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火を囲み、一団は食事を摂る。食事を摂るものの中心に置かれた焚き火は朝日に光量が負けているのか少し炎が見えづらい。
「今日の段取りを発表する。食事組は食べながらで良いから聞いてくれ。」
見張りに回された大柄の男と斧をもった女が目線を向けてから目線を集団の外側に向ける。
「行軍全体のうち通信が可能で行軍を続けている隊は残すところ我が16小隊を含めて4隊となった。」
食事をとっている者の手が少し止まる。やはり、と言うべきか良いニュースではないために顔は暗い。尤も、この状況で明るい顔をしているとしたら敵の間者を疑いかねないが。
「我が隊も2人の脱落者を途中で出したからには万全の状態とも言えない。だが、これまで接敵した魔物も設定目標の2級以下だったことも鑑みると運が良かったとしか思えない。」
「…なぁ、これは独り言として聞いて欲しいんだが、良いか?」
「何だ、ハルマンザット。」
小柄で筋肉質の男がスープを啜りながら話す。髭が顔を覆っている為に20にも80にも見えるが髭を顎の部分で編み込んでいることを見るに少なくとも青年ではないとわかる。また、筋肉の筋に紛れた傷は男の尋常ではない戦歴を物語っていた。
「おかしいと思わないか。俺たちが向かっているのは異形どもの総大将の寝座だ。世襲であるが魔族を束ねる長だ。大隊を出したものの、到達できるかどうかという作戦とも呼べないモノだったわけだが…敵を目前とした時に4隊が到達しようとしている。」
ハルマンザットは穴のほとんどないパンを千切ってスープで流し込む。
「それも正規軍ではなくギルドや何かのヤクザものの寄せ集めの軍でだ。ほとんど大隊として機能していないたかだか2,300人の下にわざわざ小隊を設置するような馬鹿の見栄っ張りが考えたような軍だ。昨日だってたった30の下級兵の一団に苦労させられたのは今までウアンスが暗視の陣を組み上げてこなかったからだ。」
闇討ちは奇襲側に圧倒的な利点がある。兵数差が勝っていれば尚更のことである。さらに言えば異形の中には体構造そのものが闇に向いたモノもいるが昨晩の襲撃隊の中にはそんな異形は一体もいなかった。
「前置きはいい、個人の所感でいい。行動指針がお前の中では組み上がっているのではないか?」
残ったパンを全てスープの中に千切り入れ、飲み干す。
「捨て身の攻撃や極端な消耗を前提とした行動は避けるべきだ。この手合いは自身をも捨て駒にするようなやつだ。王であるはずの者が流れの傭兵のような精神構造をしている。どうもおかしい。新しく魔王が誕生しているか或いは他の目的があるはずだ。」
皆、驚いた様子はない。
「アックセントルかピキントル。一時交代だ。どっちか飯を食え。」
見張りのうち大柄な男が顎をしゃくって斧を携えた女に食事の番を譲る。
「ありがと、ピキント」
女は両手の手斧を腰の装具に引っ掛け、焚き火を囲む一団に加わった。
「ともかく、ハルマンの言うとおり、警戒は必須だ。今日はいつもより進む距離を減らしてから早めに野営、休息を多めに取ってから取ってあった回復石を使用して急襲する。これは最初の計画からは変わらない。以上。」
言い終わった直後、書いてあった紙を丸め、懐から出した石と共に焚き火に投げ込む。一瞬の閃光と共に上と石は火の中に消えていった。