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君は言った
「記憶ってさ、脳内の色んなとこで保存されてんだって」
「特に好きな事とかは脳内の扁桃体ってとこが活性化されて…」
楽しそうにそう言うその人に俺は面倒だと言うように適当に相槌を立てておく。適当に聞いてる俺に気づいたのか俺の顔を見ては疑うような目を向けられた。
「聞いてる聞いてる」
「嘘つけ」
言葉は怒っていても、顔は楽しそうに笑う温かい表情に俺も無意識に口角をあげてしまう。
「…なつはさ、楽しかった記憶はねぇの?」
「…そんなん沢山あんよ 」
ずらずらと口から吐き出された言葉は全てこの人との遊んだ時間と交わした会話の数々
彼もそれらは憶えててくれていたのか笑いながら「かわいい」と俺に向かって呟いた。
「じゃあ、なくなんなよ?笑」
最近にして見慣れてきた部屋で、彼からそう言われた。
こちらはとあるスマホゲームの内容を少しオマージュしております。 ゲーム名やその後の展開を知っている方はコメント欄でのネタバレはお辞めてくださいませ。
またこのストーリーの展開を予測、願望などもコメントに書かないでくださいませ。
・紫赤、少々黄桃
・いじめ、死表現有
Chapter1:迷子
潮の匂いが俺の鼻をくすぐった。
少し温いそよ風が心地良くて起きてはいるが、重たい瞼はなかなか上げてくれない。そのまま2度寝でもしようかと思ったが風は吹きやまず、身体中から悪寒を感じ瞼をあげてしまった。
目の前には木材の天井、眠る俺の下に感じた硬い感覚、馴染んだ俺の部屋の匂いはない。
「………え?」
思わず上半身を起き上がらせるとそこは俺の部屋ではなく、田舎町にある質素な無人駅の屋根小屋の下にある青いベンチで俺は眠っていた。
周りには俺が眠っていたベンチに木でできた古い運賃箱と掲示板、コーヒーやジュースが置かれている自販機、 行先が書かれてる看板は文字がかすれて1文字も分からない。
行ったことも なければ身に覚えもない知らないこの場所
夢でも見てるのではないか? それよりも早く家に、現実の世界に帰りたい。
そう思った俺は、ベンチに座っていた腰を上げてまずは掲示板へと足を運んだ。
子供が書いたポスターや近くの駄菓子屋の閉店のお知らせに紛れていた時刻表を見るとどうやら2時間に1本しかない駅らしく、次の電車まで1時間もあるそうだった。
横を見れば電車の停車所がある。 歩くと日陰となっていた屋根小屋の外は眩しい程の俺を見下ろす大きな入道雲が浮かぶ 晴れ晴れとした青い空と太陽が俺を照らしていた。
錆びた柵の間に空いてる出入口付近まで歩くと下には海が広がっている。青く透明で綺麗な海の中には木製の線路が見える。
「…ここ、どこだよ…」
まるで絵や物語に出てくるようなこの場所の存在と、異世界にでも転生したのかと信じたくもない幻想に俺の頭は混乱で働かない。
「お客様、どうかしましたか?」
後ろからいきなり聞こえた声に思わず肩を跳ねた。振り返ると黒いスーツに深く帽子を被った男性がいた。顔は見えないがきっとここの駅員さんだ。
「すんません、起きたらここにいて…」
「…では、貴方も思い出せないんですね」
唯一見える口元は微笑みながらそう呟いた。 『思い出せない』という単語に俺は疑問に感じる。
「思い出せない、って…?」
「ここに来る人はみんなそうなんですよ」
「嫌なことを忘れては未練を残したままここへ来る。貴方もそう」
駅員さんの言うことがよく分からない。それでも表情はひとつも変えずに淡々と話しながら笑っている。そんな姿に不気味さを感じ、逃げようかと後退りしかける。
「…帰り方、教えて欲しいです」
駅員さんの話を遮るように俺が欲しい答えを彼に聞く。淡々と言葉を吐いていた口は止まってくれた。
「ほう?…まずは乗車券が必要ですね」
「!その乗車券ってどこに売ってありますか?」
「売ってませんよ?」
思わず駅員さんに向かって「は?」と呟いてしまった。そんな俺の言葉は気にしていないのか変わらず教えてくれた。
「貴方様が思い出してくれない限り、乗車券は出てきませんよ」
思い出せないと出れないとはどういう事なのか。言ってる事が上手く飲み込めない俺を見ては駅員さんはまた口を開いた。
「貴方様のお名前は思い出せますか?」
「…暇、那津」
「なつさんは何故ここに来たんですか?」
「え………」
そんなの、分からない。気づいたら眠っていて、ここにいて、
「そういうことですよ」
「…じゃあ、こっから出れないってこと?」
現実だと思いたくない一言を呟けば、駅員さんは笑ったまま顔を縦に頷かれてしまった。
働かない頭では処理することもできずに、左頬が痙攣したようにピクピクと動いてしまう。それでも目の前の人は笑っていた。
何も無く、帰る手段もすぐには見つからないこの状況に俺は夢でも見てるのではないかと、最初に眠っていたベンチに座って頬を叩いていた。だが頬に感じるヒリヒリとした痛みしか感じられない。
何も変わらない青い空と吹く風に揺られる透明な海。こんなにも綺麗な景気が目の前に広がっているのに心に広がってるのは絶望だけ。
「なつさーん、大丈夫ですか?」
上から聞こえた声に、目線だけそちらを向けば先程と変わらなち口元から上が見えず、俺の方が若干高いが俺が猫背なのか、彼が姿勢が良いのか俺と変わらない背丈をした駅員さんがいる。
「思い出せませんか? 」
「そんな簡単に出てくるかよ…」
駅員さんと話した後に、もう1回俺が最後に過ごした日を思い出そうと頭を捻らせた。
けれど何も思い出せない。何して過ごしていたのかも、何時に寝たかも、晩御飯も、何も思い出せなくて頭にあるのは真っ黒い空間だけ。
「駅員さんは俺の記憶は知ってんの?」
「まさか、知ってる訳ないですよ」
俺の近くにいるのだからなにか知ってるかと怪しく感じながら聞いてみれば出された答えはそれだけで、いや、他人が知ってるはずがない正しい答えにだよなぁ、と呟くしかなかった。
「…でしたら、人助けしてみればかと」
「人助け?」
「なつさん以外にも思い出せなくて困ってる方々が沢山いるんですよ」
そう言って駅員さんがかざした手の先を見てみれば、駅の出入口の方には古びた家が見える。
この古びた駅以外にも店があるということ、そして俺と同じ迷い人がいるという情報に、焦りが大きかった心に少しの安堵が混じった。
「それに、早くここに居るお客様を帰らせたいんです」
ベンチの背もたれに肘をつけては遠くに浮かぶ入道雲を眺めながら駅員さんはそう呟いた。確かに、いつまでもここに居られたら困る気持ちは分かる。
向けられた俺の目線なんか気にしないようなゆったりとしたスピードで運賃箱のそばまで歩き、軽々としたステップを踏みながら俺の方へ振り返った。
「私のお手伝い、してくれませんか?」
そんなお願いをしている時も、口角を上げてる口元はずっと変わらない。1つも変わらないその表情にまた不気味に感じられた。
「…わぁーったよ…暇つぶしにはなるろうし」
ため息を吐きながら答えれば、「ありがとうございます」と笑顔で言われた。
感謝の言葉に適当に頷いては腰掛けてたベンチから立ち上がり駅の出入口まで歩く。
「…貴方の優しさに、助けられてる人が沢山いる事を忘れないでくださいね?」
何か呟いた声が聞こえた気がしたが、聞いていない振りをしておく。また眩しい青空に目を細め、手をかざして影を作っては景色を見る。
駅の外は箱庭のような場所だった。数段の階段を降りながら周りを見れば、見渡す限り他の陸も島もない青い海とアンティーク調の黒い柵に囲まれてる。
懐かしさを感じさせる『氷』と書かれた看板とレトロチックな10円ゲームが出入口に置いてる灯が灯っている駄菓子屋
奥には助走をつければ何とか座れる程の高いコンクリートブロックと 街灯やベンチが2、3台あるだけのだだっ広い何もない場所。
この地と空はこんなにも広々としているのに、閉じ込められてる現実という目の前の要らない景色に目を瞑りたくなる。
だが、俺だけひとりぼっちではない、人の気配は感じさせた。
ベンチに座って駄菓子屋で買ったソフトクリームを食べる子供や、コンクリートブロックの上に座って海を眺める男性の2人だけ今は俺の目に入っている。
「この人らを、助けろってんのか…」
思わず頭の後ろを掻き毟って悩み始めた。 頼まれたとしてもやる気はいまいち出てこない。俺はそんな善意な人間でもないし、自分から人助けをする程心優しい性格も持っていない。
これから 何が起きるかも分からないけれど、漫画で読んだようなシチュエーションを思い出し、自分ができる要素をとりあえず出してみる。
喧嘩の仲裁に入ったらかっこいいけれど、巻き込まれて死ぬ未来しか見えないし
誰かが襲われてた状況は、 相手が女じゃなきゃいけない条件付きか逃げるに違いないし
溺れてる人が出てきたとしても、俺は運動音痴でカナヅチだから泳げないし俺も死ぬし
自分で思ってて人を助けれるような要素を持っていない未熟さと雑魚さに棘が刺さっていく。
むしろ、そんなかっこいい事ができて優しい性格を持っている人なんか存在するのだろうか。
『__なつって、優しいな?』
「___っ…!?」
脳内に直接話しかけられたかのような低く優しくて、どこか懐かしい声がしては酷い頭痛に襲われしゃがみこんでしまった。
『貴方様が思い出してくれない限り、乗車券は出てきませんよ』
酷い頭痛に苦しまれながらも、駅員さんに言われた言葉を思い出した。早く帰りたい一心の俺は、一瞬にして出てきたその声とそう言った人物は誰なのか思い出そうと集中する。
けれど何も思い出せなくてその声は無惨に脳内に消えていき、残ったのはまだ痛む感覚だけだった。 思い出すのにもこんな苦労をかけなくてはならない事に嫌な気持ちがのしかかる。
ひとまず冷静になりたい俺は頭痛が治まるように深呼吸し続ける。少しずつ和らいでくるものの痛いものは痛い。
「…お兄さん、どうかしたの?」
上から聞こえた幼い男の子の声に、痛さに悩まされていた頭をなんとかあげる。青い空に似合っている透き通った水色の男の子がこちらを見ていた。
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