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最終章
上司からのメール、プラットフォームからのアカウント永久凍結、そしてネット上に晒された自身の個人情報。
お兄さんのスマートフォンは、狂ったように通知音を鳴らし続けている。
彼の脳内では、今まで完璧に組み上げてきた物がメチャクチャに崩壊し、ショート寸前になっていた。
そこに、無邪気な足音がをたててちぇんが近づいてきた。
「おにーさーん! ちぇんのうんうんとってねー! おなかへったのー!あまあまちょうだいねー!」
気が狂いそうになっているお兄さんにとって、その声はただの「不快なアラート音」でしかなかった。
「……るさい」
「えっ? おにーさん、なにいってるの? はやくちぇんの――」
「うるさいッ!! 黙れええええええッ!!!」
お兄さんは反射的に手を伸ばし、ちぇんの身体を鷲掴みにした。
「ゆっ!? な、なにをするのー! はやくあまあ――」
次の瞬間、お兄さんは思い切り腕を振り抜き、ちぇんを部屋のコンクリート壁へと全力で投げつけた。
べちゃぁッ!!!
鈍い破裂音。
あれほどお兄さんが丁重に扱い、希少価値を誇っていた金バッジのちぇんは、悲鳴を上げる間もなく壁に激突し、ただの汚い餡子のシミに変わった。
床には、ひしゃげて餡子まみれになった金バッジが、カラン……と虚しい音を立てて転がった。
お兄さんは荒い息を吐きながら、自分の手にこびりついた餡子を見つめ、我に返る。
「あ……あぁ……」
その光景を、部屋の隅で静かに見つめている者がいた。シルバーだ。
彼女は、床に転がったひしゃげた金バッジを見下ろす。
私が求めていた全てを持っていた存在がこんなにも呆気なく、無意味に壊された。
彼女の中で、何かが音を立てて崩れ去った。
シルバーは静かに、お兄さんが偽造作業で放置していた引火性の強い溶剤を蹴り倒す。そして、机の上のライターを咥えた。
カチリ、と小さな火花が散る。
その音に気づいたお兄さんが振り返る。シルバーの口元にある火を見て、彼の目が見開かれた。
「おい……お前、何をしている!?」
シルバーは何も答えない。ただ、咥えたライターを、溶剤の広がる床へと落とした。
ボワァァァッ!!
一瞬にして青白い炎が部屋を包み込む。偽造品のゆっくりたちも、在庫の野良たちも、ちぇんの死体も、すべてが燃え上がっていく。
「やめろぉぉぉッ!!一体なにしているんだお前?!」
炎の中で、お兄さんは頭を抱えて絶叫する。彼のロジックでは、シルバーの行動は完全に計算外のバグだった。
「狂ったのかこの欠陥品がぁぁ!!」
炎熱で溶けゆく部屋の中。
かつて火を極端に恐れていたはずのシルバーは、自分自身にも火が燃え移る中、静かに目を閉じていた。
その表情には、恐怖も、痛みも、怒りすらない。ただ、どこまでも穏やかで、慈愛に満ちた聖女のような微笑みだけが浮かんでいた。
パチパチと燃える音の中、彼女の澄んだ声が、狂乱するお兄さんの耳に静かに届く。
「ええ……わたくしは、ずっと前から壊れていたのよ。お兄さん」