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過去作の再掲です。
⚠️別れ話
時間っていうのは無情だ。12時に近づく目の前の針をどうにかして止められたらいいのに。
「……はやと」
小さな、いや、もう小さくはないか。その手が俺の腕を掴む。あ、思ってたより力強い。
「ねえ、別れる前に、1回だけ」
おねがい、と目を瞑って、仁人はその形の良い唇を差し出した。
小さいリップ音を響かせて、それで、仁人が目を開けて。あと3分。
「ありがと。俺さ、勇斗とこんな風になれて嬉しかったよ」
もっと嫌がると思ってたのに、仁人はすごく清々しい顔をしている。
「……何泣いてんの」
ぱっと自分の目元に手をやると、確かに濡れていた。
「どんだけ駄々こねたってもう別れないと。もう終わり。もう大人になるしかないのよ。これは俺らのためだけじゃなくて、周りのためでもあるんだから」
俺のこと抱きしめてそんなこと言う。ずるい。ふたつ下なのに俺よりずっと考えてる。俺、別れたくないよ。別れたくないよ本当に。ずっとこのままがいい。こっそり手を繋いで帰ったり、おうちデートで映画見ながらチューしたり、そんな誰にも邪魔されない時間がどれだけ救いだったか、仁人は知らんだろ。
ふう、と耳元で息を吐く音がした。
「もう12時来るからね。ほんとに終わり。明日からはただのメンバーだよ俺ら」
……やだなぁ。あんだけ話し合って、その途中でも泣いて、最後に決めたことなのに。まだ一緒にいたいって思っちゃう。でも、秒針の鳴る音が止まってくれない。
「……きらきらしてたよ、勇斗は、いつも」
仁人の指に力が籠った。あと1分。
「いつもかっこよくて、時々可愛いとこもあって……ダサい時もあったけどね」
「仁人って呼ぶときの勇斗、かっこいい」
「手を繋ぐときに一拍置くところかわいい」
「初デートで張り切りすぎて空振ったの、一生忘れらんないと思うわ」
「……なんか、俺ばっか覚えてんね」
最後にそんな事言うなよ。俺だって仁人との思い出いっぱいあるに決まってんだろ。伝えなきゃ。あと15秒。
「俺だって!」
あ、思ってたより声が大きい。でも、伝えたい。
「俺だって、ずっとちゃんと仁人のこと好き! 俺のこと見る目もかまって欲しい時の仕草も寝てる時の眉間の皺も! 吉田仁人の全部が好きだ! 大好きだ! ほんとにっ! ……大好きでした」
カチリ。音が鳴って、どちらからともなく身体を離した。これでこの関係は終わり。もう、おしまい。全部。
「……俺、帰るね」
仁人が身支度を始めた。普段、こんな遅くなら泊まっていくのに。ほんとに別れたんだ。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日」
扉は閉じた。キスはなかった。仕事仲間の挨拶。それ以上でもそれ以下でもない。十何年一緒にいた、メンバーとして、明日も。
「ここまでしたんだから、絶対幸せにならなきゃな」
この家にはもう俺しか居なかった。
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コメント
1件
みぅです🤍🥀 ……読み終わって、しばらく動けなかった。 12時になったら終わり。そのルールがもう残酷で。カウントダウンしながら「大好きでした」って過去形にする瞬間、すごく胸が痛かった。時間って戻せないんだなって改めて感じたよ。仁人が清々しい顔してたのが逆に辛い……勇斗の涙、仁人にバレてなかったんだね。 「絶対幸せにならなきゃ」って最後の一言に、全部詰まってる気がした。二人が宝物みたいな思い出をちゃんと抱えて生きていくんだろうなって、信じたいです。