テラーノベル
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パトカーのサイレンが、鼓膜をこれでもかと激しく圧迫している。
赤と青の無機質な光が、カーテンの隙間から部屋の天井を不気味に侵食していた。
「らんらん、邪魔者がたくさん集まってきちゃったね」
すちは、いつもの優しい、とろけるような笑顔で微笑んだ。
その手には、台所から持ってきたナイフが握られている。
刃先が部屋の明かりを反射して、冷たくギラリと光った。
「大丈夫だよ。俺たちを邪魔する奴らは、俺が全員消してあげる。それでも駄目なら、最後は二人で、誰も来られない遠いところへ行こう?♡」
すちの瞳には、狂気と、俺への底知れない執着だけが濁濁と渦巻いている。
その瞳を見た瞬間、俺の脳内を支配していた甘い酩酊の霧が、さらに深く、濃く、俺の理性を完全に溶かした。
(あぁ、そっか……。俺たち、やっと一つになれるんだ)
周りの人間なんて、最初からどうでもよかった。
学校も、未来も、社会も、すべてはこの人がいれば必要ない。
この美しい怪物を生み出したのが俺なら、俺はその怪物に喰われて終わるのが、一番お似合いの結末だ。
「すち、俺もいくよ。どこまでもいっしょに連れてって?」
俺は、すちに向かって、あの日以上の最高の笑顔を浮かべた。
すちは「うん、愛してるよ、らんらん」と愛おしそうに俺を抱きしめ、ナイフを持たない方の手で、俺の髪を優しく撫でた。
二人はベッドへ倒れ込み、最後の瞬間を貪り合うように、激しく身体を重ね合わせた。
外の騒音なんて、もう耳に届かない。お互いだけが、呼吸をする唯一の理由だった。
ドアの向こうで、何かが激しく衝突する音が聞こえるまでは。
――ドォンッッ!!
鼓膜を破らんばかりの爆音と共に、部屋のドアが内側へ吹き飛んだ。
「警察だ! 動くな!」
怒号、容赦のない靴音、精度高く室内に射し込む閃光。
一瞬で、二人の「楽園」は暴力的な現実によって踏み荒らされた。
「らんらんに触るなッッ!!」
すちが叫び、ナイフを構えて立ち上がろうとする。
しかし、突入してきた数人の警察官が、容赦なくすちの巨体に組み付いた。
「すち!!」
俺が手を伸ばした瞬間、俺の身体も別の警察官たちによってベッドに押し付けられた。
「離せ! すち! すち!!」
俺のモノになッテ♡♡
#御本人様とは一切関係ありません
せな⚡️
1,504
#御本人様とは一切関係ありません
「らんらん! らんらん、俺を見て! 俺はらんらんだけを――っ!」
すちの顔が、容赦なく床に叩きつけられる。
鈍い音が響き、すちの額から鮮血が流れた。
かつて俺を甘く愛で、宝物のように扱ってくれたすちの身体が、ただの「凶悪な犯罪者」として、モノのように乱暴に扱われ、手錠をかけられていく。
「やめて! 触らないで! 俺が、俺が頼んだんだ! すちは悪くない!」
どれだけ叫んでも、俺の言葉は「監禁されて錯乱した被害者の悲鳴」として、誰にも聞き入れられなかった。
すちは髪を振り乱し、血と泥にまみれながら、狂ったように俺の名前を叫び続ける。
「らんらん!! 俺を見てよらんらん!! いつまでも、いつまでも愛してるからッッ!! 離れてもずっと、俺のらんらんだからッッ!!」
それが、俺が見た、すちの最後の姿だった。
背中に冷たい現実の風が吹き込み、俺たちの歪な終焉は、完成することさえ許されずに引き裂かれた。
強制された現実世界は、グロテスクなほど正常に回り始めた。
事件は連日、大々的に報道された。
テレビの向こうのキャスターは、すちを「猟奇的な連続殺人犯」と呼び、俺を「哀れな監禁被害者」と位置づけた。
俺は、白い壁に囲まれた精神医療施設の一室に閉じ込められた。
毎日、清潔な服を着た医師やカウンセラーがやってきて、優しく、そして傲慢に俺に語りかける。
「君はマインドコントロールされていたんだ」
「あの男が君に与えた快楽も、愛情も、すべては恐怖が生み出した脳のバグだよ」
「もう大丈夫だ。あの怪物は、二度と君の前に現れない」
彼らは、俺を「治そう」としていた。
薬を飲まされ、正しい食事を与えられる。
何ヶ月も、何年もの時間をかけて、クリーンな地獄に耐えるうちに、俺の脳からすちの甘い香りが、あの濃密な愛の記憶が、少しずつ漂白されていく。
それが、何よりも恐ろしかった。
正気に戻されるということは、すちのいないこの冷たい世界で、自分が犯した罪の重さと、大切な人を失った絶望を、生身の心で受け止めろということだ。
カウンセリングの最中、俺は偶然、医師のデスクの上にある書類の隙間から、一枚の新聞の切り抜きを見てしまった。
『連続拉致監禁殺人事件の被告、拘置所内で首吊り自殺』文字が、脳を殴りつける。
すちは、俺のいない世界に耐えられなかったのだ。
あるいは、俺という唯一の存在を奪われ、狂気を維持できなくなったのかもしれない。
「あ……, あ、あああ……っ……ッッ」
医師たちが慌てて俺を押さえつけ、鎮静剤の注射を打つ。
視界が急激に遠ざかる中、俺は、すちがもうこの世界のどこにもいないという「現実」の圧倒的な暴力に、心を完全に粉砕された。
さらに、長い年月が流れた。
俺の年齢がいくつになったのか、もうわからない。
ただ、窓の外に見える景色は、あの日のパトカーの光でも、いつか夢見た青空でもなく、常に一定の、白く濁った曇り空だった。
俺は、今も精神病院の、隔離されたベッドの上にいる。
リハビリは失敗した。
俺の精神は、すちの自殺を知ったあの日から、二度と前を向くことを拒否したからだ。
「らんさん、朝ごはんの時間ですよ」
看護師が優しく声をかけてくるが、俺は答えない。
ただ、自分の細くなった両腕を抱きしめ、じっと天井の一点を見つめている。
俺の脳内は、あの狭い、カーテンの閉まり切った部屋のまま、時が止まっていた。
目を閉じれば、今でもすちの、あのとろけるような甘い声が聞こえる。
『らんらん、俺は絶対に居なくならないよ』
(嘘つき。居なくなっちゃったじゃん)
俺は心の中で、すちに毒づく。
でも、すぐにあの激しい快楽と、狂おしいほどの愛の記憶が、俺の壊れた脳髄を心地よく浸食していく。
現実の世界では、すちはただの凶悪犯で、俺は壊れた可哀想な被害者だ。
でも、俺の頭の中だけでは、今でも俺たちは「共犯者」のままで、あの悍ましくも愛おしい言葉がリフレインしている。
すちが最期に叫んだ、永遠を縛る「いつまでも愛してる」の残響。
「すち……、すち……」
俺の口から、掠れた声でその名前が零れ落ちる。
看護師たちが哀れみの目を向けてくるが、それさえもどうでもいい。
俺は、すちがいない現実を生きるくらいなら、すちの幻影に抱かれながら、一生この白いベッドの上で死んだように生きる方を選んだ。
すちが最期に遺していった、呪いのように甘い愛の言葉だけを、今も呼吸の理由にして。
俺たちは、永遠に引き裂かれた。
そして俺は、二度と戻らない「二人だけの檻」を夢見ながら、ただ生きる屍として、深く、深く、終わりのない絶望へと堕ちていく。
bad ending__
完 全 完 結 で す !
こ こ ま で 読 ん で く だ さ り ほ ん と ~ に あ り が と ~ ご ざ い ま し た !!
こ め ん と で 、 好 き な え ん で ぃ ん ぐ お し え て ほ し ~ で す !
ほ ん と に さ み し い ……
と り ま 、 ほ ん と ~ に あ り が と ~ ご ざ い ま し た !!
コメント
5件
🌾失っ.ᐟ バトエンも最高だぁぁぁぁぁ((((( 翠様ぁぁぁぁぁぁ 桃様ぁぁぁぁぁぁ いやほんま警察ぶん殴るぞ((嘘です) あてぃしは個人的にやっぱメリバが好きですねぇ… いや勿論全部好きだがな.ᐟ.ᐣ 完結かなちい… でも、最高でしたっっ.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ くるちゃお疲れ様~.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……… 切なすぎる好きすぎる どの世界線でも桃桃が翠っちーのこと思ってるの好きっ… がちでもうさぁ…警察しn(((
ああっ、終わっちまった……これがifルートのbad endか。すちが「らんらん」呼びながら連れてかれるとこ、胸が締め付けられたわ。正気に戻される=すちを失うって構図、エグいほど刺さった。主人公が「生きる屍」になるラスト、読後感めっちゃ重いけど、それだけ感情移入しちゃったってことだな。お疲れさま、現世くるりさん…!