ー俺は何処で、何をしていたのか。
今となってはもう、覚えていない。
ただ1つだけ、確かな事がある。
俺はその時の出来事を忘れたくないと、強く願っていたー
…堕ちていく。どこへかは分からないが、とても深い場所へ。 目の前には闇が広がっており、光が完全に遮断されているようだ。
それなのに目が回るような感覚を覚え、とても気分が悪い。
宙に浮いているのか、或いは意識だけがそこに在るのか。
全く頭が回らない。それでも何かを考えようと必死になっていると、いきなり頭に鋭い刺激が走った。
「ーーっ………!!??」
声にすらならない呻きを挙げ、やっと意識が戻った。
痛ぇ……。目を閉じたまま、額を手で押さえる。フラフラしながらもなんとか立ち上がると、ゆっくり瞼を開いた。
おいおい、嘘だろ……?
「どこだよ、ここ…。」
殺風景な部屋。前方には黒いドアが1つ、後方には大きな窓がある。部屋が薄暗いせいだろうか。窓の向こうに見える月がやけに存在感を放っている。
俺はしばらく月を眺めていた。しかし、そんな事をしている場合ではないと溜め息を吐いて、ドアへと歩を進める。
…ん?何だあれば、ゴミでも付いてんのか?
そう思ったが、どうやら違うようだ。何やら、文字のようなものが書かれている。
「ー『汝は何者か 己を証明せよ 哀れなる仔羊か それとも
忌まわしき狼か』ー」
どういう意味だろうか。目覚めたばかりの微妙な頭では理解出来そうもない。
「黒いドアに黒い文なんざ書くんじゃねぇよ!読みづれぇだろうが!」
ノーリアクションは流石に可哀想だと思い、一応悪態をついておいた。…半ば本気で。
あぁー、さっきから何してんだろうな、俺は。さっさと進もうぜ。
未だに頭痛が続いていることもあり、普段より力を入れてドアノブを回した。
ーグキッー
「いってぇ!!!!開かねぇのかよ!!!!」
おいおい、どうしろってんだよ。ずっとお月さんでも眺めとけってか?いや、そんなん性に合わねぇよ!
…待てよ。これで俺が哀れなる仔羊である事を証明できたり……。
するわけねぇよな。
周りを見渡してみるが、特に変わった様子もない。あるとすれば、俺の機嫌が悪くなったくらいだぜこのやろー。
あーもういいか。俺はニヤリと笑みを浮かべた。
「…蹴破っちまうか。」