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むぎたろう
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鳳 咲千愛@企画開催中
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どこまでも青い空が広がる日だった。 桜の並木道に積もっていた雪は溶け、心地良い音につられて顔を向けると、今日も白浜の海は美しく輝いている。
見慣れた道を歩くこと四十分。今日で、この長ったらしい距離を歩かなくて良いかと思うと、せいせいする。
今日は三月一日、高校の卒業式。
カッターシャツを第一ボタンまでしっかり留め、ネクタイが歪んでないかを確認し、流行りとか知らねーが髪は一応整えたつもりだ。
胸ポケットに飾りもんの花を付けられ、ガラにもなく下級生に「ありがとうな」と呟くと、周りが明らかにギョッとした表情を浮かべた。
……まあ、言いたいことは分かる。
だが、苛立ちよりどこか笑えてきた俺はその場を離れようとすると「はい!」と返され、思わずその男子に小さく会釈しちまった。
ニヤける顔を押さえつつ、教室へと向かって行く。
先生の話を聞き、並んで体育館へ行き、席に座って、名前を呼ばれたら卒業証書を受け取り、また座り、校長の話を聞く。
今までの俺なら間違いなくバックれていたが、今日この場所に座っている。何故なら。
「吉永未来さん」
その名前に胸が締め付けられ顔を上げると、目の前を通り過ぎていく女性。
一人服装が違うその人は、校長より卒業証書を受け取り、頭を下げて俺の後ろの席へと戻っていく。
……未来の母親だ。
その胸には、入学式の日に撮ったと思われるあいつの制服姿の遺影。
あまりにも希望に満ち溢れた表情が、目に染みて仕方がねぇ。
本来ならあいつは休学した二年生のままで、退学予定だった。
しかし未来の友達やクラスメイトだった奴らが、共に過ごした俺達と一緒に卒業出来るようにして欲しいと直談判をし、事情が事情の為に特別に許可が降りた。
あいつが卒業式に出るのに、俺が出ねぇのもなんか癪だしよ。
それに俺は、未来の母さんの前では良い男ぶりたいんだよ。……娘の最期に寄り添った奴は、まあまあの男だった。そう安心して欲しくてな。
卒業式が終わり、校舎をバッグに写真を撮るクラスの奴ら。
未来の友人だった女子二人と母親が共に写真を撮り、顔を見合わせて口を動かしている。すると徐々に、あいつの母親を囲む生徒は増えていき、同様のことが繰り返されていく光景が目に入る。
……クラスの人気者だったもんな。
未来の遺影と撮影をする同級生達の姿に、どうしてあいつだけこの晴れ舞台に立てなかったのかという、どうしようもない考えが頭の中を駆け巡る。
「藤城くんも、一緒に行こうよ?」
脳内でうごめていた黒いものを一瞬で跳ね除けてくれたのは、どこまでも優しい主人公声。
爽やか一軍男子、内藤だ。
俺の返事も聞かねぇ、まさしく主人公なキラキラ男子は、俺の手を無理矢理掴んで引っ張って行きやがる。
今までの俺ならマジギレして、「余計なことすんな!」と怒鳴り散らすが、こいつのお節介がやたら温かくて、嫌味がなさすぎて、ついつい聞いてしまうあたり未来と同じ素質なんだろな。
「あ、藤城くん」
俺に目を向け慈悲深い表情を浮かべる未来の母親は、「文学部、受かったんだってね」と手を叩いて笑ってくれ、未来の写真に「良かったね」と語りかけている。
未来が目指していた国公立の大学。お前の成績なら特待生を狙えただろうが、俺にはムリだったよ。
そう写真に向かって、苦笑いを浮かべちまう。
「……持ってあげてくれる?」
未来の母親より渡された、あいつの遺影。
そんな重くないはずなのに、それはやたらズッシリときて。命の重みかなんか分からねーが、こいつの息遣いが聞こえたような気がした。
「俺に、未来さんの話を書かせてください」
遺影を返す時にそう告げ、頭を深々と下げた。
何年かかるか分からねぇ。だけど書きたいんだ。強く生きた、彼女の物語を。
「……一つ、条件があるけど良いかな?」
柔らかい中にどこか芯があるような声に、俺は顔をそっと上げる。
「未来を越えてね、藤城くん」
こちらを見据える目は、あの日、桜の並木道で執筆のやり方を教えてくださいと頭を下げてきた未来と同じ眼差しだった。
「はい」
唇を噛み、その言葉を心に刻み、一呼吸置いて返答をする。
西条寺 華。彼女の実力は高く、公募で大賞に輝いた選評は、プロが手放しに絶賛するものだった。書籍の売り上げも、評判も良く、次回作を期待しているなどのコメントも目にするほどに。
そんな彼女を越すなんて並大抵なことではないだろうが、やってやるよ。
だってあいつ、百年後に俺が来るのを待ってるらしいから、その時に駄作ばかり持ってたら、みっともねーだろ?
やっぱり、コイツすげーな。そう思わせたいから。