視点・元貴
っ……どこ行ったんだよ。
あれから1時間は探した。
若井の家、学校周辺、最寄駅、好きだと言っていた喫茶店やゲームセンター、楽器屋だって全部。
「はぁ……、はぁ、」
呼吸が乱れる。
若井…。
頭の中で若井との思い出がフラッシュバックする。
―――――――――そうか。
若井は、あそこに行ったんだ。
俺はすぐさま片道を引き返して、とある公園へ向かった。
そこは、俺と若井の大切な場所。
視点・若井
先生、今頃何してんだろ。
俺のこと、考えてくれてると良いけど。
いや、きっと俺のことなんか頭になくて、家でのんびりコーヒー飲んでるかな。…あ、でも先生コーヒー飲んでるの想像つかないよなぁ。
こんな時まで先生のことを考える自分が女々しくて嫌になる。
「はぁ……」
俺は何もできず項垂れた。すると。
プルルルル
電話が鳴る。
「誰だろ…」
手にとって確認すると。
「…!涼ちゃん…!」
俺の隣に住んでて、家族ぐるみの付き合いをしてたからかよく面倒を見てもらった涼ちゃんからだった。
本名は藤澤涼架だけど、呼びやすくするためのあだ名として俺だけじゃなく色んな人からそう呼ばれてるらしい。
俺と3つ歳が離れてて、今は大学で音楽を学んでるから夜な夜なキーボードの音が聞こえて来ることも。
「…もしもし、」
「あーもしもし滉斗!良かったぁ、出てくれて。」
「俺になんか用でもあったの?」
「今日の夜さ、僕のお家で韓国料理パーティーする予定なんだけど、お母さんたちと一緒に来ない?」
「…、」
今はそれどころじゃない。と思ったけど。涼ちゃんの楽しそうな声を聞いたからか断るのも出来なくて、俺は黙ってしまった。
それを不思議に思ったのか涼ちゃんが口を開く。
「……ねぇ、なんかあったの?」
「え?」
「あー、いやさ!普段より元気ないって言うか…、いつもの滉斗じゃない感じして。」
「まぁ、色々あってさぁ。」
涼ちゃんには叶わない。そっと寄り添うような優しい声で俺に語りかけてくれて。そのせいでさっき枯れたと思った涙がまた溢れてしまった。
「僕でいいなら聞くよ。今どこ?」
「…っ、俺ん家の近くの、公園、」
「うん、すぐ行くからね。」
涼ちゃんの優しさがじんわり心に染みていくのを感じた。
もういっそ、俺の事振ってくれたらいいのに。罪な男だなぁ、大森先生。
なんて、馬鹿なことを考えていると足音が近づくのが分かった。
「ごめんね、遅くなっちゃった。久しぶり、滉斗。」
視線を上げると、男にしてはちょっと長めのふわふわとした金髪にいつもの優しい笑顔を浮かべた涼ちゃんが居て。
「話せるとこだけでいいよ。教えて、」
俺は今までの事を洗いざらい話した。
「俺…振られんのかな。」
全て話し終えたあと、ぽつりとそう零した。
「うーん、そんなことないと思うけどな。」
涼ちゃんは少し考える素振りを見せると首を傾げつつ答えた。
「…多分さ、その女の子に近づかないで欲しいからそう言っただけなのかもしれないよ。」
「でも…、でも、っ。」
「泣かないで、滉斗はいい子なんだから振られるわけないでしょー。」
ふに、とほっぺたを摘まれて無理やり笑顔にさせられる。
「…とにかくさ、1回ちゃんと話してみなよ。きっと大丈夫だから。」
優しい口調と声色で、俺にそうアドバイスをくれた。そんな涼ちゃんを見ていたら、何となく安心してきて、いつの間にか涙も引っ込んでいた。
「うん、俺頑張るわ!」
俺はベンチから立ち上がって涼ちゃんにガッツポーズをして見せた。
「うんうん、滉斗はそうでなくちゃ。じゃあお家帰ってご飯食べよ。もう夜遅いんだし。」
「ん!」
俺と涼ちゃんは並んで帰路に着いた。
視点・元貴
どのくらい走ったのか分からない。さっきよりも荒くなった呼吸と共に、俺は公園にたどり着いた。
「クソ…どこだよ、」
必死に周りを見渡すと公園の出口の方にうちの高校の制服が見えた。
「若井…っ!」
出口まで走って声を掛けようとした瞬間。
「涼ちゃん、ちゃんと冷麺あるよね?」
「もちろん、滉斗のために沢山あるよ!」
「よっしゃ!マジ楽しみ!」
若井……と、知らない男。
見たことない顔だし金髪だから、多分高校生じゃないだろうな。若井よりちょっぴり身長が高いから年上?少なくとも年下じゃない。下の名前で呼び合ってるってことは親密な関係の可能性があるけど、もし家族だったらもうちょい似た顔をしてるはず。
『浮気 』
その2文字が頭をよぎる。
「いや、若井に限ってそんなこと、」
必死に否定しようとするが。
「涼ちゃんの家さぁ、ちょっとインテリア凝りすぎじゃない?」
「うっそー、みんなあんな感じだよ。滉斗が無頓着なだけでしょ」
「そう?俺は結構オシャレだと思ってんだけどー。」
インテリアのことを話すってことは、家に上がったことがあるに違いない。普通年上の男の家に易々と上がるか…?若井は恋人がいるのにそんなことする性格じゃないって思ってたけど。
「っは、なにそれ! 」
「えー笑わないでよー」
――――――――若井って、そんな風に笑うんだ。
俺の前ではそんなクシャクシャな笑顔見せてくれなかったのに。
ギリ、と唇を噛み締める。
2人の笑い声が遠のいて行くのを聞きながら、俺はふらふらと帰路に着いた。
コメント
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勘違いしちゃったか、
続き楽しみです