美奈は2本目の缶ビールを出しながら、冷蔵庫の中を物色した。
家のモノは、すべて自分のモノと思っているようだ。
「翔太、プリンあるよ」
「食べる、食べる」
「翔太に渡して」
美奈が沙耶にプリンを渡した。
沙耶がテーブルにプリンを置くと、翔太が切れたように叫んだ。
「おばちゃん、スプーン!」
イラついた顔で、沙耶を睨んでいる。
美奈が、翔太をなだめるように言った。
「気が利かないオバチャンで困るね」
なんなの? この親子?
状況が解らない沙耶に、美奈が言った。
「沙耶さん、翔太にプリンを出すときは、蓋を外してスプーンを添えてね。
お菓子のときは、飲み物も用意してよ。翔太はコーラが好きだから。
一緒に住むんだし、ちゃんと世話してくれないと」
頭が混乱しながらも、沙耶は何とか言葉を絞り出した。
「この家に住む? 本気ですか?」
「離婚した娘が実家に帰るなんて普通でしょ」
「ここは私の家です。お義姉(ねえ)さんの実家じゃないですよね」
「沙耶さんの家? 名義はどうなってるの?」
「友也です、けど、」
「でしょ。弟が母のために建てた家。私の実家よ。住んで当然じゃない」
「そこ誤解が、」
「それとも何? 生れた家から家族が引越したら実家が無くなるわけ?
違うでしょ。母親が住んでる家が実家なの! ここは私の実家よ!」
威圧的な態度。上から目線。沙耶は「話にならない」と感じた。
(友也から言ってもらおう)
(でも、友也がこの姉を追い出せる?)
沙耶が考えていると、美奈が深く溜息をついた。
「沙耶さん、早くツマミ出してよ。本当に気が利かないわ。
お母さんも大変ね、こんな嫁に辛い思いしてるんじゃないの」
あっという間にプリンを食べた翔太が、テーブルを叩いた。
「もっと何かないの? 食べたい!」
沙耶は唖然としながらも、結婚前に職場の先輩から聞いた話を思い出した。
『小姑は実家でやりたい放題、兄弟の嫁を家政婦扱いするよ』
『小姑の子供は、お姫様・王子様気取りだよ』
ウソだぁ~、と思っていたけど、本当だった。
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