まったくですよー。
……ん? そういえばルークって、腕相撲は強いの?」
「私ですか? ほどほどにはいけると思いますが、そこまで力が強いというわけでもありませんので……」
……確かにルークはパワータイプというよりも、バランスタイプな感じがする。
ジェラードはスピードタイプって感じかな?
武器でがっちり組み合えばルークの方が強いけど、組むまではジェラードに分がある――みたいな。
「ルークさん、腕相撲に参加してみましょう!」
「お兄ちゃん、頑張るの!」
「ふむ、良いところを見せるのじゃぞ!」
「えぇ……?」
エミリアさんとリリーとグリゼルダに、突然無茶な要求をされるルーク。
でも私たちの中では一番強そうだから、ここは是非とも参加してもらおう。
「はーい、ルークが参加しまーす! よろしく!!」
「ちょっ、アイナ様!?」
「良いから良いから!
負けても全然、問題ないから! ね?」
「は、はぁ……」
私の後押しで、ルークはようやく参加を決めてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――勝負とは言っても、お祭りの中のひとつの余興である。
賞品はあるものの、そこまでルールは厳密なものにはなっていないようだ。
8人集まるたびにトーナメント方式で戦い合い、その優勝者が王者となる。
王者になったあとは、次のトーナメント戦の優勝者と戦い、勝てば防衛、負ければ陥落……といった具合だ。
王者は王者で、一勝するたびに賞品が出るらしい。
そしてルークはあれよあれよと決勝に進出。
今やっているのがトーナメントの1回目だから、ここで勝てば初代王者になる、というわけだ。
しかしその相手というのが――
「ママー、あの人、大きいのー」
……リリーの言う通り、身長が2メートルもあろうかという大男だった。
腕もかなり太く、1回戦、2回戦と圧倒的な差で相手を叩き潰してきたのは記憶に新しい。
というか、ついさっきだし。
「大きいねー……。
ルークも私と比べれば大きいけど、あの人と比べればルークも小さいね……」
「あ、始まりますよ!」
「――レディ……ゴーッ!!」
審判が合図をすると、ルークと大男はそれぞれ腕に力を込めた。
大男の方は少し余裕があるようで、ルークの全力を受け止めているような状態だ。
「むむ……むむむっ!!」
ルークはルークで全力を込めて、大男の腕を制そうとしている。
……でも、これはさすがに難しいかなぁ……。
私が何となく心の中で諦めかけていると、ルークの腕も徐々に倒されてきてしまった。
「アイナさん、ここは応援ですよ!」
「へぁ? 応援ですか?」
「そうですよ! アイナさんの応援があれば、ルークさんは絶対に勝ちますから!」
「え、えぇー……?」
「ほら早く! 負けちゃいますよ!」
改めて言われると、何だか照れくさいけど――
……まぁお祭りだしね。少しくらいなら気にしない、気にしない!
「ルーク!! 負けないでっ!!!!」
「はいっ!!!!!!!!」
「う……うぉっ!!?」
バターンッ!!
突然のルークの反撃に、相手の大男は身体を取られ、そのまま体勢を崩して倒れてしまった。
大男の手の甲が台に押し付けられ、負けの条件を満たしている。
「……おぉ!? ルーク、凄い!!」
ルークは大男を引き起こしてから、軽く深呼吸をした。
「アイナ様の応援のおかげで、勝つことができました!」
「おめでとう! 私の応援っていうのも、言い過ぎだと思うけど!」
「えぇー、どこかですかー。
どう見ても、アイナさんの応援の効果だったじゃないですかー!」
エミリアさんはにやにやしながら私に言ってくる。
状況証拠的にはそうなんだろうけど……、自分からはなかなか、はっきり言えるものでも無いからね……。
「お兄ちゃんが勝ったのは、ママのおかげなの?」
「うむ、その通りじゃぞ。誰かの応援があれば、人は強くなれるものなのじゃ」
「ふーん、そうなんだー」
さり気なくグリゼルダがちょっと良いことっぽいことを言った。
リリーは素直に、その言葉を受け止めている。
「ふ……。負けたぜ、さすがアイナさんの騎士だ……」
大男はルークの手を取り、高々と宙に掲げさせた。
……何これ。ボクシングの決着後のシーン?
「優勝おめでとうございます!
初代王者は、なんとアイナさんの守護者、ルークさんでした! おめでとうございまーす!!」
審判が改めて告知すると、周囲は再び盛り上がりを見せた。
まぁまぁ、お祭りだからね。ここは素直に喜んでおこう。やったー!!
「つきましては優勝の賞品を贈呈いたします!
これは凄いものですよ! ななな、なんと――」
なんと――!?
「神器の魔女、アイナさんの手作りポーションだああああああぁっ!!!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおぉーっ!!!!」」」」」」」」」」
審判が大声を上げると、周囲の声もヒートアップしていった。
何せ、賞品は私作のポーション!!
……えぇー? そんなのなのー?
「いやいや、アイナのポーションは貴重品じゃからな?」
私の表情から察したのか、グリゼルダがフォローをしてくれた。
「あぁ……、そういえばそうでしたね……」
ルークに贈呈されたポーションは、中級ポーションだった。
さらにいつもの通りS+級だから、金額的にはそこそこするだろう。
そう考えると、こういう場の賞品としてはとても良いもの……なのかな。
でも中級ポーションくらいなら、仲間にならいくらでも作ってあげられるから――
……ルークがこの場でもらうというのも、やっぱり何だか微妙というか、何というか。
ちなみに王者防衛戦の1回目で、ルークは見事に負けてしまった。
腕の太さとか、全然違ったからね。これはもう仕方が無いね。
……私が|余所見《よそみ》をしてて、応援できてなかったせいじゃないんだからね。
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