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あるところに小さな島国がありました。戦い一つない平和な国で、心優しい王様と、王女様が国を治めていました。
ある日のこと。二人は子供を授かりました。元気で可愛らしい男の子です。喜んだ二人は、子供にたくさんの愛と知識を与えました。心優しい二人に育てられた男の子も、当然心優しく、次の王に相応しい人間へとすくすくと育っていきました。
やがて王子様は7歳になりました。7歳になった王子様は、日々、勉強も運動も、そして遊ぶのも、精一杯頑張りました。そんな日の事です。
ある日、王子様は一人で広い庭で遊んでいると、奥の暗い茂みに何かいる気配を感じます。不思議に思った王子様がその茂みのところへ行き、そっと覗くと、そこには傷ついた竜が横たわっていました。
初めて見る竜に、驚いてじっと見つめる王子様。その視線に気がついた竜は、苦しそうに立ち上がると王子様を睨みつけます。しかし、立っているのもやっとのようで、体がふらついています。
その様子を見て、不憫に思った王子様は、城の者たちには内緒で、看病することにしました。
体を布で拭いて、綺麗な包帯で巻いてやり、厨房からこっそり肉やミルクを取って来たり。
最初は警戒して牙や爪を見せつけていた竜ですが、繰り返ししているうちに、やがて自分を手当てしてくれているのだと気がつくと、そっと目を閉じて、王子様に体を委ねました。
王子様が看病を続けて半年。王子様の看病のおかげで竜はすっかり元通りになりました。前までふらついていた脚も、もう大丈夫。今では勇ましくピンと立っています。
「良かった…。もう君は自由だよ。」
王子様は愛おしそうに竜の顔を撫でていいます。
すると竜は、王子様の袖を少し噛み、くいくいと引っ張ったのです。
王子様が首を傾げると、竜は自身の背中に乗れと言わんばかりに、目や仕草で訴えかけてきました。
その様子に王子様は少し悲しそうに目を伏せて言いました。
「ごめんね、ボクには国を守る使命があるんだ。キミと一緒には行けない。」
それでも竜は諦めません。さっきよりも力を強め、乗れと言ってきます。
王子様はクスリと笑うと、竜を撫でてこう言いました。
「遠い未来。もしボクがその役目を終えた時、キミがまだボクの事を覚えていたら、その時はまたキミが迎えに来てくれ。」
約束…。そう言って王子様は竜の額に優しくキスを落としました。
竜はその姿を大きな目でジッと見つめると、鼻をフンッと鳴らし、閉じていた翼を広げます。そしてバサッ!と音を立てて飛び立って行きました。
「…またね。」
王子様の小さな声は、優しい風と一緒に、竜の背中を押すように舞い上がりました。
…十年後。
今日は戴冠式。王子様が冠を受け取る日です。国中がお祝いをし、お祭りのように賑やかで楽しい時間が流れている。そんな時でした。
一匹の大きな竜が、やって来ました。
「王子を大人しく引き渡すか、国が滅ぼされるか。選べ。」
大きな竜の一言は、楽しい時間をあっという間にぶち壊しました。
竜に囚われた王子様。竜の住む暗い暗い巣穴で、もう会うことが出来ない親や、国民、国を案じます。
竜は王子様の体に、長い首を巻きつけて言いました。
「もういいじゃないか。お前は役目を果たしたんだ。お前は自身の全てを捧げて、国を守った。英雄だ。それでこそ王だ。これはお前にしか出来ない。お前しか国を守れなかったんだ。名誉あることじゃないか。お前は充分使命を果たした。」
王子様は応えませんが、竜は続けます。
「なぁ?使命は果たしたんだ。なら今度は約束を守って貰わないと。」
「さぁ早く体を拭いてくれ!爪も伸びてきた!手入れをしてくれ!!翼の付け根も飛び過ぎて疲れたんだ!早く揉んでくれ!」
「覚えているだろ?あの時間を!!あの時間は本当に最高のひと時だった!!十年も待ったんだ!さぁ!さぁ!!早く早く!!!!」
「お前はもう王子じゃ無くなった!!オレのモノになったんだ!!これからはオレの為に全てを捧げるんだ!!」
「”お前はもう人間じゃなくなった”!!”こっち側になった”!!このオレと共に、永遠を生きよう!!」
…暗い暗い谷の底。深い霧が立ち込めて、ひとっこひとりいない森。その奥の巣穴で、今日も王子様は、竜にその身を捧げます。限りなく永遠に近いこの命が、竜と共に果てるまで…。