週末の土曜日。昨日の検診でも特に異常はないと診断され、一安心していた七二に、蘭は声をかけた。
桃「ねぇ、ひま君。」
赤「はい?」
桃「今日なんだけど、これから、良ければ鈴と公園に行ってきて欲しいんだ。」
赤「鈴ちゃんとですか?別に大丈夫ですけど…」
公園は、この家から歩いて10分ほどのところにある。人もあまりおらず、鈴蘭のお気に入りかつ近場ということもあって、いつも週末に4人で行くことが多い。
緑「ごめんね…何かあったら、直ぐに帰ってくればいいからね。」
赤「?はい…」
鈴「ひまおにーちゃんとこーえん?」
桃「そうだよ。でも鈴、お兄ちゃんのお腹の中には赤ちゃんがいるから、一緒に鬼ごっこしたり、遊具で遊んだりは出来ないんだ。分かった?」
鈴「うん!すずおねーちゃんだもん!」
緑「偉い偉い!」
ナデナデ
赤「よし、じゃあ準備してお出かけしよっか!」
鈴「うん!」
準備をする二人を見守りながら、蘭は少し険しい顔をする。
緑「…らんらん。」
ギュッ
翠智は、少し震えている蘭の手を握った。
緑「大丈夫。きっと何も起こらないから…俺達は、俺たちのすべきことをしよう?」
桃「…うん。」
一度目を閉じ深呼吸をした蘭。再度開かれた彼の目には、決意の眼差しが宿っていた。
数分後
鈴「いってきまーす!」
赤「行ってきます。」
緑桃「行ってらっしゃい。」
2人に見送られた七二と鈴蘭は、手を繋ぎながら公園へと向かう。
鈴「おにーちゃん!おすなばであそぼー?」
赤「いいけど、鈴ちゃん、滑り台は?」
鈴「いーの!すず、おすなばであそぶのー!」
赤「ww…わかった、砂場で遊ぼうな。」
鈴「うん!」
赤(…気ぃ使ってくれてるんだな…こんな奴に。)
家出をしていると言えど、仮にも暴力団の人間だ。きっと本来なら、もっと怖がられるべきなんだろう。でもこの一家は、素性を話してないと言えど、見ず知らずの自分に、こんなにも優しくしてくれる。家族のいない七二にとってそれは、いつの日かの彼のようで、とても嬉しかった。
公園に入ると、いつもと様子が違った。
いかにもチンピラのような、自分より少し体格の大きい男性が数名いた。
そして、公園の入口にいる七二達に気づいた途端、こちらへと寄ってくる。
赤(高校生…いや、大学生か、翠智さん達と同じくらいか。)
鈴「おにーちゃん…ウルウル」
赤「ッ!…大丈夫。兄ちゃんが守ってやるから。」
七二はそう言いながら、鈴蘭を後ろに隠した。
不良1「なんだお前、ここ俺たちの縄張りなんですけど?」
不良2「何勝手に入ってこようとしてんだよw」
赤「ここは公共の場だ。誰の所有物でもねぇ。」
不良3「あ”ぁ”ん!?やんのかゴラ!」
赤「はっいいぜ?受けてやんよ。」
これでも七二は紫苑組若旦那の右腕。それなりの武術は身につけている。
鈴「ッダメ!おにーちゃん、赤ちゃんいるの!たたいちゃめなの!」
唐突に、七二の後ろにいた鈴蘭が声を上げる。七二達の様子に、なにかを察知したのだろう。
不良3「は?赤ちゃん?こいつ男だろ?」
不良1「やけに腹だけでけぇと思ったけど、そういうことかよw」
不良2「男が妊娠とか気持ち悪〜wってか何、男同士でやっちゃってんの?やばw」
赤「ッそれでこれとは関係ねぇだろ!」
不良2「あ?口の利き方のなってねぇ坊主だな…しっかりと教育したろうかゴラァ!」
赤「ッ!」
サッ
反射的に攻撃を交わした七二は叫んだ。
赤「ッ鈴ちゃん!家に帰って、パパとママ呼んできて!」
鈴「でも、おにーちゃん!」
赤「俺は大丈夫だから、はやく!」
赤(鈴ちゃんを怖がらせる訳には行かない…それに、俺のせいであの子にまで危害を加えられるかもしれない…)
鈴「ッ…うん!」
タタタタタ…
鈴蘭が走っていったのを見送った七二は改めて不良達を見つめ直した。
不良2「ふーん、やるじゃねえか…でもなぁ、人数的には俺たちの方が、有利なんだよなぁ!?」
サッ…ドガッ💥
不良1「んなッ!?」
赤「はっそんなもんかよ!」
ボカッ!💥ボコッ!💥
不良2「ぐはっ!」
不良3「んぐっ!?」
身重だとしてもやはり力量差は大きいらしい。七二は足で相手を蹴り飛ばした。
赤「ふっ、さっきの威勢はどうしたよ。」
不良3「う、うるせぇ!」
不良2「こんなに強えなんて…お前、只者じゃねぇな!?」
赤「さぁな。」
不良1「くっそ…そうだ…ニヤ」
そう言うと一人が七二に近づいていく。
赤「なんだよ。気持ち悪ぃ笑顔しやがって…」
不良1「お前、腹に赤ん坊いんだよな?」
赤「ッ…だったら、なんだよ…」
不良1「ならさぁ…」
ボコッ💥
赤「んぐッ!?」
不良は、七二の腹に蹴りをいれた。
赤(やばい…赤ちゃん…ッ!)
不良1「お前の腹蹴り続けたら、赤ちゃん死んじまうよなぁ!?」
不良2「はっ!何それ最高!」
不良3「それなwおもしろそうじゃんw!」
赤「ッ…」
不良123「おらぁ!」
赤「ッやば…」
赤(三人一気に…!)
ボカッ!ドゴッ!バコン!
七二は咄嗟に腹を守った。
でも七二はそのまま蹴り飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
不良2「形勢逆転だなぁw」
不良1「大人に逆らうからそうなんだよ!」
不良3「ははっ!そもそも男が妊娠するなんて、気持ち悪ぃんだよ!」
三人はそう言いながら七二を蹴り続けた。
赤(ッ…若…!)
七二は辛うじて自分の腹を守った。
赤「だめ…赤ちゃん…ッ((ボソッ…」
赤(若との赤ちゃん…ッ!)
そうして、数分、数十分と過ぎていき…
赤(やばい…いし、きが…)
頭を蹴られたり、背中を踏みつけられたり散々された七二の意識は少しづつ遠ざかっていく。そんな時…
緑「ッ何してるんですか!」
赤(翠智さん…ッ?)
桃「ひま君ッ!」
赤(蘭さん…ッ)
不良1「あぁん!?なんだよ!次から次に!」
緑「彼に何してるんですか。彼のお腹を見れば、赤ちゃんがいることぐらいわかるでしょう。」
不良2「あぁ、だから面白いんだよ。俺達が妊娠してる男を流産させてやるんだよw」
不良3「可愛い可愛い赤ちゃんも守れないなんて、母親失格だもんなぁ…w」
赤「ッ…ぁ、あかちゃ…ッポロ」
桃「ッお前ら、黙って聞いてたらペラペラと…!」
不良2「何?やんの?お前もそいつとおんなじ様にしてやるぜw?」
桃「ッ…」
赤「ッ…だめ、らんさ…たち、には…ッ」
桃「ッ…ひま君…」
緑「ッ…とりあえず、今日はもうやめてください。警察呼びますよ!?」
不良2「チッせっかく面白いと思ったのに…」
不良1「兄ちゃんまた来てよwまた遊んでやるからさぁ…w?」
赤「ッ…」
そう言い残してチンピラ達は帰っていった。
赤「ッ…ぁ”!?」
いきなり、七二の腹部が痛んだ。
桃「どうしたの!?」
緑「もしかして、陣痛…?」
桃「ッ!?でも、まだ7ヶ月なのに…」
赤「ッハァ…ッハァ…いたい…いたい…ッポロポロ」
桃「す、翠智!救急車!」
緑「う、うん!」
桃「ひま君、大丈夫だから…」
ギュッ
サスサス…( ´ ..)੭⸒⸒
蘭は七二の手を握り、腹や腰を摩った。
自分が子供を産んだ時に、旦那がそうしてくれたように。
赤「ッハァ…ッハァ…赤ちゃん…赤ちゃん…ッ((ボソッ」
緑「呼んだよ!3分ぐらいで来るって!」
桃「分かった。ひま君、もう少しだからねー?」
赤「ッ…コクコク」
緑「あ、そうだ。らんらん、あの人達に…」
桃「あ、そうだね。翠智、ここ代わってくれる?」
緑「うん!」
翠智が七二の手を握り、蘭はどこかに電話をかけた。
🚑ピーポーピーポ~
緑「来た…!」
救急隊1「救急隊です!患者は…!?」
やってきた救急隊は、七二を見て驚いたような顔をする。
緑「ッこの人、男性妊娠できる体質なんです。それと、さっきまで数人の不良集団に殴られていて…!」
救急隊2「そ、そうなんですね…貴方達との関係は?」
桃「僕達はこの近所に住む彼の親戚です。あの、彼を○×病院に運べますか?」
救急隊3「は、はい。大丈夫ですよ!」
赤「ハァ…ハァ…」
救急4「と、とりあえず、彼を運ぶぞ!」
救急123「は、はい!」
七二が担架で救急車に乗せられる。
救急隊員2「お二人もお乗り下さい!」
救急車に乗って、病院に向かう。
黄「音奏さん!ひま君!」
桃「十七夜先生!」
黄「大丈夫、俺にまかせて下さい!」
緑「おねがいします…」
そのまま、七二は手術室に運ばれていく。
赤ちゃんが、本来よりも早く産まれそうになったのと、身体中を痛めているため、帝王切開となったのだ。
桃「ッ…七二…」
緑「大丈夫…大丈夫だよ、らんらん…」
桃「ッ…うん…」
二人が手術室の前の椅子で待っていると、数人の足音が聞こえた。
鈴「まま!ぱぱ!」
二人の娘、鈴蘭。そして…
紫父「蘭さん。翠智さん。」
紫母「蘭さん…」
紫苑組の現当主であり、紫苑屋の店主。
そして或間の父の紫苑晴真(しおんはるま)と、その妻、母の紫苑未結(しおんみゆい)だった。
コメント
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続きめっちゃ楽しみにしてます〜!!!!!!
こ ん な に 更 新 さ れ て た な ん て … ! 知 ら な か っ た 自 分 を 後 悔 😢 続 き ず ー っ と 待 っ て る ね ! ( え な ん か 怖 い ね 笑
一年後になっても、続きを楽しみに待っています!