「おい、ちょっと待てセミ!!」
「何よ?」
ナムギュの叫び声に振り返ったセミだったが──その瞬間、バランスを崩した。
足元にあった鞄に引っかかり、そのまま後ろへ倒れ────
「おっと、危ねぇな?」
サノスが反射的に腕を伸ばし、セミの腰を支えた。
だが、その勢いのまま────
チュッ。
「…………」
一瞬、世界が静止した。
唇同士が触れ合っていることに気づいたのは、ほんの一秒後。
「えっ……?!」
その場にいた全員が同時に声を上げた。
「……今の、なんだ?」
ナムギュの目が大きく見開かれ、ミンスは手で口を押さえている。
セミとサノスがキスしていた。 しかも、しっかりと見られてしまった。
「ちょ、ちょっと待って……」
セミは慌ててサノスを突き飛ばす。
「Señoritaが勝手に倒れたんだろ?」
「だからって唇を受け止めるないでしょ!」
「俺だって狙ってねぇよ!」
お互いに顔を赤くしながら睨み合っていると────
「……は? 何普通にやってんだよ!!」
ナムギュが叫んだ。
「な、なんで……セミと……」
ミンスもショックを受けたように呟く。
「いやいやいや、違うのよ?」
セミは必死に否定しようとするが、二人の視線は冷たい。
「事故だって言っても、見ちまったもんは消えねぇぞ……」
ナムギュは唇を噛みしめる。
「そ、そうですよ……サノスさんとセミが……そんなの……」
ミンスも顔を伏せ、明らかに落ち込んでいる。
「おい、ミンス、泣くなって! ただの事故だって!」
「もう知るか!!」
ナムギュはそっぽを向き、ミンスはそのまま小さくうずくまる。
「……兄貴、責任とってくださいよ?」
ナムギュがサノスを睨みつけると、サノスは困ったように笑った。
「いやいや、キスくらいで責任取らされんのかよ?」
「取ってください!!!!」
セミとサノスの事故のキスは、二人にとって一生忘れられない事件になった。
「……もう知るか!!」
ナムギュが怒鳴ってそっぽを向く中、ミンスは小さくうずくまったまま、微かに震えていた。
「……ミンス?」
セミはその様子に気づき、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
「セミ……」
ミンスの目は潤んでいて、まるで今にも泣き出しそうだった。
(ああ、こいつは本気でショックを受けてる……)
セミはため息をつき、そっとミンスの肩に手を置いた。
「……大丈夫よ、バカね」
そう言って、セミはミンスを抱きしめた。
「えっ……」
ミンスは驚いたように目を見開いたが、セミの温もりに包まれ、少しずつ落ち着いていく。
「な、なんで……?」
「あんたが落ち込んでるのが見え見えだからよ」
セミは優しくミンスの頭を撫でた。
「そんなに気にすることじゃないって……ただのハプニングよ」
「……でも……」
「いいから、深呼吸しなさい」
セミの手が優しく髪を梳くように動く。ミンスの顔が赤くなり、ぎゅっとセミの服を握る。
「……っ!」
一方で、それを見ていたナムギュの表情は、ますます険しくなっていた。
(なんでミンスだけ……)
(なんでアイツだけ……)
(俺の時はあんな風にしねぇくせに……)
ナムギュは奥歯を噛みしめ、悔しさで拳を握る。
「……ふざけんな」
小さく呟くが、誰も気づかない。
ただひとり、サノスだけがその様子を見て、クスッと笑った。
「ナムス、相当悔しそうだな」
「うるさいっすよ!」
ナムギュの叫びが響く中、ミンスはセミの腕の中で小さく安堵の息を漏らした。
(……俺も、抱きしめてほしいなんて、絶対に言えねぇ)
ナムギュはそれ以上何も言えず、ただ唇を噛みしめるしかなかった────
夜の空気は静かで、部屋には穏やかな寝息が響いていた。
セミは床に座ったまま壁に寄りかかり、すっかり寝落ちしていた。
「……はぁ」
ナムギュはそんなセミを見下ろし、少しだけため息をついた。
(お前、油断しすぎだろ……)
普段は毒舌でクールなセミが、こうして無防備に眠っている姿は、なんというか…… ずるい。
「……マジで、かわいすぎんだろ」
そう小さく呟くと、ナムギュはゆっくりとしゃがみ込んだ。
(バレなきゃ、いいよな……)
セミが起きないように慎重に距離を縮め、そっと頭を寄せる。
「……」
柔らかそうな髪が、ナムギュの頬にふれる。
(……あったかい)
セミの匂いがふわりと鼻をくすぐる。ほんの少し甘くて、心地いい。
「……クソ、俺、なにやってんだ」
小さく苦笑しながらも、ナムギュはそっとセミの髪に指を通した。
撫でる、というよりは、ほんの少し触れるだけ。
(お前、起きてたら絶対殺すよな)
そう思うと、少しだけスリルがあって、ナムギュの心臓が高鳴る。
けれど、セミは微動だにしない。
「……セミ」
名前を小さく呼んでみる。
もちろん返事はない。
「……好きだっつーの、バカ」
ナムギュはそう呟きながら、セミの肩にそっと額を押し当てた。
一瞬だけ、ほんの少しだけ、こうして甘えてもいいだろう。
バレなければ。
ナムギュはセミの温もりを感じながら、静かに目を閉じた。
……しかし。
「……ナムギュ?」
セミの寝ぼけた声が静かな空間に響いた瞬間、ナムギュの全身が凍りついた。
(やっべ、起きた!?)
額を押し当てたまま、ゆっくりと顔を上げる。
セミのまぶたは半分だけ開いていて、ぼんやりとした目でナムギュを見つめていた。
(寝ぼけてる……?)
「……ん、なんで……そんな近いの……?」
「え、えっと……」
ナムギュは頭の中で必死に言い訳を考える。
(やばい、バレたら絶対ぶっ飛ばされる……!)
「お、お前が勝手に寄ってきたんだよ!!」
とっさに適当なことを言うが、セミは「……ふーん」と呟いたまま、またゆっくり目を閉じた。
「……ナムギュ……うるさい……」
「……」
どうやら完全には起きていないらしい。
安堵したナムギュは、そっと距離を取ろうとした──── が。
「……」
セミの手が、ナムギュの服を軽く掴んでいた。
(……は?)
「……」
セミの寝息は変わらない。完全に無意識の行動。
(こ、こいつ……!)
ナムギュは顔を真っ赤にしながら、動けなくなってしまった。
「……バカ女……」
小さく呟きながら、ナムギュはもう一度だけそっと額をセミの肩に押し当てた。
(……マジで、俺、終わってんな)
でも、このままもう少しだけ、甘えていたい────
バレないように。
ナムギュはセミの肩に額を押し当てたまま、静かに息を吐いた。
(……くそ、心臓うるせぇ)
セミの無意識の仕草にドキドキしすぎて、逃げるタイミングを完全に失っていた。
それに、セミの手はまだナムギュの服を軽く掴んだまま。
(……離せよ、マジで……)
そう思いながらも、ナムギュは微動だにできなかった。
「……ナムギュ……」
突然、セミが小さく呟いた。
「……!」
ナムギュの全身がピクリと硬直する。
(な、なんだよ……起きたのか!?)
でも、セミの目は閉じたままで、ただ静かに寝息を立てている。
「……バカ……」
「……」
「……優しくするな……」
ナムギュは息をのんだ。
それが夢の中の言葉なのか、それとも本音なのかはわからない。
でも、ほんの少しだけ、胸が痛くなった。
「……バカはお前だろ」
小さく呟きながら、ナムギュはそっとセミの髪を撫でた。
普段なら絶対にできないこと。
でも今なら、バレない。
セミの寝息を確かめながら、ナムギュはそのまま少しだけ目を閉じた。
(……もうちょっとだけ、こうしててもいいよな)
静かな夜の中、二人の時間は密かに流れていた。
ナムギュはそっとセミの髪を撫でながら、小さく息を吐いた。
(……くそ、マジで離れらんねぇ)
セミはまだナムギュの服を軽く掴んだまま、穏やかな寝息を立てている。
普段なら絶対にしないはずの行動。なのに、今はそれを振り払う気になれなかった。
(バレなきゃ、もう少し……)
そう思いながら、ナムギュは再びセミの肩に額を押し当てた。
静かで、心地いい時間────だったはずなのに。
「……ナムギュ」
「っ!?」
突然、セミの声が聞こえ、ナムギュの心臓が飛び跳ねる。
(ま、待て、今のは寝言だろ!? そうだよな!?)
そう思いながら恐る恐る顔を上げると────
セミの瞳が、ほんの少し開いていた。
「……な、なんだよ」
ナムギュは動揺を隠すように、ぶっきらぼうに言った。
「……何してんの?」
「は!? 別に、何もしてねぇし!!」
「……ふーん」
セミはまだ半分寝ぼけたような目をしていたが、口元にはどこか小さな笑みが浮かんでいた。
「ねぇ、ナムギュ」
「……なんだよ」
「私が寝てる間……何してた?」
ナムギュは一瞬、固まった。
(……バレてんのか!? いや、でも、こいつが冗談で言ってるだけかもしれねぇ……)
「……何もしてねぇって言ってんだろ」
「……そっか」
セミはふっと笑い、今度はナムギュの頭に手を置いた。
「……なら、何も聞かない」
「は?」
「ナムギュが黙ってるなら、私も知らないフリしてあげる」
ナムギュは一瞬、何も言えなくなった。
(……マジで、気づいてたのか?)
セミの手がそっとナムギュの髪を撫でる。
それは、まるで────「バレてるよ」 という合図のようだった。
「……っ、クソ……!」
ナムギュは顔を真っ赤にしながら、勢いよく立ち上がる。
「もう知らねぇ!!」
「ふふ、ありがと」
セミの小さな声が背中越しに聞こえたが、ナムギュはもうそれ以上振り返ることができなかった。
「バレないように」なんて思っていたのに—— もしかしたら、最初から全部バレていたのかもしれない。
「もう知らねぇ!!」
ナムギュは顔を真っ赤にしたまま、バッと立ち上がり、勢いよく背を向けた。
(なんなんだよ、マジで……!)
(本当に気づいてたのか? それともただの冗談か……!?)
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
セミはまだ壁にもたれかかったまま、半分眠そうな顔でこちらを見ていた。
「……ナムギュ」
「っ、なんだよ!!」
「顔、赤いよ?」
「はぁ!? うるせぇ!!」
バカにしたようなセミの笑みに、ナムギュはさらに顔を背ける。
(やっべぇ、完全に遊ばれてる気がする……)
ナムギュの心臓はまだドキドキとうるさく鳴っている。
「ねぇ、ナムギュ」
「だからなんだよ!!」
「……さっきの、私の寝言……」
「っ!」
「本当は、ちゃんと聞いてたでしょ?」
ナムギュの肩がピクリと跳ねる。
(……マジでこいつ、どこまでわかってんだ……?)
「……知らねぇよ」
「ふふっ」
セミはそれ以上何も言わず、また目を閉じた。
まるで、「もう終わり」と言うように。
(……クソ……)
ナムギュは頭をガシガシと掻きながら、その場を離れた。
でも—— 胸の奥には、モヤモヤとした気持ちがくすぶったままだった。
ナムギュはその場を離れたものの、心臓のドキドキがなかなか収まらなかった。
(なんなんだよ、マジで……!)
セミの「寝言」
────「優しくするな……」
(あれ、絶対寝言じゃねぇよな……?)
わざとらしく眠ったふりをしながら、ナムギュの反応を見てたんじゃないか──そんな気がしてならなかった。
(くそ、遊ばれてるだけなのか……?)
モヤモヤしながら廊下を歩いていると、向こうから サノス がやってくるのが見えた。
「Yo、ナムス、なに一人でイライラしてんの?」
「……ナムギュです。別にしてないっすよ」
「おっと、またセミにバカにされた感じ?」
「……!」
ナムギュはギクリとする。
(なんでこいつ、いちいち鋭ぇんだよ……!)
サノスは口元にニヤリと笑みを浮かべながら、ナムギュの肩を軽く叩いた。
「まぁ、気にすんなって。あのクールな顔して、意外とセミも俺らに振り回されてんだからさ。」
「……は?」
ナムギュは思わずサノスを見つめる。
「兄貴、なに勝手に知った風なこと言ってんすか」
「だってよぉ、お前も気づいてんだろ? セミ、最近ちょっと変だって」
「……」
確かに、セミの態度はいつもと違う気がする。
ナムギュに対してだけじゃなく、サノスやミンスに対しても。
「俺に対してはいつも通りだけどさ、ミンスにはやたら優しいし、ナムギュには……まぁ、なんだ? やたら絡むよな」
「……は?」
「セミ、ナムスの反応見て楽しんでんじゃね?」
「っ……!!」
ナムギュは顔が一気に熱くなるのを感じた。
(ふざけんな……! そんなわけねぇだろ!!)
でも、思い返せば、セミはいつも ナムギュが怒るのを楽しんでるような顔 をしている。
そして今日も、あんな寝言を聞かせておいて、まるで試すような視線を向けてきた。
「……くそっ……!」
ナムギュは思わず髪をガシガシとかき乱す。
その様子を見て、サノスはさらにニヤニヤした。
「お前、ほんっと単純だよな~。好きなら素直に言えよ、my boy」
「言うわけないじゃないっすか!!」
ナムギュはサノスを睨みつけながら叫んだが、サノスはただ肩をすくめるだけだった。
「ま、頑張れよ。俺はもうちょい様子見させてもらうぜ」
そう言って、サノスはどこかへ歩いていった。
ナムギュはしばらくその場に立ち尽くしていたが—— 結局、またセミのいる部屋へと足が向かってしまう。
(……こんなの、無視できるわけねぇだろ)
セミが、本当に何を考えているのか。
それを、確かめずにはいられなかった。
(……バカか、俺は)
さっきまでのやりとりを思い出す。
「優しくするな……」
その寝言(?)の意味を、セミが本当に寝言で言ったのか、試すように言ったのか——それが気になって仕方がない。
サノスの言葉が頭をよぎる。
「セミ、ナムスの反応見て楽しんでんじゃね?」
(……マジで、そうなら最悪だ)
だけど、それ以上に 「違ったらどうする?」 という考えが浮かんで、ナムギュは拳を握りしめた。
(……あいつが、俺に本気だったら?)
そんなわけない。
そんなはずない。
でも。
(確かめねぇと、落ち着かねぇ)
ナムギュはゆっくりと、セミの部屋のドアを開けた。
—— そこにいたのは、完全に目を覚ましたセミだった。
「……ナムギュ?」
「っ!」
セミの鋭い目がこちらを捉える。
(やべ、今なんて言い訳すりゃいいんだ……)
「……なに」
「……別に」
「じゃあ、出てって」
「あぁ!? なんだよ、それ!」
セミは小さくため息をつき、ベッドの上で体を起こす。
「ナムギュ、さっきのこと、気にしてるの?」
「は!? 気にしてねぇし!」
「……ふーん」
またその余裕の笑み。
(……本当に俺の反応見て楽しんでんのか?)
そう思った瞬間、ナムギュの中で何かが弾けた。
「お前さ……マジで、俺のことからかってんのか?」
「……は?」
「そうなんだろ? 俺がどうするか、試してんじゃねぇのかよ」
「……」
セミの表情が、少しだけ固まる。
ナムギュはその一瞬を見逃さなかった。
(……やっぱり、そうなのか?)
「だったらさ……試してやるよ」
「ナム——」
セミが言葉を発する前に、ナムギュは勢いよくセミの肩を掴み、顔を近づけた。
——キスするつもりで。
(どうせ、遊ばれてんなら……俺だって)
けれど、ほんの少し唇が触れそうになった瞬間——
「……っ!!」
セミがナムギュの胸を押し返した。
「っ、お前、本気か!?」
「あんたこそ……!」
ナムギュは荒い息をつきながら、睨むようにセミを見た。
セミの顔はほんの少し赤くなっていて、でもいつものような余裕はなかった。
(……今の反応、なんだよ)
怒ってる? いや、驚いてる?
それとも——
「……わかったよ」
「……は?」
「もう、お前にだけは、隠せねぇ」
ナムギュはぎゅっと拳を握りしめ、セミを真っ直ぐに見た。
「俺、お前のことが好きだ」
セミの目が大きく揺れる。
その反応を見て、ナムギュは一歩、踏み込んだ。
「で、お前は? 俺のこと、どう思ってんだよ」
静寂。
今度は、セミが試される番だった。
ナムギュの言葉が、静かに部屋の中に響いた。
「俺、お前のことが好きだ」
「で、お前は? 俺のこと、どう思ってんだよ」
セミの目が揺れる。
その表情を見て、ナムギュは 「逃がさねぇ」 という決意を固めた。
(こいつ、いつもみてぇに誤魔化す気か? ふざけんなよ……)
いつも余裕そうに笑って、人をからかうクセに—— 今は、その余裕がどこにもない。
それが 答えを知るのが怖い という気持ちにさせた。
(……でももう、誤魔化されるのはごめんだ)
「セミ」
ナムギュは一歩踏み込む。
セミの背中が、壁に当たった。
「……」
「答えろよ」
「……ナムギュ」
セミはじっとナムギュを見つめたまま、ゆっくりと口を開く。
「……あんた、調子乗りすぎ」
「は?」
「私が好きなわけないでしょ」
「……」
ナムギュの心臓が、ズキリと痛んだ。
(……やっぱ、俺の勘違いだったのか?)
(いや、でも……)
たしかに今、セミはそう言った。
けど────
その目が、少しだけ揺れていた。
「……お前、本当にそう思ってんのか?」
「思ってるよ」
「嘘つけよ」
「嘘じゃ────」
「じゃあ、なんでお前、顔赤いんだよ」
「っ……」
セミの表情が、一瞬だけ強張る。
ナムギュは、その反応を見逃さなかった。
「なんでさっき、俺が近づいたら押し返した?」
「……」
「なんで、目をそらす?」
「……うるさい」
「お前、俺が怖いのか?」
「は?」
「本当の気持ち、バレるのが怖いんじゃねぇのかって言ってんだよ」
「……っ!」
セミの呼吸が、少しだけ乱れる。
(やっぱり……こいつ、何か隠してる)
ナムギュはさらに顔を近づけた。
「なぁ、セミ」
「……」
「俺が……怖い?」
ナムギュがそう問いかけると、セミはギュッと唇を噛みしめた。
そして——
「……怖くない」
「じゃあ、俺がもう一回キスしてもいいってことか?」
「っ!!?」
セミの顔が一気に赤くなる。
その反応に、ナムギュは確信した。
(あぁ……やっぱ、こいつ俺のこと——)
「——ちょっと、なにしてんの?」
「……っ!!?」
突然、冷静な声が割り込んだ。
ナムギュとセミがバッと振り向くと────サノスとミンスが、ドアの前に立っていた。
「……お前ら、いつからそこにいた」
「最初から」
「えっ……?」
ナムギュの顔が一瞬で青ざめる。
「……お前ら、ずっと見てたのか?」
「うん」
「お前ら……っ!!」
ナムギュが叫ぶが、サノスは ニヤリと笑って こう言った。
「おいおい、キスするなら俺らにも見せろよ?」
「っ!?!?!?」
ナムギュの顔が、一瞬で真っ赤になった。
「お前、何言ってんすか兄貴!!!」
「えー、ナムスだけズルくない?」
「ふざけんな!! 俺はまだキスしてねぇっすよ!!」
「お?」
サノスが目を輝かせる。
「じゃあ、する?」
「するわけねぇだろおおおお!!!!!」
ナムギュの絶叫が部屋に響く。
サノスはニヤニヤ笑いながら肩をすくめ、ミンスはセミをチラチラと見つめていた。
「いやぁ〜、まさかナムスが本気でセミに告白するなんてねぇ?」
「……は?」
「だってさ、いつもセミのこと『クソ女』って言ってたのに、好きって……ぷっ」
「おい、兄貴……まじで」
ナムギュは拳を握りしめ、今にも殴りかかりそうな勢いだった。
「ミンス、お前も笑ってんじゃねぇぞ!」
「え、えっと……ごめん、でも……ナムギュが本気で好きっていうのは、ちょっと意外だったから……」
「お前まで!!」
「うるさい」
静かに響いたセミの声に、部屋の空気が一瞬で凍る。
「……え?」
「なんなの、あんたら」
セミは冷たい目でサノスとミンスを見た。
「人の部屋を勝手に覗いて、勝手に茶化して……」
「……セミ?」
「ナムギュは、本気で言ったんでしょ?」
「……!」
ナムギュの心臓が跳ねる。
「だったら、バカみたいに騒ぐな」
ピシャリと放たれた言葉に、サノスとミンスが口をつぐむ。
ナムギュはセミの横顔を見つめた。
(……こいつ)
やっぱり、今までと違う。
誤魔化そうとしても、どこかぎこちない。
(本当は、照れてんじゃねぇのか?)
その考えに至った瞬間、ナムギュの口元が緩んだ。
「……なんだよ、お前。もしかして、俺のこと本気で意識しちゃってんのか?」
「は?」
「図星か?」
「……死ぬ?」
「おぉ、怖ぇ怖ぇ」
ニヤニヤと笑うナムギュに、セミは睨みをきかせたが、その耳はほんの少し赤くなっていた。
(……やっぱ、意識してんじゃねぇか)
確信を得たナムギュは、心の中でガッツポーズをした。
「ま、俺が本気だってことはもうバレたし?」
「……それは、認める」
「おっ」
「でも、私は別に好きじゃないし」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」
「お前、さっき顔赤くなってたぞ?」
「……!」
セミの口がピタリと止まる。
サノスとミンスが、面白そうに二人のやりとりを見ていた。
「おいサノス、どう思う?」
「んー、俺的には……ナムギュのこと、意識してんじゃね? セミ」
「……は?」
「だってさ、ナムギュが他の女といい感じになってたら、ムカつくっしょ?」
「別に」
「へぇ? じゃあ、俺がナムギュに可愛い彼女紹介しても、何も思わない?」
「……」
「お?」
セミの表情が、わずかに曇った。
「へぇ〜、マジで何も思わねぇ?」
「……」
「え、もしかして、本当にナムギュが他の女といちゃいちゃしてても平気なの?」
「……」
「ほら、ミンスも聞きたいよな?」
「う、うん……」
「……」
セミは静かに立ち上がると、サノスの肩をポンと叩いた。
「え?」
「黙れ」
次の瞬間——
ドゴォッ!!
「っぎゃああああ!!??」
サノスが床に崩れ落ちた。
「っ、痛ぇ……!!」
「だから黙れって言ったのに」
セミは無表情で手を払う。
サノスは顔を抑えながら、ミンスに助けを求めたが、ミンスは (無理無理無理) という顔で後ずさった。
「はぁ……ほんとバカみたい」
「……で?」
ナムギュが腕を組みながら、セミを見つめる。
「何」
「結局、俺のことどう思ってんの?」
「……」
「まだ逃げんの?」
「……うるさい」
「答えろよ」
「……」
「セミ」
ナムギュはもう一度、セミに近づいた。
「……俺のこと、好きなのか?」
セミはナムギュの目をじっと見つめる。
そして────
「……それは、まだ言わない」
「っ……」
「でも」
セミはふっと笑うと、ナムギュのシャツを軽く引っ張った。
「私が誰とキスするか、気にした?」
「……は?」
「ナムギュが、私のこと好きなら……サノスとキスしてたの、ムカついた?」
「っ……!!」
ナムギュの表情が、一瞬で険しくなる。
その反応を見たセミは、満足そうに笑った。
「そっか」
「……てめぇ、わざとか……!?」
「さぁ?」
「……っ!!」
ナムギュの手が震える。
(……こいつ、やっぱ俺のこと弄んでんのか?)
いや、違う。
(違う……)
ナムギュは確信した。
セミもまた、自分の気持ちに整理がついていない。
だから、誤魔化している。
「……」
ナムギュは深く息を吐き出し、セミを睨みつけた。
「いいぜ……待ってやる」
「……」
「でもな」
ナムギュはニヤリと笑った。
「そのうち、絶対言わせてやるからな」
セミの表情が、わずかに動揺する。
サノスとミンスが 「うわぁ……」 という顔で二人を見つめていた。
(……こいつ、俺のもんにしてやる)
ナムギュの低い声が、静かに部屋の空気を変えた。
「そのうち、絶対言わせてやるからな」
セミは目を見開く。
(こいつ……本気で言ってる?)
普段のナムギュなら、からかうような態度をとって「冗談だよ」と笑うはずだった。
けれど——今のナムギュの瞳は、冗談なんかじゃなかった。
真剣な目。
まるで、獲物を捕まえる豹みたいな目だった。
「……ナムギュ」
「ん?」
「……」
セミは何かを言いかけて────言葉を飲み込んだ。
それを見たナムギュは、ますます確信を強めた。
(やっぱり、こいつも俺のこと意識してんじゃねぇか)
「お前が認めるまで、何回でも言ってやるよ」
「……」
「俺は、お前が好きだ」
「……っ」
セミの心臓が跳ねた。
(何なの、こいつ……)
心臓の音が、うるさい。
いつもなら、軽く流して終わらせるのに。
(……今は、それができない)
「はぁ……バカじゃないの」
セミはナムギュから目を逸らし、ふっと笑う。
「そんなこと言っても、私は簡単になびかないけど?」
「へぇ?」
ナムギュはニヤリと笑うと、セミの手を掴んだ。
「じゃあ、俺が本気かどうか——確かめてみるか?」
「……っ!?」
────グイッ!!
ナムギュがセミの手を引くと、二人の距離が一気に縮まった。
鼻先が触れそうなほど近い距離。
ナムギュの呼吸が、セミの唇にかかる。
「おいおい、ナムギュ。やるなら俺らにも見せろって」
「サノス、黙れ」
セミが即座に突っ込みを入れるが、ナムギュは気にする様子もなく、じっとセミを見つめていた。
(……こいつ、本気でキスする気?)
「お前が俺のことなんとも思ってないなら——今すぐ突き飛ばせよ」
ナムギュは余裕たっぷりに言う。
「……」
(突き飛ばせるわけないじゃん)
そう思った瞬間、ナムギュの手がセミの頬に触れた。
「……お前のこと、誰にも渡さねぇよ」
「っ……!!」
その言葉に、セミの脳が一瞬真っ白になった。
——そして。
「ちょっと待って!!」
突然、ミンスの声が割り込んだ。
「……ミンス?」
「ナムギュさんだけ、ずるいよ……!」
ミンスは、ぎゅっと拳を握りしめたまま、セミを見つめる。
「僕だって……僕だって、セミヌナが好きなのに……!」
「っ……!」
「えっ……?」
「ミンス……?」
静寂が訪れる。
ミンスは今まで見せたことがないような強い目で、ナムギュを睨んでいた。
「セミヌナは……僕が守りたいんだ……!!」
サノスが 「おおー、面白くなってきた」 と笑う中——
四人の関係は、ますます複雑に絡み合っていく。
部屋に響くのは、ミンスの震えた声だけだった。
「セミは……僕が守りたいんだ……!!」
その言葉に、ナムギュの眉がピクリと動く。
サノスは面白そうに腕を組んで様子を見守っていた。
「……ミンス、お前さ」
ナムギュが低い声で呟く。
「セミはお前のもんじゃねぇぞ?」
「……わかってる。でも……!」
ミンスは必死だった。
ナムギュのように強引に迫ることも、サノスのように軽いノリで口説くこともできない。
けれど—— セミが誰かに取られるのだけは嫌だった。
「ナムギュみたいに強くないし、サノスみたいにかっこよくもないけど……それでも、僕はセミヌナが好きなんだ……!」
「……っ」
セミは驚いたようにミンスを見つめる。
いつも控えめで、後ろに隠れてばかりのミンスが────自分のためにこんなに必死になっている。
「ミンス……」
「ヌナ、僕じゃダメなの……?」
震える声で問いかけるミンスに、セミは息を飲んだ。
(なんで……)
ナムギュの時とは違う。
胸の奥がギュッと締めつけられるような感覚。
──── でも、答えられない。
「……」
セミが黙ったまま視線をそらすと、ミンスの表情がみるみる曇っていく。
その様子を見たナムギュは、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「ほらな」
「……っ!」
「お前は結局、セミにとって”弟”なんだよ」
「違う……!」
ミンスが悔しそうに叫ぶ。
ナムギュはニヤリと笑いながら、わざとミンスを煽るように言葉を続ける。
「セミが本当に好きなら、もっと強くなれよ」
「っ……!!」
ミンスの拳が震える。
「お前みたいな弱っちい男に、セミが惹かれるわけねぇだろ?」
「ナムギュ」
セミが低い声でナムギュを睨む。
しかし、ナムギュは余裕たっぷりに肩をすくめた。
「だって事実じゃん?」
「……」
ミンスは悔しそうに唇を噛み締めた。
そして——
「じゃあ……強くなればいいんだろ?」
ナムギュの目が驚いたように見開かれる。
「……は?」
「僕だって、強くなる……」
ミンスの声は震えていたが、瞳にはいつになく強い光が宿っていた。
「セミを守れるくらい、強くなってみせるから……!」
ナムギュは一瞬言葉を失ったが、すぐに鼻で笑った。
「おもしれぇじゃん」
「……!」
「なら、見せてみろよ。お前が本当にセミを守れる男になれるのか」
「……うん、絶対」
ミンスは固く拳を握りしめた。
その様子を見ていたサノスが、ポンとナムギュの肩を叩く。
「いや〜、これは予想外の展開だなぁ」
「……」
「ナムギュ、お前も油断してるとミンスに取られちゃうかもよ?」
「……取られねぇっすよ」
ナムギュは自信たっぷりにそう言い放った。
「セミは、俺のもんだからな」
「……っ!」
セミはナムギュの言葉に、また心臓が跳ねるのを感じた。
(ほんと、こいつ……)
強引すぎる。
でも、嫌じゃない自分がいるのが、何よりも厄介だった。
「……あんたたち全員、勝手に決めつけないで」
セミは深いため息をつきながら、三人を見た。
「私は誰のものでもないから」
ナムギュもミンスも、サノスでさえも、彼女の強気な言葉に一瞬黙る。
しかし────
「ま、今はそう言っとけよ」
ナムギュがニヤリと笑う。
「どうせ、そのうち俺のもんになるんだから」
「……バカじゃないの」
セミは呆れたようにため息をついた。
(本当に……バカみたい)
でも、心のどこかで——
彼らの視線を避けるように、セミはそっと唇を噛み締めた。
(……どうして、胸がこんなにドキドキするの?)
セミはため息をつきながら、三人を順に見た。
ナムギュは不敵な笑みを浮かべ、ミンスは唇を噛み締め、サノスはどこか楽しそうにしている。
(……どうしてこんなことになってるの?)
「……私は誰のものでもない」
強気な声で言い放ったはずなのに、心臓の鼓動は速くなる一方だった。
(ナムギュのあの真剣な目……ミンスの必死な言葉……)
普段なら軽く流して終わらせる。
でも、今回は違った。
「……はぁ」
セミは再びため息をつき、手で顔を覆った。
「ねぇ、もうこれ以上やめてよ。バカみたい」
「お前がそんなこと言うから面白くなるんだろ?」
ナムギュが肩をすくめる。
「バカなのはお前らだって言ってるの」
「それは認めるけど?」
サノスが飄々とした顔で言う。
「セミ、お前が魅力的すぎるのが悪いんじゃね?」
「はぁ?」
「ほら、ナムギュもミンスも、お前を取り合ってるし」
「勝手にまとめないでくださいよ……」
ナムギュがサノスを睨むが、サノスは軽く笑っただけだった。
「事実じゃん?」
「……っ」
ミンスがうつむいたまま、小さく呟いた。
「でも……」
「?」
「僕、負けないから」
ミンスがゆっくり顔を上げた。
その瞳には、いつもの内気な彼とは違う、強い意志が宿っていた。
「セミヌナが……僕を弟じゃなくて、ちゃんと”男”として見てくれるように……僕、変わるから」
「……っ」
セミは息をのんだ。
ナムギュも少し驚いたようにミンスを見つめる。
(ミンス……本気なんだ)
今までこんなに強く主張することなんてなかった。
ミンスはいつもセミの後ろに隠れて、守られる立場だった。
でも────
「俺も」
ナムギュがゆっくりと口を開く。
「俺も、負けねぇ」
「……」
「セミを、誰にも渡さねぇよ」
ナムギュの低い声が、静かに部屋の空気を変えた。
(……なんなのこれ)
セミは焦りを隠すように、そっと目を逸らした。
どうしてこんなに、心臓がうるさいの?
「……お前ら、勝手にやってろ」
そう言って、セミは寝転がり、布団をかぶった。
「もう寝る。うるさい」
「……ちぇ、つまんねーの」
サノスが肩をすくめる。
ナムギュは腕を組み、ミンスは拳を握りしめたまま、セミの背中を見つめていた。
セミが布団をかぶって目を閉じようとしたその瞬間────
「なぁ、Señorita」
サノスの低く甘い声が耳元に響く。
「一緒に寝ようぜ?」
「……は?」
布団を少しだけめくると、サノスがニヤリと笑っていた。
「ここ寒いしさ、セミ温かそうじゃん?」
「バカなの?」
「冷たいなぁ、Señorita」
サノスは軽く肩をすくめながら、さらに距離を縮めてくる。
「そんなに私の事好きなんだ」
セミが煽るようにそう聞くと少し顔を赤くした。
「俺、結構寂しがり屋なんだよね」
「知らないわよ」
セミが呆れたように顔をそむけると、サノスはわざとらしく溜息をつく。
「え〜、ナムギスとミンスは許されるのに、俺だけダメなの?」
「いや、全員ダメだから」
「さっきミンスには抱きしめて頭撫でてたじゃん」
「……っ」
「ずるいなぁ、俺にもしてよ」
サノスがふわりと微笑む。
「……するわけないでしょ」
「いいじゃん、減るもんじゃないし?」
「減るわ」
「じゃあキスなら?」
「は?」
「減らないじゃん?」
「マジでクソだね」
セミが布団の中から枕を取り出し、そのままサノスの顔に投げつける。
「いって! Señorita酷いよ!!」
「寝るから静かにしろ!」
「えー、俺だけ拒否?」
サノスはふてくされたように床に座り込んだ。
しかし、次の瞬間────
「じゃあ、俺が一緒に寝る」
ナムギュが当然のように布団の横に座った。
「は?」
「俺ならいいだろ?」
「良くないけど?」
「はぁ? さっきミンスのこと抱きしめてただろ」
「それとこれとは違う」
「何が違うんだよ!」
「うるさい!!」
セミは再び布団を頭からかぶる。
────その直後、布団の端をそっと引っ張る手があった。
「セミヌナ……」
小さく囁くミンスの声。
「……ミンス、あんたまで何?」
「僕も……一緒に……」
「……っ!!」
(なんなのこの状況!?)
セミは一人で寝るつもりが、サノス・ナムギュ・ミンス全員に囲まれ、逃げ場を失っていた。
セミは布団をしっかり握りしめたまま、どうにかしてこの状況を乗り切ろうと頭を回転させた。
左にはサノス、右にはナムギュ、足元にはミンス。
完全に包囲されている。
(……いや、普通におかしいでしょこの状況!!)
「おい、全員離れろって」
「え〜、俺ここが一番落ち着くんだけど」
サノスがニヤリと笑いながら腕を枕にして寝転がる。
「ふざけないでください、兄貴は向こう行ってくださいよ」
「いやいや、俺がここにいた方がナムスよりマシだよな?」
「なんで俺がダメみたいになってんだよ」
ナムギュがムッとしながら睨む。
「お前が一番怪しいから」
「はぁ!? 俺が何したってんだよ!」
「普段の行いが全部アウト」
「クソッ、じゃあセミ、お前こそ普段ミンスばっか贔屓してんじゃねーか!」
「は?」
ナムギュが苛立ったようにミンスを指さす。
「こいつだけは抱きしめて頭撫でて、俺には絶対しねぇじゃん」
「……いや、するわけないでしょ」
「ほら!!」
ナムギュがさらに不満げに眉を寄せる。
「お前、ミンスには甘すぎんだよ! だから調子乗るんだ!」
「ちょ、調子乗ってない……!」
ミンスが小さく肩をすくめる。
「ナムギュ、お前それ嫉妬?」
サノスがニヤリと笑いながら囁くと、ナムギュは即座に赤くなった。
「は!? んなわけねぇだろ!!」
「おーおー、顔真っ赤だなぁ」
「黙ってください……兄貴!」
セミは頭を抱えた。
(もういい……早く寝たい……)
しかし、三人は全く退く気配がない。
——むしろ、セミを巡ってさらにヒートアップしそうな雰囲気になっている。
(もう全部めんどくさい……)
セミは大きく息を吸い込むと────
「もういい!! みんな勝手すれば!」
そう叫んで、布団の中に潜り込んだ。
セミは布団の中で目をぎゅっと閉じた。
(もう知らない! さっさと寝る!!)
そう決めたのに────
「……セミヌナ、ちょっとだけ」
「何?」
布団の隙間から顔を出すと、ミンスがそっと近づいてきた。
「おやすみの……ハグ、ダメ?」
「……」
ミンスの潤んだ瞳に見つめられ、セミは軽くため息をついた。
「ちょっとだけね……」
「うん……!」
セミはミンスを軽く抱き寄せ、頭を撫でた。
ミンスは目を閉じて、満足そうにセミの胸元に顔を埋める。
(はぁ……やっぱりミンスはは放っておけないんだよな)
「ちょっと待て!!」
ナムギュが勢いよく立ち上がった。
「なんでミンスだけいいんだよ!!」
「うるさい、寝ろ」
「いや、納得いかねぇ!!」
「俺も」
サノスが腕を組みながらニヤリと笑う。
「てか、だったら俺にもハグくれよ」
「は?」
「俺、愛に飢えてるし?」
「あんたたちにやるハグはない」
「ひでぇなぁ、俺にはキスくれたのに?」
「それは事故!!」
セミが枕を投げると、サノスは笑いながら避けた。
「セミ、お前ミンスには甘いくせに、俺には冷たすぎね?」
「そりゃあね」
「ひどい!」
「俺にもハグしろよ」
ナムギュが腕を組んで要求する。
「なんで?」
「ミンスだけズルいし」
「知らないわよ」
「俺がしないと寝れねぇ」
「ガキか?」
「いいからしろ」
ナムギュがぐいっとセミの腕を引っ張る。
「ちょ、やめ……!」
「ほら、さっさとハグしろよ」
ナムギュは腕を広げて待っている。
(めんどくさい……)
セミはしぶしぶナムギュの肩を軽く抱いた。
「これで満足?」
「……」
ナムギュはしばらく黙った後、ぽつりと呟く。
「……あったか」
「は?」
「いや、なんでもねぇ!」
ナムギュは顔をそらしたが、耳がほんのり赤くなっているのをセミは見逃さなかった。
「ふーん」
「……なんだよ」
「べつに?」
セミが微笑むと、ナムギュはむっとして目をそらす。
「で、俺は?」
サノスが期待の眼差しを向けてくる。
「お前はナシ」
「えー!」
「もう寝る!!」
セミはバッと布団をかぶる。
——こうして、ドタバタの夜は更けていった。
しかし、翌朝。
セミが目を覚ますと、
左腕にはナムギュ、右腕にはミンス、足元にはサノスが絡みつくように寝ていた。
「……なんなのこれ?」
朝から頭を抱えるセミの声が、部屋に響いた——。
セミは朝の光を浴びながら、頭を抱えた。
左腕にはナムギュがしがみつき、右腕にはミンスが甘えるように抱きついている。
さらに足元にはサノスが絡みつくように寝ていた。
(なんなのこれ……!?)
「おい、離れろ!!」
セミは必死に身をよじるが、三人ともがっちりとしがみついて離れない。
「……んー……」
最初に目を覚ましたのはナムギュだった。
ぼんやりと目を開けた彼は、腕に抱きついているのがセミだと気づくと——
「……っ!!」
一瞬で顔が真っ赤になった。
「な、な、なんで俺、お前に抱きついて……!」
「知らないわよ! お前が勝手にしがみついたんでしょ!」
「そ、そんなわけ……」
ナムギュは慌てて飛びのいたが、動揺して布団にもつれて転がった。
「だっせぇ……」
サノスが半目でナムギュを見下ろしながら、あくびをする。
「お前も人のこと言えないでしょ!! 足元で絡みついてたくせに!」
「へぇ、じゃあセミが俺に寝ぼけてしがみついてたってこと?」
「してない!!」
サノスはくすくすと笑いながら、ゆっくりと体を起こした。
「まぁまぁ、Señorita、朝からそんなに怒るなって」
「怒るわ!! なんでみんなで私にしがみついてんのよ!!」
「セミヌナ……ぬくもり……」
最後に起きたのはミンスだった。
まだ完全に覚醒していない彼は、無意識のままセミの服の裾をぎゅっと掴んで離さない。
「ちょ……ミンス!? あんたまで……」
「んぅ……もうちょっと……」
甘えるようにセミの腕に頬を擦りつけるミンスに、ナムギュが即座に反応した。
「お前は許されんのかよ!!」
「僕、セミヌナのこと好きだから……」
「なっ……!?」
ミンスの寝ぼけた告白に、ナムギュは顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせる。
「お、お前……」
「んー……セミヌナ……」
ミンスはそのままセミの腕をぎゅっと抱きしめると、再び寝息を立て始めた。
「……」
セミは再び深いため息をついた。
(……もう知らない)
こんな朝はもう二度とごめんだ——
そう心に決めるセミだったが、
この三人がそれを許すはずもなかった。
セミはもう一度大きくため息をついた。
(……朝からなんなのこれ)
ミンスはまだ腕にしがみついたまま寝ている。
ナムギュは顔を真っ赤にしてミンスを睨みつけ、サノスは相変わらず余裕の表情でセミを眺めていた。
「なぁ、セミ」
「何?」
サノスが少し体を乗り出してくる。
「俺にもそのぬくもり、分けてくれよ?」
「お断り」
即答すると、サノスは肩をすくめて笑った。
「冷たいなぁ、昨日は俺とキスしたくせに?」
「だからそれは事故!!」
「じゃあ、今度は事故じゃなくする?」
「ふざけんな!!」
セミが枕を投げつけると、サノスは余裕で避けた。
「お前マジで調子乗んなよ……!」
「いやいや、ナムスよりはマシだろ?」
「はぁ!? なんで俺が出てくるんだよ!!」
「お前、昨日もセミにベタベタしてただろ」
「そ、それは……」
ナムギュが一瞬口ごもる。
「それに、朝から顔真っ赤だし?」
「う、うるせぇ!!」
「つーか、あんたたち……いい加減、私から離れたら?!」
セミが怒ると、ナムギュはビクッとし、ミンスも寝ぼけながら少しだけ手を緩めた。
だが────
「じゃあ、代わりに俺が抱きしめてやろうか?」
サノスが腕を広げてウインクしてくる。
「……マジで殴るよ?」
「おっと、Señoritaは朝から機嫌が悪いなぁ」
「当たり前でしょ!!」
「でもさ、なんだかんだ言って、俺らのこと嫌いじゃないんだろ?」
「……は?」
サノスの言葉に、セミは目を瞬いた。
「だってさ、嫌いだったら、もう逃げてるはずじゃね?」
「……」
「俺らがどれだけ絡んでも、セミ、俺らを突き放さないじゃん」
「……」
サノスはニヤリと笑った。
「つまり、セミは俺らが好きってこと?」
「はぁ!? ちがうわ……」
即座に否定したが、サノスの笑みは深まるばかり。
「そーかなぁ?」
「ふざけんな!! お前らみたいなの好きになるわけ——」
「セミヌナ……僕は好きだよ……」
ミンスがまだ寝ぼけたまま、セミの服をぎゅっと掴みながら呟いた。
「っ……!!」
セミは言葉を失った。
すると、ナムギュも口を開く。
「……ま、まぁ……その……」
「?」
「べ、別に俺も……嫌いじゃねぇし……」
「は?」
セミが聞き返すと、ナムギュは「ちげぇし!!」と焦って叫んだ。
「と、とにかく!! セミが俺らを拒否しねぇのは、そういうことなんじゃねぇのかって話!!」
「だから、それは——」
「いい加減、素直になれば?」
サノスが余裕の表情で言う。
「俺らと一緒にいるの、嫌じゃないんだろ?」
「……」
セミはぐっと口を閉ざした。
(……たしかに、こいつらのことをウザいとは思うけど……)
(嫌いでは、ない……かもしれない)
そんなセミの心の揺れを見抜いたのか、サノスがニヤリと笑った。
「な? 俺の言った通りだろ?」
「……うるさい」
「ふふ、Señoritaは可愛いなぁ」
「やめろ、バカ!!」
「俺も抱きしめていい?」
「ダメ!!」
朝から騒がしくなる部屋。
「……ねぇ、本当にいい加減にして」
セミはため息をつきながら、サノス、ナムギュ、ミンスの三人を睨みつけた。
しかし、三人は全く動じない。むしろ、サノスは余裕の笑みを浮かべているし、ナムギュはなぜかそわそわしている。ミンスは……まだセミの服の裾を掴んだまま、少しだけ頬を赤らめていた。
「まさか、また誰か抱きしめようとしてないでしょうね?」
「……」
セミの言葉に三人が沈黙する。
「ちょっと、なんで黙るのよ!?」
「いや……」
サノスが苦笑いをしながら、少しだけ身を乗り出してきた。
「Señoritaが可愛すぎてさ」
「は?」
「だから、つい……もう一回くらい抱きしめたくなるっていうか……」
「はぁ!? 絶対にダメ!!」
セミが即座に拒否すると、サノスは肩をすくめた。
「冗談だって……まぁ、半分は本気だけど」
「……」
その言葉に、セミはギリッと奥歯を噛みしめた。
「ていうか、俺も……」
ナムギュが小さく呟いた。
「……は?」
「べ、別に抱きしめるとかじゃねぇけど……」
「じゃあ何よ?」
「その……こういうのも、悪くねぇ……かな、とか……」
「……」
ナムギュのその微妙な発言に、セミは思わず黙り込む。
(こいつ、何言ってんの?)
すると——
「僕も、セミヌナのこと、好きだから……」
「っ!!」
今度はミンスが、真っ直ぐにセミを見つめながら言った。
セミの心臓が、一瞬だけ跳ねる。
(……こいつら、本当に……)
「……もう、勝手にしなさい」
「え?」
サノス、ナムギュ、ミンスが一斉に驚いたようにセミを見る。
「どうせ何を言っても、お前ら勝手にしがみついてくるんでしょ?」
セミは深くため息をついて、少しだけ肩を落とした。
「……だったら、もう好きにすれば?」
「……」
「ただし!! 変なことしたら、絶対にぶっ飛ばすから!!」
「はーい、了解」
「……まぁ、それくらいなら」
「僕、ちゃんと大人しくする……」
三人はそれぞれ微妙に違う反応を見せながら、それでも満足げに頷いた。
(……なんでこんなことになったのかしら)
セミはまた、深いため息をつく。
「……本当にもう、しないわね?」
セミは睨むように三人を見渡した。
「しないしない」
サノスはニヤニヤしながら手を上げ、ナムギュは腕を組みながらそっぽを向く。ミンスは少し頬を赤らめながら「うん……」と小さく頷いた。
(絶対信用ならない)
セミは警戒しながらベッドから降りようとした——が、次の瞬間。
「——っと」
足に絡みついていたサノスにつまずき、バランスを崩した。
「わっ!?」
そのまま倒れ込み——
バフッ!!
「うわっ!?」
ナムギュの上に覆いかぶさる形で転がった。
ピタッ。
「……」
「……」
「……おい」
ナムギュが顔を真っ赤にしながらセミを見下ろす。
「どこに倒れ込んでんだよ……!」
「こ、こっちのセリフよ!!」
「いや、お前が俺の上に——」
「うるさい! どきなさい!!」
セミが勢いよくナムギュを押しのけようとしたその時——
「おっと」
後ろからサノスが腕を回し、セミを抱き寄せるように支えた。
「危ねぇな、Señorita。俺が受け止めてやるよ?」
「いらない!! ていうか離せ!!」
セミが暴れるが、サノスはニヤリと笑うだけで離さない。
「……」
ナムギュは唇を噛みしめながら、その光景を睨んでいた。
すると——
「……セミヌナ、大丈夫?」
ミンスが心配そうに近づき、セミの手をぎゅっと握った。
「おい、触んな」
ナムギュが即座に反応する。
「え、でも……」
「……お前、さっきからちょっと図に乗ってんじゃねぇの?」
「そ、そんなことない……」
「……はぁ!? 何よその言い方!」
セミがナムギュを睨みつけるが、ナムギュはミンスから視線を逸らさない。
「お前、さっきからセミにベタベタしすぎだろ!!」
「えっ……」
「お、嫉妬か?」
サノスが楽しそうに口を挟む。
「なっ!? ち、違ぇし!!」
「ふーん? じゃあ、俺がこうするのは?」
サノスはさらにセミを引き寄せ、ふわりと髪を撫でる。
「ちょ、やめ——」
「おい、マジでやめろ!!」
ナムギュがガバッと立ち上がり、サノスの腕を振り払おうとする。
「お? なんだよナムス、お前もやりたかったの?」
「はぁ!? そ、そんなわけねぇだろ!!」
「じゃあ、何が気に入らないんだ?」
「……」
ナムギュは歯を食いしばり、何かを言おうとして——
「もういい!!!」
セミが突然、大声を上げた。
「お前ら全員、いい加減にしなさい!!」
その怒声に、サノスもナムギュもミンスもビクッとする。
「私の周りで勝手に騒がないで! ていうか、誰もベタベタしない!! わかった!? もう面倒くさいのは嫌!!」
セミの怒りに三人は沈黙する。
「……」
「……」
「……」
しかし、数秒後。
「じゃあ、セミヌナからならいいの?」
ミンスがぽつりと呟いた。
「は?」
「セミヌナが僕たちに甘えるのは、いい?」
その言葉に、サノスとナムギュがピクリと反応した。
「……セミからなら、まぁ……」
ナムギュがなぜか頬を染めながら呟く。
「おいおい、俺にもちゃんと甘えてくれるなら、俺も文句ねぇけど?」
サノスも余裕の笑みを浮かべる。
「え、ちょっと待って……」
話が変な方向に進んでいることに気づき、セミは慌てる。
「いや、私が甘えるとか、絶対にないから!!」
「ほんとぉ?」
サノスが意地悪く笑う。
「ふん、俺は別に……でも、もしセミが甘えてきたら……まぁ、拒否はしねぇけど」
ナムギュも目を逸らしながら言う。
「僕は、セミヌナが甘えてくれるなら嬉しい……」
ミンスも小さく呟く。
(なんでそうなるのよ……!!)
セミは頭を抱えながら、もう一度深いため息をついた。
「ていうかサノスあんたね昨日私の胸揉んでたでしょ?!」
「えっ?!Oh、ばれてたか……」
「兄貴それはないっすよ、、!」
「止めればよかったのにな。もしかして気持ちかった?」
「なわけないでしょ……?!」
「ミンスだってセミの胸に顔埋めてただろ!」
「えっ?!僕…、?」
「なんだよ!俺だけじゃないか!揉ませろ!」
ナムギュはセミだから避けると思ったけど避けなくて本当に触ってしまった。
セミはなにも言わずこっちを見ている。
(ブラつけてない……?!)
「ナムス!ずるい!」
ナムギュが耐えられなくなりセミの服を脱がした。
やっぱりブラをつけていなくてセミの胸が露になった。
「ヌナ……」
「ナムギュっ?!」
「我慢できるわけないだろ……❤︎」
「Señorita……❤︎」
────────────────────
「やめっ…あっ❤︎…みんすっ❤︎たすけてっ、んあ❤︎」
「イけよ❤︎」
「ヌナ……」
「Señorita……ここ好き?」
一気に奥に突く。
「ずっと我慢してたんだよ…❤︎」
セミが助けをも止めてミンスの方を見るがミンスの勃ったそれを見てセミは驚いた。
「あんたっ、❤︎、だめっ…❤︎、んっ、❤︎、なかはっ❤︎」
好き……気持ちいい。
四人で住み初めてから中々一人で出来なかったから正直嬉しい気持ちもあった。
「Señorita開発済みじゃん……元彼?」
「だったらなにっ❤︎、、んっ、まじでくそだね…あぅっ❤︎」
「兄貴、俺にもやらせてくださいよ……」
「ヌナごめん……」
ミンスはセミの胸を揉んだ。
「みんすっ?!❤︎……はぁ、むりっ❤︎」
「セミヌナ、まだまだこれからだよ❤︎」
ナムギュがそう言うとセミは絶望したような半分諦めた顔をした。
「もう……好きにして」
その言葉に三人はニヤつき、朝までセミの喘ぎ声は止まらなかった。
コメント
7件
リクエスト良ければ、サノス、ナムギュ、ミンスがセミを誘拐監禁して、拘束+猿轡をしながら放置プレイするお話お願いしたいです🙏🏻 セミは泣きながら抵抗する感じでお願いしたいです! 長文失礼しました!重い感じなので厳しければ大丈夫です!
これで何回ループしただろう、、せいぜい10回目くらいだろう(漫画でよくある死んじゃう友達とかをループして助ける系風)
最高すぎます!! 何回も読み返します!!