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ガシャンッ
「わっ!」
「なんだ?」
「まぁ!北斗!」
北斗が紅茶を飲もうと口元に持っていったティーカップを落とした、途端に紅茶がテーブルに広がった
一斉に三人が立ち上がった、しかし北斗は立ち上がれない、立ち上がると自分が勃起しているのが親友達にバレてしまう
「北斗?濡れてない?」
貞子が布巾を差し出す
「あ・・ああっ・・すまない」
「もう~北斗さんったら、ぼうっとしちゃって 」
アリスがどうしていいかわからない北斗の横に来てテーブルを綺麗に拭く
「すいません貞子さんティーカップは割れてませんけど・・・」
「ああっ!そんなの大丈夫よ、もう一度お茶を沸かしましょうね 」
クスッ
「北斗さん大丈夫?」
「大丈夫だよ・・・」
(コイツめ後で覚えてろよ)とばかりに、アリスの動作を追う北斗の眼差しには炎がめらめらと揺れている
この小悪魔を恨むべきか口づけをするべきか、密かにうろたえている夫を横目でチラリと見た
そこには満たされない欲望に苛まれている男性を、絵に描いたような表情だった
少し自分が刺激するだけで、夫がこんなに燃えると思うと、アリスは満足感を覚えずにはいられなかった
貞子が嬉しそうにアリスに向き合う
「ジンから話を聞いて、あなたのことは会う前から好きなのよ、やっぱりその素敵なしゃべり方、噂どおりのITOMOTOジュエリーの生粋のお嬢様ね!どうやらあたし、あなたのファンになっちゃったみたい」
アリスも笑って言う
「私も北斗さんからお話を聞いてお会いできて嬉しいわ、このマタニティアップルティーご存じ?」
そう言うとアリスが綺麗な紙袋を貞子に渡した
「妊娠中と出産後のお母さんの不足しがちな栄養素を、このアップルティーがすべて補ってくれるの、鉄分、ミネラル、ポリフェノール、植物繊維・・・以前知り合いの妊婦さんが飲んでて出産後の疲労回復にとても良いって・・・」
それとアリスがお見舞いのフラワーアレジメントと一緒に、次々テーブルに並べて見せた貞子が驚いてそれを見る
「え?これって・・・・・妊婦の私のためにわざわざ? 」
にっこりアリスが微笑む
「ええ!使っていただけると嬉しいわ、天使ちゃんが生まれたらぜひ抱っこさせてね」
「あなたに抱っこしてもらっている間、私はガバガバこの紅茶を飲むわ、ねぇ男どもは放っておいて、ソファーに移ってもっと話さない?」
「もちろんよ!」
二人は同時にアハハハハと笑った
とても楽しそうに、アリスの持ってきた紅茶をティーポットに入れて二人はリビングに移った
うっうっ・・・
「北斗ぉ~貞子が笑ってる~・・・今朝は本当にアイツはナーバスになってたんだ~俺ももうどうしていいか~~~」
ジンが北斗の肩に寄りかかって泣いている
ハハッ
「ここは少しアリスに任せたらどうだ?良い貞子の気分転換になるさ、それよりどこを改築したんだ?見せてくれ」
「いいとも!納屋に来いよ!凄いぞ」
しばらくアリスと貞子を二人にしてやりたかった、北斗達もそう言って、二人は改築中の裏の納屋へ歩いて行った
「私って・・・観察眼が鋭い方じゃなくて」
二人っきりになって真剣な顔で貞子が言う、アリスは鼻で息を吸った
「どうぞ何でもおっしゃって聞きたいことなんでも、私も包み隠さずお話しするわ」
貞子が伏し目がちに言う
「私達はこの土地から死ぬまで抜け出せない人間なの・・・ここ以外の世界は知らないし、知ろうともしない、人間関係はみんなこの土地の人間で、それは産まれる前から自分の親達が繋がっているような人間関係なの・・・それがこの土地の人間関係のしがらみよ」
アリスがうなずく
「この歳になると習慣を変えるのに難しくてね、今だに私には気の毒な幼い頃の北斗の顔が記憶に残っているの・・・あんなに大きくなっているのに、彼の父親のこと・・・聞いてる?」
「私に気を使わないで思ったことを言って」
アリスの言葉に貞子は勇気づけられ、さらに説明する気になったようだ
「北斗の父親は北斗をまったく理解しようとしなかったの」
アリスは顔をしかめた
「彼のお父様はどうしてそれほど、彼を気に入らなかったの?吃音症だったから?」
貞子が首を縦に振った
「小学3年生になるまで北斗とはほぼ筆談だったの・・・でも彼の書いている文章を見て、すぐに彼はとても賢いと私もジンも理解したわ、ただ・・・話さないことが彼の父親をとても苛立たせたの、北斗は・・・しょっちゅう顔や背中に殴られた痣をつけて学校に来てた、みんな彼が父親に殴られているのを知ってたわ・・・先生でも・・・どうすることもできなかったのよ」
アリスは唖然として唇を開いた
「学友にまでわかる痣だなんて・・・でも今の彼が言葉が詰まるのをあまり聞いたことがないわ、そんなの誰でも動揺したりしたら言葉が詰まるものでしょう?」
貞子は肩をすくめた
「実際北斗は成績もずっと学年トップでとても優秀だったの、でも彼の父親はいくら成績が優秀でも話せなけれ、ば愚か者には変わりないってずっと彼を母屋に出入り禁止させて、離れに一人で住まわせていたわ」
「北斗さんは・・・やっぱりその頃話すのに苦労していたの?」
アリスは低い声で尋ねた
「北斗は懸命に声を出すように努力したわ、7年かかったの、7年間私やジンと一緒にひたすら話す練習をしたの、たまにもどかしさのあまり北斗が壊れてしまうのではないかと、私もジンも心配したものよ、でも北斗は頑固だった、何としてもこの吃音症を直すといった気概を持ってたわ 」
貞子は悲しそうに首を振った
「なのに北斗が吃音症を克服した頃には、もう彼の父親は― 」
じわりとアリスの目に涙が浮かんだ、その頃の北斗さんを知っていたら・・・今すぐ彼を抱きしめてあげたくなった
グスッ・・
「胸が張り裂けそうだわ・・・立派に成長した彼を見ることはなかったのね」
指で軽く涙を拭うアリスを貞子が見つめる