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「え、ええと……それはその……そうじゃなくて」
いくら俺が院瀬見に興味が無いからって、こんなに接近してくるものなのか?
それともアドレナリンが出まくって自分がしている動きに気づけていない?
何にしてもこの状況を解決する為には、正解となる答えを院瀬見に伝える必要がある。そうなると異常な動悸に疑問を抱いている場合じゃないな。
「そうじゃなくて何ですか?」
それにしても顔が近い。幼馴染びいきを抜かしても、新葉とはまたレベルの違う綺麗さが分かってしまうぞ。
こうなれば――
「何が言いたかったかというと……」
「はい。どうぞ」
ぶん殴られるのを覚悟で俺から院瀬見に体当たりを敢行するしかない。
「これが答えだ!」
物凄く至近距離にいる院瀬見に対し、俺はなるべく突き飛ばさない強さで問答無用な体当たりを実行した。
「答えられないからって八つ当たりですか? 言っておきますけど、わたし負けませんよ? このぉっ!!」
「うぇっ!?」
だが手加減など無用だったかのように、院瀬見は俺の渾身の体当たりを押し戻しながら俺の勢いを消して、逆に俺を制しようとしている。
何て負けず嫌いな奴なんだ。
まさか俺の胸元めがけて全力タックルとか、鼻先をかすめてくる長い髪も防ぎようがないし、勝ち目がないぞこれは。
「わ、分かった……俺の負けでいいから!」
「分かればいいんです! で、南は結局何を言いたかったん――あーー!?」
「うっ? あっ……土が……」
俺よりも強い力でぶつかってきた院瀬見を見ると、ものの見事に土だらけ状態になっていた。俺としてはそんなつもりは無かったのになぜこうなった。
「土の汚れを取らせて自分だけ汚れたことに納得いかないから、わたしも同様に汚したかったと。そういうことですか……?」
「ち、違うぞ! 院瀬見が意地になった結果であって、俺もそこまでガキじゃない」
「もうっ!! スカートにまで土がついてるじゃないですか!! そこまで意地悪しなくてもいいのに!」
これはもう何を言っても聞いてくれない状態だ。こうなれば院瀬見の怒りを放置して、脚立と枝切りばさみだけでも片付けるしかない。
「ちょっと、何で逃げるんですか!!」
「とにかく今は片付けるのが先だ。そろそろ薄暗くなってきたしな」
俺が片付けるのを邪魔するほどブチ切れてはいないものの、院瀬見は落ち着かないのか、その場をぐるぐると何度も動き回っている。
その隙に物置小屋に全てを片付けて急いで院瀬見の所に戻ると、
「あー、いた!!」
院瀬見をなぐさめる女子の姿があった。
確かあれは推し女の――
「――二見……だったか?」
「それが何か? じゃなくて、ウチは言いましたよね? 院瀬見さんを汚さないでって!」
「あぁ……そういや」
談話室に行った時にそんなことを言ってたな、そういえば。やたらと俺に愛想を振りまいていたはずだが、アレは俺にじゃなくて院瀬見に対する気にかけか。
「それなのにめちゃくちゃ汚しちゃってるじゃんー!! 責任取ってもらいましょうよ!」
「……めぐちゃん、わたしは別に気にしてないですから」
いや、結構取り乱していたと思うが。しかし院瀬見の推し女への接し方を見てるとかなり気を遣っている感じだな。
九賀という推し女に対してもそうだし、二見も院瀬見に対する想いが強力すぎるからそれを院瀬見が抑えてるといったところか。他の推し女は何とも言えないが。
「でもっ、この男はあまりにも――!」
「めぐちゃん、落ち着いて?」
俺を睨みつけるこの二見は相当俺を敵対視しているようだな。
しかし二見が興奮しまくりなせいか、さっきまで怒りで我を忘れかかっていた院瀬見がすっかりと落ち着きを取り戻している。
この機を逃す手は無い。
「院瀬見つららさん。さっきは俺が全部悪かった。ごめんなさい!」
俺も落ち着いた口調で丁寧に対応するまでだ。
「…………驚きました。きちんと出来る人なんですね、南さん。南さんがそう言うなら分かりました」
素直に頭を下げた俺に、院瀬見は口に手を当てながら意外そうな表情を見せている。隣の二見はそれでも納得出来ないようだが。
「めぐちゃ……めぐさん。もうすぐ戻りますので、談話室の皆さんにもその旨伝えてくれますか?」
「――は、はいっ! そうします!」
院瀬見の言葉にハッとしたのか、二見は慌てて校舎へ戻って行った。さすが優勝者の貫禄ってやつだな。
「……さて、南。先程の件ですけど、きちんと謝罪が出来るんですからちゃんと納得の出来る答えをもらえるんですよね?」
げぇっ?
分かりましたとか言ってたのに全然解決してないじゃないか。しかも呼び捨てに戻ってるし、推し女がいる時と違いすぎだろ。
嘘も通じないし下手に誤魔化しても通用しないとなると、言えることはただ一つ。
「院瀬見とスキンシップをしたかったんだ」
「……はい? わたしを突き飛ばす勢いでぶつかってきておいて、スキンシップ……ですか?」
「そ、そういうことになる」
「それって、お互いの身体や肌の一部を触れ合わせて親密度を上げたり、気分を高めて気持ちを共有しあいたかった……ってことですよね?」
変な意味に囚われかねないが今は仕方が無い。それに腕や手はすでに触れているし、わざとじゃないけど足にも触れているから問題発言でも無いはずだ。
「……なるほど。南の謎攻撃は多分、わたしのせいですね」
「へ?」
「スキンシップ……うん、いいかもですね、それ」
「だろ? これからは俺も心を入れ替えていくつもりだから、院瀬見もそのつもりで頼む」
何やら自分だけで納得してうんうんと頷いているようだが、俺としては口からでまかせを言ったに過ぎない。
そもそも最強美少女の考えていることは到底俺には及ばないだろうから仕方が無いことだが、俺にもその思考を分けて欲しいところだ。
「その前に言っておきたいんですけど」
「な、何かな?」
「南はその他大勢のモブ男子と同じになっても困るので、必要以上に優しくしないで大丈夫です。南はそのままの状態でスキンシップをしてきてください」
何を言うかと思えば優しくするな?
それはまた別の意味で怖いぞ。
「院瀬見をめがけて体当たりをしてもいい。そういう意味か?」
「……それはどうでしょうね? でも南との関係がスキンシップありきならそれでも全然――それはそうと、談話室に戻りません?」
「それもそうだな」
自分の髪をやたらと触りまくりながら俺を見ていたが、院瀬見は俺に何を言おうとしていたんだろうか。
気にしても仕方ないし、これ以上気に障られても面倒だから気にしてないでおくか。スキンシップの件は本気にしてないだろうし大丈夫だろ多分。
「…………楽しみですね、本当に」
「え? 何か言ったか?」
「いーえ。何も」