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mana(おつきみ)
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※あらすじに注意事項を明記いたしました。
読了後、全てご理解いただけた方だけ、この先をご覧ください。
星の欠片に綻びを――
星は、苦しみ欠片
苦しみは、幸せの欠片
幸せは、星の欠片
未来は、星に満ちている――
「いったぁぁ!!」
真っ暗な空間に浮かんだ無数の目を眺める暇もなく、僕はしりもちをつき、叫んだ。周りを見渡す。……既視感があった。そうだ、紫様のスキマだ。現実味を帯びない色を半強制的に眺める。数秒――いや、数分? ここは時間の感覚が狂う。それでも、僕の中の一瞬で、目の前に紫様が現れた。二次元の存在で……あれ? なんで僕はここにいるの!? 簡単に慌てふためく僕を見下ろす紫さんが、ふと口を開いた。
「……貴方にお願いがあるわ。」
美しく色めかしい口から、そんな言葉が飛び出る。少し考え、やっと意味を理解した。と思う。続けて紫様は、言った。
「幻想郷の存在が、危うい気がするの。まぁ……誰でもよかったんだけど……。」
正直に言って、わけのわからない言葉しか聞こえない。誰でもよかった? ってなにそれー?
「どう、いうことですか?」
恐る恐る口にしてみる。紫様は、ぽかんとした顔をし、すぐに冷徹なものに戻す。
「……貴方、霊夢と……魔理沙? だったかしらね。二人の事を知っているでしょう? まったく、忘れられたものを受け入れる幻想郷が、何でこんな広く人間に知られているかわからないけれど……そんなことはいいの。……簡単に言うわ。あの二人の関係性が平行線上に伸びてしまえば……幻想郷が、消えるの。」
言っている意味が分かるような……わからないような。まぁわかった気がする。つまり雑用っぽく見せた重大ミッションをこなせということだ。コクリと頷いたら、紫様は美しい笑みを浮かべた。
「貴方は、姿が見えない。だって、忘れられていないのだから、誰かが覚えている人は、完全な姿で幻想入りは出来ないわ。でも、実態は与える。言葉の自由もある。……姿を見せない、スパイ? というのかしら。そういうもののように、やりとげなさいな。」
ふわりと傘が振られると、僕は恐らく博麗神社であろう鳥居の上に立っていた。いやまぁ、影も姿もないんだけど、立てているから。本当に実態があるのだろう。下には、幼い姿の霊夢と思わしき人物がいた。ふわりと、感覚に従って降りてみる。痛みも衝撃も感じなかった。なんか、マイン●ラフトみたいだと思った。
「魔理沙に追いつかない、と……」
ふと聞こえた声。その場にいるのは僕と幼い霊夢。僕は声を出していないから、霊夢が声を出したのだろう。すごっ、初めて霊夢の声聞いたー!!とはしゃぐ。でもすぐに言葉の意味を理解する。追いつかないと? よくある二次創作だと、霊夢のほうが上で……あぁそっか、あれはもっと大きくなってからの話か。妙に納得のいく解が出たと思ったら、幼い霊夢が泣き崩れた。
「えぇっ!?」
思わず大声を出す。幼い霊夢が振り返った。
「なに?! そこに誰かいるの……?」
警戒心たっぷりの視線。幼いから可愛いーなんて思ってた自分にくぎを刺したい。いや死ぬな。いや死なないのか? わからない。でも、これ以上近くにいるのは危ないかもしれないので、神社の長い階段を下り、上から見下ろしたどでかい森に入っていった。
*
森はただひたすらに暗く、いつも想像していたような魔法の森とは違った。やっぱ現実ってきついなーとか格好いいことを考えつつ、静かに森を歩く。途中、妖怪のような不思議な生命体が歩いていてヒヤッとした。それ以外はお散歩気分だった。しばらく歩くと、『霧雨魔法店』の文字が見えた。こっそり窓から中を覗くと、幼い魔理沙が眠っていた。髪の毛も短いし、帽子もやや大きい。机の上で寝落ちしているのを見るに、魔法の研究をしていたのだろうと結論づけた。そっと静かに家に入る。机の上には日記があった。こういうのをマメにするのかという、一見失礼な驚きをしたことに後悔と憤りを舌で転がし消えさせる。本当、どこも異常がなさそうな世界なのに、紫様は何故、幻想郷が消える……なんて言ったのだろうか。……なにか、手がかりがあるかもしれない。僕は、罪悪感に包まれながら、日記を開いた。
1,2年分ぐらいだろうか。ざっと600ページはある。とりあえず、一番最初の日記を見てみた。
『7月7日
私は今日から日記を始める。
霊夢に追いつく日まで続ける日記だ。
今が7歳。いつか追いつけるといいな』
すごい、と思った。多分、これ以上ないくらい複雑に絡み合った自分の想いを簡単な目標に落とし込んでいる。……というか、7が多いな。関係ない事を思う。閑静な部屋にうめく声が漏れだす。幼い魔理沙の声だろう。静かに見守る。が、目を覚ました幼い魔理沙は、すたすたと僕の前に歩きだして、ピタリと停止した。えっ? と焦っていると、ひと言、可愛らしい声が響いた。
「そこ、誰かいるだろ。」
真剣な眼差し。多分、九つくらいの子供だ。そんなこともでも、推しだし、強いって知ってるし、だからこそ可愛いし、怖い。不思議な感情に苛まれる。魔理沙は動こうとしない。僕は、口を開いた。
「……気付いちゃった? 正解。僕はここにいるよ。見えないでしょう?」
――紫様は、霊夢と魔理沙の関係を平行線にするな、と。そういっていた。二人の関係に、明確な裂け目があるなら――それは多分、異変解決時の、実力差。僕はうすうす感づいて、結論までつけた。……なら、二人の悩みを聞くヒーロー役を演じる。本当は、目の前に推しがいるという、夢か現実かも怪しいこの状況で、あんなことやこんなこと、したいことはたくさんある。一緒に遊びたいし、今すぐ頬を掴んで、その淡い唇に口づけをしたい。まぁ、そんな不謹慎でおかしくて馬鹿らしい妄想は、心の奥の奥に引っ込めて、全て終わってから吐き出そう。……なんて、悶々と考えていたら、幼い魔理沙が静かに魔法を放った。いや、静かだった空間に、激しい爆音を響かせる、という方が正しい。まるで通り雨のように突発的で、それでいて被害の代わりにすぐ去っていくような、そういう魔法。僕はただそこに突っ立っていることしかできなかった。痛みも、衝撃も、なにもない。開けていた後ろの戸が少し焼けて、そのまた後ろの木が焼け焦げ、今にも崩れそうだ。……え、つっよ。え、こわ。すごっ! 僕の頭はそんな楽観的なものだけを映し出していた。一方、幼い魔理沙は、驚いたような顔をして膠着していた。
「お前……何で魔法が効かないんだよっ!」
今にも泣きそうな瞳で訴えられる。そりゃぁそうだろう。声しかない謎の人物が、寝てる間に家にいる……なんて、どれほどの恐怖だろうか。しかも魔法が効かない。本当に、自分でも不思議なほどに冷ややかで、冷静な自分が浮き上がる。静かに、絵本を読むように、子供をあやすように、言葉を飲み込んで、吐き出した。
「……霧雨魔理沙。貴方、悩みがあるでしょう?」
静かに放たれた言葉を、一言々々理解しようと、幼い魔理沙は僕がいるとされている場所をじっと見つめていた。
「……あ、ある。あるけど……何で私の名前、知ってんだよ!」
子供特有の高い声が耳に響く。ちょーっと痛いな。まぁ、推しのためだって、勝手に思っておこなっている自己満だ。何があろうと自分のせいだし。僕は、何かに対する諦めと高揚に満ちていた。
「……いいじゃない。そんなこと。……ねぇ、博麗霊夢。明日、ここに呼びなさい。」
「は?! 何する気だ!」
「・・・何も……あ、まぁ……取って食うわけじゃあるまいし。」
キャラが崩れた! やべ! そんなことを思いながら、見えない顔を真剣にする。してた、と思う。幼い魔理沙は静かに考え、頷いた。了承してもらえたらしい。
僕は立ち去った。……え、この間のごはんとかどうすりゃいいの? え!?
*
自分の中に浮かんだ懸念のようなものは森の散歩をしているうちに消えた。夜の散歩も、完全な幻想入りをしていないからか安全そうだった。いや、完全じゃないからこそ危ないってのはそうなのだけれど……。ともあれ、約束の明日になった。霧雨魔法店へ向かい……迷い、金髪の女性を見つけた。直感的に、アリスだろうと思った。……この二人は、あと数年後に会うのかな。
僕が戸を開けると、幼い魔理沙と霊夢が、僕がいるであろう所をにらみつけている。いくら推しでもにらまれたら怖い……でも尊い。なんかごちゃまぜになった感情を心の奥に引っ込める。あとっでいくらでも吐けばいい。……今は、紫様の頼みにこたえなければ。
「……来たのね。霧雨魔理沙、博麗霊夢。」
幼い霊夢の肩が少し震えた。僕がすごく不審者のようだけれど、それはしょうがない。必死の言い訳は誰にも届かないけれど、確かにここにあるということに微かな安心感を抱いた。
「なんで私らの名前を知ってるの? ……というか、あんた、神社で聞いた声にそっくりだわ! なに? 妖怪? 博麗の巫女に牙をむくって――」
「ちょ、ちょっとま……待ちなさい。ぼ……あたしが来たのは、貴方たちの仲を良好に保つため。……そう、スキマ妖怪の使いとでも思いなさいな。」
とっさに出た言葉は結構うまくいったと思う。スキマ妖怪っていってごめんなさい! 紫様!
「紫の……ってか、なによ、仲を保つためって……私たち喧嘩してないわよ。」
「というか、姿を現せよ!」
二人に言われる言葉がとても刺さる。……めっちゃ仲よさそうじゃん。まぁでも、僕にはわからない関係を勝手に解釈するのは楽しいけれど、本人の前では失礼だと思った。そりゃ、推しのCPを想像するのは楽しい。それでも、想像の関係を求めてはいけない。あくまでこちらの妄想で、現実の関係にはなにも影響しないのだから。だから、しっかり二人を今、見なければならない。
「お互いの悩み、一致しているじゃない。その悩み、抱えたままいつか相手のせいにするのでしょう? あいつが悪い、って。そうなることを憂いているのよ。」
「うれぅ……よくわからないけど、私と魔理沙の仲違いを止めに来たってことでいいのかしら。」
敵か味方かわからない、僕という存在に不安を抱いているのがよくわかる。
「……それ、言えば解決するのか?」
きっ、と幼い魔理沙がにらみつけてくる。薄く汗をかいていて、でも暑さではない、冷や汗、というものだと思った。
「わからないわ。それは貴方たち次第。……でも、このまま関係を続けるよりはいいと思うわ。」
「……」
静かな沈黙。数秒――数十秒――何分? 無機質にすぎゆく時間を認識しながら、次の言葉を待つ。
「……わ、私……さ、霊夢に追いつきたいのに追いつけなくて……すぐに先に行ってて……努力が足りないだけだと思うけど、それでも、」
「私は、霊夢の隣がいい。後ろをつけるわけでも、霊夢を私と同じところにするのでもなく、私は無理、してでも……霊夢の隣にいたい!」
静かに、でも力強い声が、閑静な部屋に響いた。幼い魔理沙はすこし目頭が熱くなっていて、でも必死に言葉を紡いでいた。僕は何も言わない。じっと見届ける役だ。
「……な、によ……こっちだって、あんたがすごく強くなっちゃうから……本当、同じ悩みじゃない……!」
幼い霊夢は、目に涙を浮かべていた。でも、口元にはすっきりしたような笑みが浮かんでいた。――あぁ、よかった。わからないけど、僕はうまくいったと思った。少なくとも、今目の前の二人はここにいるし、こういう悩みって、自分の中に置いておくと、いつか取り返しのつかないことになるから。
「……ねぇ、紫の使い……でいいのかしら。あんたはこれで満足なの?」
涙を拭きながら僕がいるであろう場所に問いかける。
「……そうね、いいんじゃないかしら。お互い、自分の気持ちを言えたのだから。……ということで、あたしはお暇するわ。じゃあね。今の関係を続けなさい。」
それだけ言って、僕は立ち去った。静かに声を出す。紫様、僕はどうすればいいの? そうつぶやいた瞬間、足元の感覚が消えた。
*
「いっっっっっったぁ!!!」
見事なまでのしりもちをついて、つい先日見た、真っ黒な空間。そこに浮かんだ無数の目。戻って……きた。後ろを見たら、紫様がいた。
「……随分と、珍妙な手段を取ったわね。」
くすくすと笑う。僕は何を言われたかわからなかった。すごく眠たかった。
「ありがとう。……これで、おしまいよ。さようなら。改めて、ありがとう。」
僕の意識は、その言葉を最後に途切れた。
*
目が覚めると、自分のベッドの上だった。先ほどの事も鮮明に覚えている。推しに出会えた。救えた……と思う。高揚感と寂しさに襲われながら、ゆっくり体を起こす。夢じゃない。声も、感覚も、考えたことも、話したことも、あの涼しさも、全て覚えている。
ごはんよー、と、母親の声が聞こえた。哀しさを誤魔化そうと深呼吸をする。本当はしたかったことも、我慢して、その喪失感で今苦しんでいる。でも不思議と悪い気はしなかった。
僕はベッドから降り、服に着替えた。特別な現実を味わっても、あれは最高な過去。望んでも、過去には戻れないから。今は今しかないから。
僕は前を向いてドアを開けた。
「はーい」
僕は母親に返事をして、歩き出した。
―――
涼しい風が吹く中、博麗神社の縁側で、少女たちが話をしていた。
「なー霊夢ー。」
「なによ。ただ飯食いに来て。」
「9歳くらいの時のこと覚えてるか?」
とうに昔になってしまった、大切な記憶。
「……何よ急に。覚えてるわよ、もちろん。忘れろって方が無理な話でしょ、あれ。」
「だよなー。」
「なにだか以外ね。魔理沙が持ち出してくる話にしては珍しいわ。」
「……なんかさ、急に思い出したんだよな。私らもう17だぞ?」
「時の流れは残酷ねぇ。」
「あら、お二人さん。まだ話してるの? もうお祭りが始まるわよ。」
二人を呼びに来たのは、金髪の少女――アリス・マーガトロイドだ。
「あぁ、もうそんな時間なのね。」
「時の流れは残酷だな。」
魔理沙が静かに茶化した。それに霊夢が反発して、楽しい言い合いが始まっていた。アリスは静かに二人を見ながら、瞳に羨ましさを秘めていた。
「でも、よかったよ。わからないけど、あのときが無かったらお前と一緒に入れなかったかもなんだろ?」
「そうね。―― 一回すれ違ったら、すぐには元に戻れないもの。」
「あいつに感謝だな。胡散臭い奴だったけど。」
「そうね。」
「ふふっ。」
アリスは静かに笑った。
いつか、静かに吹いた風は、過去と言葉をさらうように、木の葉を散らした。
いつかの過去は、大事に大事に、記憶の引き出しにしまわれている。
―――
星は、苦しみ欠片
苦しみは、幸せの欠片
幸せは、星の欠片
未来は、幸せに満ちていた――
終
コメント
7件
え〜、すっごくエモかったし切なかった!!😭💕✨ 見えない存在として霊夢と魔理沙の幼い頃の悩みに寄り添う主人公、尊すぎるよ…!「隣にいたい」って本音を引き出せたシーン、心臓ぎゅってなった。推しに会えてるのに理性保って役割果たす姿がもうね…報われてほしいよ!💖 ラシーンで現代の二人が当時を懐かしむ会話、じんわり沁みた〜! 続きがあれば絶対読みたいです!!🌸