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#主人公最強
#ハッピーエンド
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「紅起発焔!」
後ろからクロエの掛け声と震天雷の爆音が響いた。
「こっちは片付きました!どうですか?」
「もう少しです!」
目の前にいるのは白いローブのようなモンスター。
ローブのフードに当たる部分には、目のような二つの赤黒い光が灯っている。
何度も切ったが、ふわふわしてなんとも手ごたえがない。
ローブにはあちこちに切り傷があるから、ダメージはあるはず、と思いたい。
「くたばれ!」
大きく踏み込んで村雨を袈裟懸けに振り下ろす。
ローブに大きく裂け目が穿たれた。
これで終わったと思ったが……白いローブのそいつが残像を残して滑るように通路を下がる。
まだ殺し切れなかったか。
距離が開いたところでフードの奥の目のような光が赤黒く輝きを増した。
何か仕掛けてくるな……させるか。
床を蹴ってそいつの方に走る。
耳元で風が鳴ってそいつの姿が近づいた。あと5歩。
「待ちなさい、トリスタン!ドルイド相手に深追いは危ない!」
後ろからクロエの声が追いかけてきて、同時に白い光が後ろで光って回廊を照らした。
後ろを振り向くと、白い壁がそそり立っていた
◆
壁を村雨で軽く叩くが……硬い。
そいつの白いローブの奥の光が明滅する。なんとなく笑っているようだ。
分断されたか。
「トリスタン!この壁はそいつを倒さないと破れない」
壁の向こうからクロエの声が聞こえた。
……要するに援護は望めないらしい。
「そいつの攻撃は右手からの雷撃と左手からの火球です。雷撃は速いけど直線的、火球は攻撃範囲が広い」
壁越しにクロエの声がもう一度聞こえた。
どんな攻撃をしてくるのか分かればそれだけでありがたい。
「通路の左右に寄って立つと雷撃、中央に立つと火球を使います。ただし同じ攻撃を3度は繰り返さない。分かりましたか?」
クロエの声が後ろから聞こえると同時に、そいつの右手から赤い矢印が俺の方に伸びてきた。
|攻撃察知《ターゲットライン》の矢印だ
これはレベル48で新しく覚えたスキルだ。
敵の攻撃の方向が矢印のように見えるから、どのタイミングで攻撃を仕掛けてくるかは分かる。
右手ってことは雷撃か。
そいつの右手から迸った雷撃を横に飛んで躱した。
雷撃が間近を掠めて髪が逆立った。肌が針で刺されるようにピリピリする。
来るのが分かればよけることはできるが、威力は高そうだな
そもそも、あっさりとモンスターにやられる|案内人《ガイド》なんて役に立たない
村雨を構えて様子を伺う。
それに、俺は距離を詰めないと勝てない。
赤い矢印がまた右手から伸びてきた。これをかいくぐって踏み込んでやる。やるしかない。
距離は5歩分ほどだ。
このくらいならなんとか詰められる。
◆
火球に焼かれつつ、強引に前に出た。
白いローブのそいつが後ろに下がろうとしたが、全身を伸ばして村雨を突き出す。
村雨の切っ先が白いローブの中の核を突き刺した。
手応えが無かったが……そいつの姿が崩れる。
白いローブが空中に飲み込まれて消えた……倒せたか
ようやく気が抜けたところで経験値を示す白い光が俺の体の中に吸い込まれていった。
「よかった。無事でしたね」
後ろを振り返ると、壁が崩れていて震天雷を構えたクロエがいた。
震天雷の切っ先を下ろすと、安心したようにため息をついて、こっちに歩み寄ってきた。
「ドルイドを一対一で倒せるとは……やりますね」
「新しいスキルのおかげでなんとか」
……どうやらあのモンスターはドルイドというらしい。
しかし、攻撃察知がなければ危なかった。
とはいえ、見えれば躱せるなんて都合のいいことは無いわけで。
通路全体を覆うような火球の攻撃はかわしようがなかった。
回復したかったが、ポーションを飲む余裕もなかった。
残りのHPは325。後一発食らったら危なかったな
「回復薬使います」
アイテムボックスの回復薬を飲むと、HPがほぼ8割がた回復した。
火傷の引き攣れたような痛みが引く。
最大値が増えたから一本では回復しきれない。
だが、そんなところにも自分のステータスの成長を感じる。
「無事でよかったです」
「死ぬかと思いましたよ」
生き残れたからこそ、こんな冗談も言える。
実際のところ恐ろしい相手だった。
ボロいローブのような見た目にそぐわないしぶとさと、ひらひらと飛び回るような意外に素早い動き。
それに、遠距離から放ってくる2種類の魔法は、射程が長い上に、どっちもかなり威力が高かった。
俺には遠距離攻撃なんて便利なものはないから、無理を承知で突撃するしかなかった。
正直言って、レベル12の時の数日前の俺だったら……追い詰められた時に諦めたたかもしれない。
だが、今は死にたくないと感じる。
今のレベルは49だ。案内人の俺はどこまでいけるのか、この先に何があるのかを知りたい。
何度か危ない状況でもあきらめずに踏みとどまれたのはその気持ちがあったからだと思う。
「ところで……なんでこいつの行動が分かったんです?」
壁越しのアドバイスで攻撃を教えてもらえたのは助かった。
だが、今のドルイドなるモンスターは当然のごとく初めて出会うやつだった。
一応案内人としてそれなりにモンスターに関する記録も読んだ。
こんな深層に行くことがあるとは思えなかったが、それでもなんとなく読んでいた。
そのおかげで、記録で見たことがあるモンスターもちらほらとして、全く初見のモンスターばかりじゃないのは助かっている。
しかし今のは完全に初めてだ。
「パターンがありますから」
「先の行動が分かるんですか?」
「ええ、まあ」
クロエが曖昧に頷く。
モンスターにはある程度動きの規則性というか、本能があるのは知られている。
とはいえ、あくまで傾向に過ぎないから、正確に読み切るのは無理だ。
モンスターも生き物だ。モンスターなりの意思がある。
次の行動や攻撃の内容が分かるとしたら……博識なんてもんじゃないぞ。そんなことが可能なんだろうか
星騎士のスキルになにかそういうのがあるんだろうか。
◆
「ところで、一つ聞いていいですか?」
「なんでしょう」
「HPがゼロになったら……どうなるんですか?」
クロエが聞いてくるが、あまりに奇妙な質問に思わず固まってしまった。
「……真面目に聞いてるんですか?」
ついさっき、博識さに感心したばかりだっていうのに……これはレベル98が聞く質問とはとても思えない。
これは駆け出しが教会で一番最初に講義されることだ。
試されているのかと思ったが、それにしてももう少しましな質問を選ぶだろう。
クロエが表情を変えないままに答えを促すように俺を見た。
からかわれてるって感じではないな。
「HPがゼロになったら秒読みが始まります。秒読み中に回復があれば問題ない」
「ゼロになったら?」
「そりゃ、死にますよ」
だから、教会は一人でのダンジョン探索を基本的には禁止している。
一人で戦っていて倒れれば秒読み中に回復をしてくれる仲間がいない。
そうなれば死ぬしかない。
それに、あまりにも大きなダメージを受けると、秒読み無しで即死することもある。
いずれにせよ、ダンジョンの中では危険は避けられない。
「死んだらどうなりますか?」
「死者を生き返らせれる魔法は、司教には|蘇生《リザレクション》がありますが……死んで間もなくしか効果がありません。
枢機卿には再臨の魔法がありますけど、どっちもそんなの使える人は稀ですね」
再臨《パルーシア》はあらかじめかけておけば秒読みが終わっても復活できる、というものだ。
死を逃れる魔法という意味ではこの二つだろう。
ただ、どちらも強力な魔法ではあるが、両方とも使い手が神官系クラスチェンジツリーの最上位格だ。
そうそう拝めるもんじゃない。
人の死というのはそれほどに重い。
一応、身代わりの護符なんてもいうアイテムもある。
装備しておけば、HPがゼロになっても復活できるというものだ。
ただ、これはかなりのレアものだ。道具のランク的にはSRに相当する。持っていても使わない奴の方が多いだろう。
実際、これをケチって装備しなかった挙句にダンジョンで死んだ冒険者の話もある。
もちろん貴重なアイテムは大事だ。
だがそれでも、命より大事なものない……という感じで教会の語り草になっている。
「やっぱりそうなのね……」
クロエが静かにつぶやいた。
「孤高の討伐者の称号をお持ちなのに、なんでそんなことを聞くんです?」
孤高の討伐者は、単独でダンジョンを攻略した冒険者に与えられる称号だ。
単独行のリスクや死の危険が分かってないはずはない。
そもそも、LV98といえば百戦錬磨だ。
恐らく何度も、自分が死にかけるのも仲間が死ぬのも体験しているだろう。
戦い続けるというのはそういうことだ。
俺はまだ5階層より深くまでは行ったことはないから、今のところ仲間の死を見たことはない。
そんな俺ですら秒読みの体験は3度ほどある。
俺に質問にクロエは答えなかった。
「行きましょう。まだ先は長い」
「……そうね」
ここで考えていても意味がない。俺が促すとクロエが頷いた。
改めて横顔を見る。やっぱり色々と不思議な人だ。