ぱちり。
目が覚めた。今日も今日とて気持ちがいい天気だ。澄んだ青空に太陽が自信満々に大きく光っている。太陽も俺に影響されてやがる。こんな良い日はパトロールに限るぜ。
ベッドから飛び上がると、向こうにアオセンが見えた。いつもの緩い雰囲気を纏いながら、ハキハキとした猫くんと話してる。対称的な二人が何だか可笑しくてつい微笑んでしまう。折角だし、バッドでひと殴りしてから行くか。
「アオセンッ〜〜猫くん〜〜!」
バタバタとサンダルの足音を鳴らして走る。後ろを向いてる二人はくるり、と同時に俺の方を見た。
「こんちは!挨拶してやりに来ましたよ!」
手を上げてぶんぶん振り回す。サングラス越しにも分かる二人の笑顔を楽しみにしていたのだが、
「………んぁ゛?」
何故か固まっていた。
猫くんは口を半開きにして、アオセンは仮面を少しも動かさずに、こちらをじっと見るだけ。あまりにも呼吸もせずに動かないもんだから、時が止まったかと勘違いしちまうぜ。
「ねぇ、」
先に口を開いたのは猫くんだった。なんとか正気を保ってるっていう顔を頑張って動かしてる。アオセンはまだ呼吸音も発してない。そろそろ心配になってきたが大丈夫そうか?
「ん、ああ。どうしたんだ?」
「それさ、それ……、そのやつ、」
前言撤回。猫くんも正気を保ってない。赤ん坊みたいにあーあーうーうー言ってる。一体俺の何がおかしいってんだ。
「それって何だ?いつにも増してカタコトだぞ?」
猫くんが口をモゴモゴと動かしていると、次はアオセンが自分の仮面を勢い良く剥いだ。何してんだコイツ。しかも、目はかっぴらいて、俺の事を視界の端から端までびっちり映そうとしてる。流石に俺でも鳥肌もんだぜ。
「ア、アオセン……? 」
「声は変わってないんだね。」
声は、って何だよ。声はって。てか、アオセンの方が声が変わってるけどな。いつもと違う、上擦ったアラサーのハァハァ声。ちょっとキツイところがある。
「あの、どうした二人とも、」
「まだ気付いてないんだ。凄いいいね。」
いいね。の言い方がキメェ。粘着質で伸びてる感じがすごい、うん、キモイ。無意識だったら手に負えねぇぜ。
「何がすか、ちょっと。」
「鏡、鏡見ようヨ。一旦。」
猫くん。いつもの調子とは言いきれないが、アオセンよりかは遥かにマシだ。馬鹿ほど驚いてるが。そうだな、猫くんの言う通りにしよう。
「分かった分かった。猫くん大丈夫か? 」
二人ともこんなになってるんだし、俺がしっかりしないとだな。俺が原因だけどな。そう思いながら、廊下にある姿見に体を映した。
「…………コレ、」
猫くんはほんとだヨ、とでも言うように無言で首を上下に振る。
「俺、かこれ、この女の人なのか……?」
鏡に映ったのは紛れもなく女性。だが、俺だ。あんなに短かった髪の毛が、無造作に腰まで広がっているのは何故だ。紛れもなく男性の身体だったものが、ボンキュッボンの華奢な体型になっているのは何故だ。そして、そんな俺にアオセンがにちゃにちゃしてるのは何故だ。もう有り得ない。でも俺だ。
「つぼ浦が女の子なんてね」
笑うなアオセン。せめて馬鹿にしてくれ。おっさんがJKに向ける視線みたいで本当に吐きそうだぜ。
「普段のつぼ浦も良いけどさ、この状態も、ねぇ?」
話し方までおっさん。三十路野郎が!!ガチきしょい、無理だ、オイ。
「猫くん助けて、ホントな、頼むぜ、」
猫にも縋る思い、というか実際猫に縋るんだが。ぎゅうッと思わず、助けを求めてハグをしてしまった。猫くんは女性だから、嫌がるだろうな。俺は人が嫌がることをしないのがモットーなのに。
「あ、猫くん、すまん。」
「うぁ、いい匂い……、可愛い……♡」
……………猫くん。マジ、なのか。ぎちり、と音がする程強い力で完全にホールドされているけど。ハグとかじゃない。
「こんな匂いだったノ?お花と太陽の匂いじゃん……、ぬいぐるみだ……。」
あ、でも、そういう目では見てないのか。なら、俺は別に良いけど、嬉しいし………。うん、やっぱ猫くんは違うな!!!!
「ふへ、」
あ、声出た。間抜けすぎる声出た。
「うん、猫マンゴー、次は俺の番だよ。」
アオセンキッショすぎだろ!!声と顔やべぇだろ、犯罪者だろ、こんな奴警察じゃねぇ。
「えぇ〜無理。」
「俺は猫くんが良いぜ。マジきしょい。本当にきしょいからな、アオセン。」
「ん〜?」
アオセンの口から発せらせたその声は嬉しそうにふにゃふにゃしている。罵倒されて喜ぶ奴がどこいんだよ!!!
「ん、どうしたんだ。」
向こうから聞こえてきたこの声は、キャップ。………不味い。キャップの他にも足音がバタバタと響いてる。見つかると、コレはクソほど笑われるか、アオセンみたいになるかの二択。どちらも最悪なんだが。
「ねっ、猫くん…離してくれない、?」
「え無理だよ。永遠にこの体勢でいい。」
アレ?猫くんもアオセン化してる。目が、目が真っ黒でハイライトが入ってねぇ。ヤバい、ヤバいがここで倒れる俺じゃあねぇぜ。
「ふっ!」
「あ゙ぁ〜?」
細くなった身体でするりと猫くんの腕からから抜ける。寝、寝よう。コレは歪みが原因な事は分かってる。俺は脳をフル回転させて、警察署のベッドへと走る。歪みは時間と共に薄れていくことがほとんどだ。これで、時間が立てばきっと直___
がしり。
手袋の感触が手首に伝わる。ごわごわしたコレは紛れもなく、
「つぼ浦、待とうか。」
アオセンだ。唆るものを見てる目をしてる。このままアオセンと二人きりになったら、最悪の結末が待ってる。もうこうなったらこれしかない。最終手段。
「キャップーー!!!!!!!!!!!」
「え゙ッ、」
俺がキャップを呼んだら、野次馬もわらわらと来る事に賭けた。その後の事を今は考えなくていい。どう転がっても俺が無傷になることはもう無い。ならば最小限に抑える。これこそが今の最善だろう。
「つぼつぼ、どうし…………」
ぴた。
黒いサングラスに隠されている目が見開かれている。おいおい、こんな時キャップが止まってどうするんだァ…。クッソ、この体を利用させてもらうしかないな。
「キャップ!あの、ッ、アオセンが、」
これで伝われ。身体をまさぐられて、みたいな感じで行けるだろ。
「ぇぇええええええっ!!??」
大きな声を上げたのはオルカ。キャップの後ろに隠れていて気付かなかった。叫んでくれるとは、さすが俺のことをよく分かってる同期だ。あッ、後ろにネルセンもまるんも!カニくんも署長も皇帝もっ!わんさかいるぜ!
「み、皆!助けて!」
頼む頼む、皆聖人であってくれ……。
「か、」
か?何だカニくん、?そんな甘ったるいきゅるきゅるした声聞いた声ないが。
「かわいいいいいい!?誰だコイツ!?」
カニくん。カニくん、マジか。さすがに気づいてくれないとは、さては俺の事見たことないな。
「つぼ浦だなコレ!ゆ、歪みか?」
署長、初めて頼りになると思いました。助けてください、本当に。
「べっぴんさんだなぁ、こんなになるのか!」
なるほどな。コイツにはあとでロケランを100発せびってやる。
「つぼ浦なのか〜!オルカが服をいくらでも買ってやろう!! 」
「俺も手伝ってやるから服買いに行こう。オルカはセンスいいぞ、!」
まるんとオルカはまだマシだな。なんならはしゃいでる暖かさが、不純物ばかり見た瞳に染みる。絶対服は買いに行かないけど。
「つぼ浦やべーな!ガチでキレイじゃん!」
「本当につぼ浦……?とにかく、一回カップ数測らせて、」
………ネルセンに至ってはただの変態ということが明らかになったな。
「すいません、この三十路ド変態クソ野郎から助けてください。」
「……あ、あぁ。」
キャップは使い物にならないことも判明したな。歪みはいつでもどんなのでも起きる、とドヤ顔で言ったのは貴方ですよ。
「スタイルがいいね、つぼ浦。」
蛙を追い詰める蛇みたいで 怖いっす。全身の毛が今にも逆立ちそうです、ネルセンが1番頼れると思ったのに。
「俺の嫁になるかー!なんてな?皇女すぎる見た目だな!!」
皇帝。コイツは指名手配するべきだな。普段どうでも良いと思ってるが、今は違うぜ。
「つぼ浦〜〜!買いに行こ!買いに行こ!」
「うん、買いに行こう。」
こんな所から逃げ出すにはオルカの提案もアリな気がする。まるんの調子が少しおかしい気もするが、無視に限る。
「そ、そうだな、これはぶかぶかだ。まるんが買ってくれ。一緒に行こう!」
「ぶかぶかが唆るんじゃん!」
この青い何かはもう居ないものとしよう。有り得ないぜ。
「でも、可愛い服着せるのもいいね〜!」
「折角だし皆が選んだの着てもらおうか、」
お、おいマジか、?
「ちょ、待て、」
そんな俺の漏れだした声も露知らず、グイッとオルカに弱くなっちまった腕を引っ張られる。オルカこんな力強かったか?
「ゴスロリ着せるからね〜つぼ浦、」
「えぇ!?オルカとオソロにしよ!」
「うーん、平成ギャルが似合うだろ。」
「つぼつぼは白ワンピだな。これだな。」
「つぼ浦はスタイル良いからそれを活かしてビキニにするか!先輩命令!」
「違うって!オルカと可愛いメイド服オソロにするの!」
「つぼ浦さんピンク似合うっすよ!蛍光色もパステルも試しましょ!!」
わらわらわらと言い合いの声は一向に鳴り止まない。皆が皆、ここぞとばかりに譲らない強い意志があるようだな。
………埒が明かねぇな。
そんなお決まりのセリフを心の中で吐きながら、警察署の玄関から逃げ出す。
「あ゙ッ!?つぼ浦ァァァ!?!?」
「待って!!」
待てと言われて待つ奴がいるかい。とりあえず逃げよう。車に飛び込み、運転速度ギリギリで道路を駆け巡った。
この後、餡ブレラやMOZUなどのギャング、救急隊や他の警察に転がり込んで、結局キミトスの家に匿ってもらったのはまだ別のお話。
見て下さりありがとうございました。
🏺って人を惹きつける何がありますよね。自分の意見を絶対通すんですけど、どこか憎めないっていう。愛されキャラ過ぎる。太陽みたいな神様みたいな雰囲気があるから、その分信者が多いんです。彼氏が出来ても、メンヘラか、ヤンデレか、独占欲強いか、が性格に組み込まれてる彼氏なんだろうと思います。それでも🏺は男前なんで、影響はされないんだろうな。ネコですけどね。最高。
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