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坂田銀にゃん
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ユイ
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コメント
3件
「蒼海の航路」の霧の向こうに浮かび上がる島の描写、すごく幻想的で惹き込まれました……。百年前のアレクサンダーと現代の美月が、一枚の写真を通じて不思議に繋がっていく感じがたまらないです。コナン君が「嫌な予感」って言った時点で背筋が伸びました。怪盗ファントムの正体も気になるし、ラストのネプチューンの雰囲気、重くてゾクゾクします……。続きが待ちきれないです🌙
スタートーー❗️
夜明け前。
世界中の海を知る者だけが、その存在を噂する海域がある。
大西洋の中央。
深い霧に包まれたその場所は、古い航海日誌の中でだけこう呼ばれていた。
──「蒼海の航路」。
そこには、百年前に忽然と姿を消した島があるという。
誰もたどり着けず、誰も帰ってこなかった幻の島。
しかし、その島を目撃した者が一人だけいた。
⸻
一九二五年 北大西洋
荒れ狂う波が、巨大な蒸気船を飲み込もうとしていた。
「右舷二十度! 面舵いっぱい!」
船長の怒号が嵐にかき消される。
黒い雲が空を覆い、稲妻が海を裂いた。
その甲板の上で、一人の青年が必死にカメラを抱えていた。
名は――アレクサンダー・ロイド。
英国王立地理学会に所属する若き探検写真家だった。
「これが……本当に……!」
彼の視線の先。
霧の切れ間から、一瞬だけ島が姿を現す。
断崖の上に建つ、白い灯台。
その背後には、朝日を浴びて青く輝く巨大な結晶の山。
まるで海そのものが宝石になったかのような光景だった。
震える手でシャッターを切る。
――カシャッ。
それが、「蒼海のレガシー」と呼ばれる伝説の写真になった。
だが、その直後。
ドォォン!!
大きな衝撃。
船体が激しく揺れる。
「岩礁だ!」
「浸水している!」
船員たちが叫ぶ。
アレクサンダーは胸元の革ケースにガラス乾板をしまい込み、空を見上げた。
「この景色だけは……未来へ。」
その言葉を最後に、船は霧の中へ消えていった。
以来、彼も船も、二度と発見されることはなかった。
⸻
現代
東京湾。
朝日を受けて、白く輝く一隻の豪華客船がゆっくりと岸壁を離れようとしていた。
全長三百五十メートル。
世界一周クルーズ船――
「クイーン・アステリア号」。
十二階建ての船内には劇場、美術館、プール、植物園、さらには小さな天文ドームまで備えられている。
その船が今回開催する特別企画。
「世界文化遺産写真展」
世界各国から選ばれた写真家だけが参加を許される、最高峰の写真展だった。
⸻
招待状
「すごい……。」
白石美月は桟橋に立ち、巨大な船を見上げていた。
制服ではなく、白いブラウスに紺色のジャケット。
肩には愛用のカメラバッグ。
首からは、神崎蒼介から受け継いだ星形のペンダントが揺れている。
「本当に乗るんだね。」
隣では蒼真が笑っていた。
「世界中の写真家が集まるなんて、夢みたい。」
美月は少し照れながら答える。
「まだ信じられないよ。」
一週間前。
一通の招待状が届いた。
『あなたの作品”約束の夜”を、世界文化遺産写真展へ招待します。』
高校生としては異例の参加だった。
それだけ、美月の写真は世界で評価され始めていた。
⸻
偶然の再会
「おや?」
聞き慣れた声が背後から響く。
「美月ちゃんじゃないか!」
振り返ると、そこには毛利小五郎、蘭、そして江戸川コナンが立っていた。
「コナン君!」
蘭が笑顔で手を振る。
「まさか同じ船だったなんて!」
小五郎は胸を張る。
「世界的な写真展の警備を頼まれてな。」
コナンは苦笑した。
(いや、おじさんは豪華客船の無料招待につられただけなんだけど……。)
美月は思わず笑ってしまう。
「また一緒ですね。」
コナンも笑顔でうなずいた。
「うん。でも今回は……」
彼の視線が船へ向く。
「何か嫌な予感がする。」
⸻
展示室
船内の特別ギャラリー。
ガラスケースの中央には、一枚の古い写真が展示されていた。
白黒写真。
霧の中に浮かぶ白い灯台。
その下には説明文。
『蒼海のレガシー』
一九二五年撮影。
撮影者:アレクサンダー・ロイド。
現存する唯一のガラス乾板写真。
「これが……。」
美月は息をのむ。
「百年前の写真。」
写真を見つめるほど、不思議な感覚に包まれる。
まるで、遠い海の潮風が吹き抜けたようだった。
その時。
会場の照明が一瞬だけ揺らぐ。
パッ。
すぐに明かりは戻る。
誰も気に留めなかった。
ただ一人。
コナンだけが天井を見上げていた。
(……停電?)
(いや。)
(誰かが電源に触れた?)
⸻
白いカード
夜。
船上では盛大な歓迎パーティーが開かれていた。
楽団の演奏。
華やかなダンス。
笑い声。
シャンパングラスの音。
その裏で、一人の黒い影が静かに展示室へ降り立つ。
白い手袋。
黒いコート。
月明かりを映す銀色の仮面。
「時間です。」
その人物はガラスケースの前に立ち、小さく帽子を上げた。
ガラスは傷一つなく開き、中のガラス乾板は静かに持ち上げられる。
代わりに置かれたのは、一枚の白いカード。
そこには、美しい筆跡でこう記されていた。
『この写真は、あるべき場所へ返します。』
──怪盗ファントム
⸻
ラストシーン
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
船内に警報が鳴り響く。
「展示品が盗まれた!」
「犯人はまだ船内だ!」
乗客たちが騒然となる中、コナンは展示室へ駆け込む。
ガラスケースは空。
残された白いカードを見て、彼は静かに目を細めた。
「怪盗ファントム……。」
その頃、誰もいない甲板では、一人の青年が夜風にマントをなびかせていた。
彼の手には、「蒼海のレガシー」のガラス乾板。
しかし、その瞳に浮かぶのは、盗みを成功させた喜びではない。
深い悲しみだった。
「先生……。」
青年は、海の向こうを見つめながら小さくつぶやく。
「必ず、この写真を本当の場所へ帰します。」
次の瞬間、白いマントが夜空へ翻る。
怪盗ファントムは月明かりの中へと姿を消した。
一方、その様子を船の最上階から双眼鏡で見つめる黒い影があった。
男は静かに無線機を握る。
「作戦開始だ。」
「『ネプチューン』全員に伝えろ。」
「写真を持つ者は、生かして帰すな。」
冷たい声が夜の海へ溶けていく。
豪華客船は何も知らないまま、果てしない大海原へ進み続けるのだった。
⸻
――プロローグ 終――
次回・第一章「豪華客船の密室」
ガラス乾板盗難事件の捜査を始めたコナンたち。しかし翌朝、船内の展望ラウンジで写真展の関係者が密室状態で殺害される。豪華客船を舞台に、世界を揺るがす大事件の幕が上がる――。