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「ゆあんくーん、ご飯できたよ〜」
「はーい!今降りるからちょっと待って」
「もふくんとなおきりさんが殆ど食べちゃうよ」
「今すぐ降りる!!」
騒がしい音がリビングに響き渡っているのを耳で感じ、パソコンを閉じたら階段をくだる。
リビングを見ると俺以外集まってて、べべは俺みたいだ。
「ゆあんくんおっそーーい!!」
「やーい、遅刻魔」
「俺、お前だけにはそれ言われたくないんだけど…!」
ふぅ…と一息ついて椅子に腰を下ろす、今日はどうやら和食らしい。
焼き魚の香ばしい匂いが鼻を通り抜けた。
「じゃあ手を合わせてー…!」
「「いただきます!!」」
サクッとした皮を剥いで身をつまむ、ほくほくとしていてとても美味しそう。
「…うま!」
「のあさーん、私味噌汁おかわりしていい?」
「キッチンに置いてあるよー!」
「り」
えとさんが味噌汁をおかわりするらしく立ち上がってキッチンに向かった。
るなは人参が苦手なのか、ヒロくんと話しているじゃぱぱの目を盗んでこっそりとお皿に人参をはけている。
…俺もしよ
「ご馳走様でした」
「おそつ様でした〜」
「俺この後やんなきゃいけない事あるから部屋戻るね」
「はーい」
「仕事熱心なやつー」
「まあ、頑張ってね」
「おう」
「……」
「じゃっぴ、どうしたの〜…?」
「いや、なんでもない!俺皿洗い手伝うよ」
部屋に戻ると、さっきまで聞こえていた笑い声が聞こえなくなる。
さっきまであんなに騒がしかったのに、自分の部屋だけは別世界みたいだった。
机の前に座り、パソコンを開く。
画面には、見慣れた暗号化された通信画面。
一応誰にも見られてないか周りを確認した後指を動かして、ファイルを開く。
『虹桃軍総司令官、じゃぱぱの暗殺』
何度見ても変わらない。
2年前からずっと変わらない、俺の任務。
本来なら、とっくに終わっているはずだった。
なのに俺は、今日まで何もしていない、
…いや、何もしていないなんて言い方は違うかな。
俺は何度も機会を見つけていた、じゃぱぱが一人になる時間も、警備が薄くなる場所も。
武器を持たずに眠っている時間だって知っている。
やろうと思えば、いつでもできた。
それでもあいつらは、俺を本当の家族のように接してくれたから。
「……できるわけないだろ」
小さく呟く。
「ゆあんくん、今日暇なら一緒にゲームしよ!」
くだらないことで笑って、俺が任務で疲れていると
「無理しなくていいからね」
なんて言って。
何にも俺のことを知らないくせに、無防備に笑っていっつもこんな俺の事を気にかけてくれる。
俺はその優しさを利用してやろうと最初はそう思っていた。
全部任務のためだとか、情報を集めるためだとか。
信頼されるため、この場所を壊すため。
なのにいつからだ。
この場所を守りたいと思うようになったのは。
「……っ」
机に肘をつき、両手で顔を覆う。
俺は敵国の人間だ、こいつらは俺にとって殺さなきゃいけない敵なんだ。
じゃぱぱだって、俺が殺すべき相手だ。
「今日からここが、ゆあんくんの家だよ」
あの日の言葉が、頭から離れない。
あいつはここを俺の家だと言った、初めて見たそこは組織なんて呼べない暖かな場所で。
「俺…どうすればいいの」
画面の上でカーソルが点滅している。
その下には、任務の期限が表示されていた。
残り3日。
それまでにじゃぱぱを殺せ。
できなければ、俺自身が処分される。
「っくそ」
拳を握り机にドンと押し付けた。
どちらを選んでも何かを失う、任務を遂行すれば俺はこの場所を壊す。
任務を捨てれば、俺が殺されてしまう。
「なんで、なんで俺なんだよ…」
こんな気持ちを知るために、俺はここに来たわけじゃないのに。
コンコン。
「…!」
突然ドアがノックされ、慌ててパソコンを閉じた。
「ゆあんくーん?」
「……じゃぱぱ?」
「うん。入っていい?」
「あ、あぁ…散らかってるけど」
ドアがゆっくり開く。
そこには、いつものように笑っているじゃぱぱが申し訳なさそうにこちらを覗いた。
「まだ仕事中?」
「まあ、ちょっとな」
「そっか」
じゃぱぱは部屋に入ると、俺の机の横まで歩いてくる。
そして、俺の顔を覗き込んだ。
「やっぱりなんか疲れてるとかない?」
「え?」
「いや!勘違いならいいんだけどさ、そう思って」
「そんなことないよ、あれじゃね?睡眠不足かも」
「ほんと?」
「ほんとほんと…笑」
笑ってみせる、いつものように。
何も知らないこいつを安心させるために。
するとじゃぱぱは、少しだけ黙ってから笑った。
「ならよかった」
「……」
「でもさ」
じゃぱぱは俺の肩を軽く叩いてはにかんだ。
「困ったことがあったら、ちゃんと言ってね」
「……」
「俺、ゆあんくんのこと仲間だと思ってるから」
……
「仲間?」
「うん」
じゃぱぱはさも当たり前のように言って、笑いながらドアノブに手を置いた。
「俺たち、家族みたいなもんじゃん?」
「……」
その言葉だけで、胸の奥が痛くなった。
ねえじゃぱぱ、俺は今までずっと。
お前を、殺す為に。
「じゃぱぱ」
「んー?」
「……いや」
言えるものか、こんな優しい人に。
俺はスパイだなんて、お前を殺すために来たなんて。
……絶対言えないじゃん。
「いや、なんでもない」
「そう?」
「うん」
じゃぱぱは不思議そうな顔をしながらも、こちらがもう話す気がないのがわかったのかそれ以上は聞かなかった。
「じゃあ、俺もう寝るね。ゆあんくんもほどほどにして寝なよ?」
「おう」
「おやすみ」
「おやすみ、じゃぱぱ」
ドアが閉り再び部屋が静かになった。
ゆっくりとパソコンを開くと画面には変わらない3日という文字。
「…無理だ」
1人静かな部屋で、俺は初めて任務に対してはっきりそう呟いた。
「俺は、こいつを裏切れない」