11月21日
夏などとうに過ぎ去り寒い日が続くようになった今日この頃、トレーナー室には最近暖房が取り付けられ、寒くて悴んでいたキーボードを打つ指もよく動くようになった。学園内は夏服から冬服に移り変わり季節が変わったんだたと実感させた。たまに夏服で走りながら「根性ですわー!!」って言ってる子を見かけるがその度エアグルーヴが般若のような形相で追いかけている。
体調管理も難しくなったのかトレセン学園では冬風邪が流行り始めた。生徒及びトレーナー達にも注意喚起がされた。
「あー… 寒っ 暖房暖房っと」
エアグルーヴが来る前に部屋を温めておく
今月末にはジャパンカップが控えているのでエアグルーヴには体調管理をしっかりしてもらいたい。
まぁ俺が施しをするまでもなくエアグルーヴは完璧なコンディションで望むだろうが…
「今終わった」
「お疲れ様〜 廊下寒かっただろう」
「まぁな… いくらは冬服とはいえ下はスカートだからあな…」
「あ… あぁ そうだな」
自然にエアグルーヴの下半身に目がいく…
こ…これはッ
「…どこを見ている? たわけが」
「ごめん…」
最近のトレーニングは本番を想定した状況下での計測と差し切る為のパワートレーニングが中心だった。
だがしかし…
「寒すぎる…」
なんなんだこの寒さは?体の芯から冷えるタイプの寒さだ。鼻水もでてくるで…
エアグルーヴはブルマでトレーニングをしてるが寒くないのか?この寒さであの肌の露出量は見てるこっちが辛くなる。
「ふぅ… タイムは?」
「いい感じ!この調子なら絶対1着とれるぞ」
「当然だ 」
「最後のジャパンカップだが… 不安はないか?」
「不安か… スズカも出走するということぐらいだな」
「そうだな… エアグルーヴとスズカは長い間良きライバルだったもんな!」
「負けるつもりは毛頭ないが、不安があると言えばスズカに負けてしまうかもしれないという事だけだな」
「ジャパンカップ楽しんで出走しなよ」
「分かっているさ」
エアグルーヴはジャパンカップを終えると休む暇もなくウィンタードリームトロフィーに出走する。するとトレーナーである俺の仕事も休む暇はない。
「じゃあ今日は…これ…くらい…で…」
「どうした?」
ドサッ…
「おい!大丈夫か?!」
俺は倒れた。
きっと風邪だろう。
しかし俺が思っていたよりも風邪は重症化していたようで高熱とめまいで倒れてしまった。恐らく誰かから冬風邪を貰ってしまったんだろう。それにプラスで仕事の多忙で風邪の重症化… トレーナー業はキツイぜ
「しっかりしろ!トレーナー!」
必死に呼びかけるエアグルーヴの声が聞こえてくる。
だんだんと俺の意識は薄れていき遂には気を失ってしまった。
目が覚めると俺は保健室のベッドに横になっていた
まだ頭がボッーとしている。吐き気もしてきたし
「目が覚めたか?」
「エア…グルーヴ…」
「まだ寝ていろ 貴様は頑張りすぎだ」
マスクをしたエアグルーヴが横にいた
おでこがひんやり冷たい 冷却シートだろうか
「今…何時…だ?」
「22時だ」
「22時?!大変だ… 門限… ゴホッゴホッ…」
「外泊許可ならとってある 気にするな」
「そう…か」
「全くこんなになるまで無理しおって… 私のレースも近いのに… 一体どういうつも…」
「うぅ… ゴホッゴホッ…」
エアグルーヴがなにか話しているが聞こえない
咳をする度肺が痛い、頭が割れるように痛く、見上げている天井はグワングワンと動いている。
「…なにか欲しいものはあるか?」
エアグルーヴが耳元で話す
「…..水が」
「分かった 待っていろ」
そう言うとエアグルーヴは小走りで出ていった。
エアグルーヴが居なくなった瞬間、少し苦しくなった
何故かはもう分かっている
一人暮らしをしてもう6年経つが風邪を引いたのは中学生ぶりだった
1人なった途端急に心細くなった
早く… 戻ってきて欲しい…
しばらくしてエアグルーヴが水とお粥を運んできた
「ありがとう… エアグルーヴ…」
「気にするな 困った時はお互い様だ」
俺は倦怠感が纏う体を無理やり起こし水を飲んだ
食事はまだ食えそうにない…
「すまない…食事はゴホッ まだ…」
「何を言ってる 食べなければ風邪は治らんぞ」
「いやでも…」
食ったらゲロっちゃう気しかしない
「仕方ない… ほら」
「え」
「早く口を開けんか!食えないのなら食わしてやる」
「でも食欲が… ゴホッ」
「くっ…」
「エアグルーヴ… 顔真っ赤だぞ? お前も体調悪いのか?」
「うるさい!1口でも食わんか!」
「えぇ…じゃあ 1口…」
パクっ
口に入ってきたお粥は程よく塩味が効いていて咀嚼も少なく飲み込むことができた。これなら全部食べられそうだ
「…美味しい もう一口…」
「なっ…! あとは自分で食え!」
「あぁ… ありがとう」
お粥も食べ終わりまた横になっていたらまた体調が悪化してきた。
「うぅ…..」
「熱が高いな… もう寝ろ」
「あぁ… 」
「トレーナー 聞こえるか?」
「なん…だ?」
「私はもう少しここにいる なにかあったら呼べ」
もう考えが上手くまとまらないし、エアグルーヴにはここを離れて欲しくなかった
俺は離れようとするエアグルーヴの手を掴んだ
「エア…グルーヴ ここにいて…くれ…」
「…わかった」
そういうとエアグルーヴはそっと横に座った
俺は掴んだエアグルーヴの手を離せなかった
エアグルーヴは俺の手を握ってくれた
夏祭りのときや一緒に海を見に行った時よりも強く
「…おい 聞こえているか」
「…..なんだ?」
朦朧とする意識の中で辛うじてでる声で答える
「何故そんなに無理をする」
「…」
「私はいつこんなになるまで仕事をしろと言った?」
「…」
「私は… 貴様が倒れた時…どれだけ不安になったか…」
「…」
「貴様のことだ私のレースが近いからと仕事を大量に抱え込んでいたんのだろう…」
「…」
「これ以上…私の為に無理をして欲しくないんだ」
「…何…言ってる…んだ」
「君の為に…無理をして…何が…悪いんだ…」
「!」
「君が…勝つところが見たいから…喜ぶところを…見たいから…」
「何より…君が…君が大切だから」
「貴様…」
「それに…今に…始まったこと…じゃないしな」
「俺は…また君のため…に無理する」
「…何を言っているだ… たわけが…」
「へへへ… ゴホッ」
「…ありがとう」
「え?なんて?ゴホッゴホッ」
「なんでもない… さっさと寝ろ」
「あぁ…」
そして俺は気を失うように眠った
夢を見た
いつものデスクに座って仕事をしている
いつもと変わらない景色がそこには広がっていた
いつもと…何も…変わらない
わかった…
早く仕事を終わらせろってことか…
翌日目が覚めるとエアグルーヴの看病の甲斐もあり倦怠感はなくなり頭痛もひていた
エアグルーヴは横の机にうつ伏せるようにして寝ていた
マスクに当たって聞こえるエアグルーヴの寝息
魔が差してバレぬようエアグルーヴのマスクを下げた
寝顔もほんとに綺麗だな…
正直この寝顔をずっと見ていたかったが、うつ伏せの体勢で寝ていたら体を悪くしてしまう
「エアグルーヴ? エアグルーヴ 起きて」
「ん… 貴様…体調は?」
「良くなったよ 看病ありがとう」
「そうか…良かったなぁ」
エアグルーヴがらしくもなくふにゃっとした微笑みを見せる
最初はかわいいと思って見ていたが様子がおかしい…
だんだん息遣いも荒く顔も赤いくなっている
まさか…
「エアグルーヴ 熱をはかってみなさい」
「ねつぅ?」
エアグルーヴに熱を測らせてみる
ピピッ ピピッ
「38.3度…」
まずい完璧に移してしまった…
「エアグルーヴ 立てるか?」
「大丈夫…立てるさ…」
そう言うと俺の肩を掴みながら立った
「どうしたものか…」
幸運にも今日は土曜日、寮まで運ぶしかない
「エアグルーヴおんぶするから乗れるか?」
「大丈夫だと…言っているだろうが」
「フラフラしながらじゃ説得力ないぞ」
「くっ…」
「看病もしてもらったし今度は俺の番だぜ?」
「む…」
少し項垂れるとエアグルーヴは俺の背中に乗っかった
「美浦寮だよな」
「そうだ…」
「任せろ! 外寒いから俺の上着を」
「助かる…」
トレーナー室を出て美浦寮を目指す
その間エアグルーヴを背中に乗せているわけだが、丁度うなじ辺りにエアグルーヴの吐息がかかってくる
それに少しドキッとしたが苦しい思いをしているということを考えるとそんな邪な考えは消えていった
「よし…着いた」
「すまないな…」
美浦寮に着き寮長のヒシアマゾンに連絡する
数分後…
「おぉ 悪いね エアグルーヴんとこのトレ公 エアグルーヴは私が責任もって引き受けるよ!」
「そうか それじゃエアグルーヴを頼んだよ」
「おい待て!」
「え?」
「あんたも風邪引いてたんだろ?もう治ったのかい?」
「あぁ そうだが 何故それを?」
「昨日の夜さ、エアグルーヴが青ざめた顔してあんたとこ飛んでいこうとしていたから、理由聞いたら トレーナーが風邪で倒れたって、心配してたんだよ?」
「エアグルーヴ…」
「まぁ何はともあれ 治ったんならあんたも家に帰って休むことだね」
「そうるよー」
エアグルーヴをヒシアマゾンに預けその場を後にしようとすると…
ギュッ
「ん?」
「トレーナー…待ってくれ… 行かないでくれ…」
きっと熱のせいだろう エアグルーヴは寂しそうな顔をして俺のシャツの袖を掴んだ
「いや… エアグルーヴ」
「…..あぁーー、アタシすっかり忘れてたよ そういや大事な用事があるから看病できないよー」
「え」
「ってことでエアグルーヴを頼んだよ!」
「え」
「車はマルゼンスキーを呼ぶからちょっと待ってな」
「えぇー」
「それと… 絶対エアグルーヴに変なことするなよ?」
「え? しないよ!」
なんだか空気を読まれたような気もするがエアグルーヴを俺の自宅で看病することになった。
相部屋のファインモーションから色々荷物を渡されマルゼンスキーの車に乗って自宅まで送ってもらった
降りる時マルゼンスキーが
「エアグルーヴのトレーナーくん あんまりお痛しちゃダメよ?」
「何を?!」
とりあえずエアグルーヴには俺の寝室を使ってもらった。 エアグルーヴが家に来るようになってからというもの部屋は毎回のように清掃され常に綺麗な状態が保たれていた。
「着替えとかここに置いておくからな」
「あぁ…」
「熱は….. けっこうあるな…」
「うぅ…」
「大丈夫か?」
「大丈…夫だ…」
「嘘つくな」
「風邪薬飲める?」
「あぁ…」
冷却シートや関節部分の冷却をしてからエアグルーヴの食事を作ることにしたが…
「冷蔵庫…すっからかんだな…」
普段買い物をしない俺は冷蔵庫にものは入っていなかった
「買いに行くか…」
買い物行かないと何も無いから仕方ない…
「エアグルーヴ!俺ちょっと買い物いってくるから!」
「…え」
「急いで戻るからさ!」
「…ま 待って…くれ」
「なんだ?」
「あ…いやその… 1人は…心細い…から そばに居て欲しい…」
「…わかった」
買い物はなにか困った時の為にと交換したヒシアマゾンに連絡して行ってもらうことにしよう その方が俺よりもいいものを買ってくるだろうからな
「そうかい… わかった!まかせな!」
「すまないな ヒシアマゾン お金は後で渡すから」
「いいよ 金なんて」
「いや!お金のことはしっかりしないとな」
「そうかい? じゃまた後でな!」
「場所は今送ったから頼むよ!」
「あぁ!」
ヒシアマゾンにも連絡したのでエアグルーヴのそばに座った。
「ハァ ハァ…」
「エアグルーヴ…悪いな風邪移して…ジャパンカップも近いのに…」
「問題…ない」
エアグルーヴはそう言ってくているがそんなはずない
病み上がりのレースは体に負荷もかかるし、体力も落ちてしまう それに今回はGIレース 強豪が揃う中での不調はあまりにもハンデを背負わせてしまう。
「…..俺は…トレーナー失格だな…」
当たり前だ… 俺の失態で教え子の最後のGIレースを万全の状態で出走させてやることができない…
「…何故そう…思う」
「…俺の看病をしたばかりに…俺は…エアグルーヴの最後のGIレースを…万全の状態で出走させてやることができない… ごめん…本当にごめんよ…」
情けない気持ちでいっぱいだった もう何を言われても仕方ない
「私は…レースを万全に出走できない…ことより 貴様が無理して倒れてしまうことの方が…何倍も嫌なんだ」
「でも…」
「それに…言っただろう?」
「負けるつもりは毛頭ないと…」
「エアグルーヴ…」
「貴様…私が…信用できない…のか?」
「信用できるさ…ただ…本当に…ごめん」
「気にするな…困った時はお互い様だ」
「うん…」
「だから…今日は…頼むぞ?」
「グスッ… あぁ!まかせろ!」
「声が大きい…」
エアグルーヴに励まされて少しすると沢山の食材をもってヒシアマゾンとファインモーションがやってきた
「何故ファインモーションまで?」
「だってグルーヴさんが困ってるって聞いたらいても立ってもいられなくてー」
「まぁ 許してやんなよ 一応相部屋なわけだし無関係とは言えないからね」
「別に構わんけど… 風邪伝染らないようにマスクね」
ヒシアマゾンに料理を教えて貰っている間、ファインモーションにエアグルーヴの相手をしてもらった
「なるほどね… 生姜は体を温める作用があるのか…」
「そうさ 料理には適量混ぜなよ!」
「はい!」
今の若い子達はみんな料理ができるのか?それとも俺ができないだけか?エアグルーヴやヒシアマゾンの料理を見ていると自分に自信が無くなる
「…エアグルーヴはね」
「なんだ?」
「あぁ見えて繊細で寂しがり屋なんだよ?」
「知ってるさ」
「あはは そうかい」
知っているさ…知ってる… でもしっかりとその気持ちを理解できるようになったのは最近だ
「…エアグルーヴを頼んだよ」
「え?」
「さぁ できたできた 早く持っていってやんな!」
「どわっ!」
ヒシアマゾンに料理を押し付けられエアグルーヴの元に向かった
ヒシアマゾンの言った「頼んだよ」の意味は風邪を引いてしまっているエアグルーヴのことを頼んだという意味なのか
それとも…
「エアグルーヴ入るぞ?」
「しっー…」
「おっと…」
エアグルーヴは眠ってしまっていたようだ
「グルーヴさん 寝ちゃった」
「そうか… じゃあ料理はラップしておこう」
「うふふふ…」
ファインモーションがずっとニヤニヤしている
「なにか面白いことでもあったか?」
「うふふ グルーヴさんの寝顔久しぶりに見たから なんだか面白くって」
「え? 相部屋じゃないのか?」
「そうだけど… いつも私より遅く起きてるから、なかなか寝顔なんて見れなくて…」
「そうなのか…」
「…グルーヴさんね さりげなくいつも君との話を聞かせてくれんるだよ?」
「俺との?」
「うん そうだよ 「今日はあいつはな…」 とか「またあいつは..」みたいな感じでさ」
「なんかそれ愚痴じゃない?」
「私はそんな風には思えなかったけどな」
「え?」
「だってグルーヴさん 楽しそうに君のこと話すから」
「楽しそう?」
「表情がね 明るいんだよ! いつもはちょっと怖い顔してるグルーヴさんがニコニコしてるから ニコニコしながら愚痴は話さないでしょ?」
「まぁ 確かにな…」
「グルーヴさんはきっと気の前でなら素直になれているんだろうね」
「そうだと思うぞ? 少し不器用だがな」
「ふーん…」
ファインモーションがニマニマしながらこちら覗いてくる
「…なんだ?」
「いーや 別にぃ?」
「…」
「グルーヴさんのトレーナーさんはもしかして…グルーヴさんのこと好…」
「おーい ファイン! そろそろ帰るよ!」
ファインモーションが何か言いかけたところでヒシアマゾンが割って入ってきた
「はーい またね グルーヴさんのトレーナーさん いつかグルーヴさんが泊まった時の話とか聞かせてね?」
「…なんで知ってるんだ」
ヒシアマゾンとファインモーションが帰り家の中は静まりかえっていた
俺はエアグルーヴのすぐ側の椅子に座り足を組んだ
エアグルーヴはかなりぐっすり眠っていた
風邪薬の副作用だろう
「エアグルーヴが…楽しそうに…か」
楽しそうに俺の事を話してくれているとは思いもしなかった
君はファインモーションに一体どんな話をしたんだろうか
一緒にトレーニングしたことか?
一緒に買い物に行ったことか?
一緒に夏祭りに行ったことか?
一緒に海を見に行ったことか?
一緒に…
「一緒にか…」
思えばエアグルーヴに思いを伝えたあの日からというものエアグルーヴと過ごす時間が思いを伝える前より数倍になっていた
だらだら過ごしていた休日は買い物に一緒に行くようになったり
仕事が終わってからは食材を買いに一緒にスーパーに行ったり
夏期休暇には夏祭りに行ったりなど
どれも比較的記憶に新しいものばかりだが強く印象に残っている
きっと俺はこの新しい記憶を刻む度に君を好きになっていくんだろう
あの時ファインモーションの言葉が頭を往復する
「素直になれているんだろね」
「俺が素直にまだなれてないもんなぁ…」
そう呟きながら俺は少し乱れているエアグルーヴの前髪を少し指で整えた
「俺も眠くなってきたな…」
時刻は16:00
少し俺も仮眠をとることにしよう
俺は腕を組んで目を閉じるのであった
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