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🎹×🎤
※OD要素 有
※4516文字
時間あるときに読んで下さい
家に帰る度に目に入る、空になった薬の箱や、ケースたち。
袋からも溢れかえるようなゴミはもうとっくに見慣れてしまった。
暗いリビング座り込む元貴。
君はいつでも素敵で輝いている存在だったじゃないか。
どうして…
仕事帰りの僕に気づいたのか、
顔だけ此方に向けてくる。
🎤「ぁ、、ぉか…ぇり…」
途切れ途切れの言葉で
弱々しい力で、 僕に近付いてくる。
🎤「ぁの、ね…わざとじゃないの、、飲まなきゃ…楽になれない、の…」
しばらく前から この禁断的な行動を辞める方法を考えていた僕等
だけど、今の元貴を見るに、
辞められそうな気配は一切無い
飲んだ後、自暴自棄になりそうな元貴を自分の胸に抱える。
🎤「りょぉ、ちゃ…」
🎹「いいよ、ゆっくりで…」
大丈夫だからね、と彼の小さな頭を優しく撫でていく。
彼も彼なりに色々経験しているからこそ、薬に手を出しているのかもしれないし、僕には計り知れない未知の快感があるのかもしれない。
だからこそ僕は、
強引にも辞めさせることが出来ないのだ。
🎹「今日は、どのくらい飲んじゃったの、?」
🎤「…ん、、」
差し出された小さな箱たち。
眠気を誘う痛み止めや、一般的な風邪薬。
それも一箱ずつ。
🎹「そっか、、」
箱を受け取りゴミ箱に投げ捨てると元貴は小さく身震いした。
ガコンと音を立て、箱がゴミ箱に落ちていく。この光景だけでも100は見た。
リハやレコは元気で休むことの無い元貴だけど、
少し間の空いた休暇になると、
すぐに崩れてしまう。
恋人として、なにかしてあげたいけど…僕には到底不可能のことだった。
🎤「りょ、ちゃ…。」
🎹「ん?どーしたの、」
🎤「僕のこと、嫌いになっちゃう…?」
目に涙を溜め、今にも吐き出してしまいそうな蒼白な顔で見詰められる。
🎹「元貴……」
嫌いじゃないよ。
その一言が簡単に出てこない。
元貴のことが嫌いなわけじゃない。ただ、元気で明るい、でもたまにお疲れモードな元貴が好きだったんだ…。
ほんとに、、いつから……?
🎤「りょぉちゃん…僕、僕っ…」
目を白黒させて、吐き気を訴える元貴。
🎹「ちょっと待ってね…」
慣れた手つきで嘔吐処理用の袋を取り出し、彼の口元に近付ける
🎹「いーよ、楽になって…」
震える手で彼の背中を擦る。
彼が吐き出すまで、時間は掛からなかった。
それから少しして、
元貴も楽になったようで、二人で片付けを始める。
そろそろ創作期間が始まるからか、彼も一区切り付けたいみたい。
二人してゴミ袋に空箱と殻袋を詰めていく。
🎹「これは?まだ入ってるよ?」
🎤「…棄てる」
🎹「こっちは?」
🎤「それも棄てる…」
いつまた薬を欲するか分からない僕にとって、薬を捨てるのは抵抗があったけど、彼の行動に従うしかなかった。
しばらくして、部屋が片付いたあと、二人でソファに座り 温かい飲み物を飲む。
まるで何も無かったかのような綺麗な部屋に何も変わらない僕等。
きっと汚れてしまったであろう元貴の体内に、精神に、、
僕は何が出来るのかな…。
かれこれ3ヶ月続いたこの行為。
終止符を打つのには、
彼の気持ちも大切なはず…。
先に口を開いたのは
元貴だった。
🎤「あのね、涼ちゃん…」
はっきりとした呂律に、
僕自身を捉えた目線。
マグカップの中の紅茶から目を離し、僕も彼を見詰める。
🎤「いっぱいお薬飲んで、ごめんなさい…」
🎤「でも、飲むとすごく楽になれるし、嫌なことも忘れられそうなの…。 」
🎤「それ、でも…僕は、辞めたいんだ…、、これ以上 涼ちゃんに迷惑掛けてらんないし、仕事にも影響したら…僕っ…、、」
今にも泣きそうで崩れてしまいそうな元貴の頬を撫でながら、
僕は静かに頷いた。
🎹「大丈夫、大丈夫だよ。」
🎤「ぇっ…、?」
🎹「元貴が楽に感じるなら僕は強引に辞めさせようとは思わない。でも、元貴が辞めたいって思ってるなら全力でサポートする…」
🎤「涼ちゃん……」
きっと難しいことかもしれないのは承知の上。
でも、それでも、僕は元貴とずっと一緒に居たい。
これが僕の本音だった。
この3ヶ月、まともな会話を広げられなかった僕たちにとって、これは大きな1歩なのかもしれない。
元貴からそっと抱き締められる。
🎤「飲みそうになってたら止めて欲しい、叩いても、引き摺ってもいいから、っ、、」
🎤「僕、、自分のせいで涼ちゃんと離れるのが、怖いんだ…」
もうすでに泣いてしまった元貴。
でも、禁断的な行為に手を出す前と、抱き締めたときの温もりは変わらなかった。
ぱしっ
頬を叩く冷たい音。
引っ張った時に倒れた家具。
🎤「やだっ、やだっ!お薬っ、飲むの!」
暴れる元貴を体を呈して抱え込む。
🎹「だめ、っ、だめだよ元貴っ…」
あの約束から2週間。
元貴の行為は高まるばかり。
🎤「いやっ、来ないで!!」
見えない何かに怯え、聞こえない声に震え上がる元貴は、目も当てられず、手にも負えない状態だった。
連続リリースを終え、
1週間の休暇期間。
あと30分後に、誘ってある若井とゲームをしようと話したばかりじゃないか…
🎤「なんでっ、なんで僕ばっかり!!」
振り解かれた元貴の右腕により
椅子が倒れ、棚から小物がバラバラと落ちていく。
🎹「お願いっ、少し我慢して…」
子供をあやすように優しく撫でても、どれだけ暖かく抱き締めても
元貴の目には何も入らない。
もう、駄目なのかもしれない…
絶望的な感情に陥り、
元貴を抱え込む手が緩んでいく
ピーンポーン
聞き慣れたインターホンが鳴り
ノイズ混じりに若井の声が聞こえてきた。
🎸「入るよー」
合鍵をチラつかせて、鍵を開けている若井の姿がインターホンの画面に映る。
玄関が開き、足跡が近付いてくる
それと同時に僕は限界を向かえた
🎸「やほーって、、ぉわっ!」
扉を開けて入ってきた若井に飛び付き泣き喚く。
🎹「元貴がっ、元貴が壊れちゃうっ、!」
いきなりのことに驚いたのか、
若井よりも元貴が固まっている
🎹「なにも聞いてくんない、これじゃっ…嫌いになりそうで怖いよ…、、」
膝から崩れる僕を横目に、
元貴の震えた声が聞こえる。
🎤「、??、りょ、…ちゃ……わかぃ、、ぼく、、っ…」
🎸「元貴、お前…」
今までのことを予想出来たのか、
僕をソファに座るよう促し、
若井は元貴のところに向かった。
🎤「わ、ゎ、…かい………!」
ばしっ!
🎹「ぇ、」
🎸「…」
🎤「ぇっ…、、」
僕が叩いた時よりも鈍い音を出して、若井が元貴を叩いた。
🎸「なにやってんだよ、」
がしっと元貴の胸ぐらを掴み
今までに見たこと無いくらいの怖い顔で元貴に言った。
🎸「お前っ、こんなことして良いと思ってんのかよっ!」
🎤「ゎ、、か…」
🎸「なんも言わずに溜め込んで、終いには薬かよ…。まじで何したいの?涼ちゃんだって、元貴のために薬買ってたかもしんないけど、辛い思いさせてるって自覚ないのかよ!」
ぐらぐらと元貴を揺さぶる若井。
止めに行こうにも体が動かない。
🎹「そんな強く言わないであげて、、!」
🎸「だめ、ここまで言ってやんなきゃ」
しばらく、痛いくらいの沈黙が
リビングに流れていく。
🎤「ごめっ…ごめんなさっ…、、ぅあ、、こんなことして、ごめんなさいっ…」
静かな部屋に段々元貴の声が聞こえてくる。
🎤「ごめっ、、もうやんないっ…もうやんないから、っ…」
🎤「りょぉちゃ…わかぃっ…ごめんな゙さい゙っ」
ぼろぼろと涙を溢しながら
子供のように大声を上げて泣き出した元貴に対し、若井はそっと微笑んでいた。
🎸「ぅん、そーゆーこと…」
掴んでいた胸を離し、
台所に移動した後、
元貴に水を飲ませてあげていた。
よかった、よかったんだ……
僕は見知らぬうちに垂れてきた涙を拭いながら猛烈な疲れに逆らえず、ソファの上で眠りについた。
……ちゃ…。
りょ…、ちゃん…
りょう、…ん
「涼ちゃん!」
🎹「ぉわ、」
目が覚めると、
元気そうな元貴の笑顔が目の前に。
🎹「…体調は? 」
🎤「ぅん、平気。…ごめんね」
🎹「んーん、大丈夫…ぁれ、若井は、?」
🎸「台所ー、勝手に食材借りたわー!」
🎹「わぁ、ありがとう!」
まるで元に戻ったかのような光景に僕は目を見開いた。
倒れた小物や椅子、植木などが 全て綺麗に片付いている。
おまけに、元貴から
あの薬特有の嫌な匂いがしなくなっている…
🎹「ぁれ、、元貴…」
🎸「ぁー、簡単に薬抜いといたわ。結構鬼畜なことしちゃったけど、元気そうだし?」
完成した料理を運びながら
色々事情を説明してくれる若井。
僕が寝たあと、
お風呂場で簡易的な胃洗浄をし、
元貴をめちゃくちゃ叱ったらしい
『2度とするな』
『したら絶交。バンドも辞める』
🎹「えぇ…そんなに…」
🎸「そうでもしなきゃ、完璧に元貴と向き合えない。」
🎤「…」
悲しそうに俯く元貴を撫でてあげると、少しだけ頬が緩んでいるのが分かる。
🎸「さ、ご飯食べよ!これからの話は…そのあと。俺しばらく泊まるわ。」
🎹「ぁ、うんっ、ありがと…!ほら、おいで元貴」
未だ俯いたままの元貴に手を差し伸べると泣きながら握り返してくれた。
🎹「ちょ、元貴…?!」
🎤「優しくしてくれてありがとう…もぉ、嫌われたかと思った…」
またもや泣き出す元貴を見て
若井が一言。
🎸「……そぉやって、いつでも慰め合えるのが二人の良いところでしょ?笑」
冷める前に食べよ!と雰囲気ごと明るくしてくれる若井に連れられ、僕も自然と微笑んでいる。
🎹「ぁ、元貴、」
振り向き、元貴と視線を合わせる
🎹「僕、ずっと元貴の傍に居るから。だから元気に過ごして?それだけで僕十分だからさ。」
たぶん、この声と気持ちは
元貴にちゃんと伝わってる。
小さく頷いた元貴をもう一撫で。
嬉しそうに微笑む元貴と、
それを見守ってくれる若井、
その二人と一緒に、僕たちは久しぶりに机を囲んだ。
それから1年。
僕たちは平和に暮らせている。
定期的に若井は遊びに来てくれるし、元貴も元の明るさを取り戻している。
それ以上に僕も頑張って
もっともっと元貴の隣に居られるよう支えていく毎日。
🎤「涼ちゃん!仕事遅れるよ~」
🎹「、、おゎゎっ遅刻?! 」
元貴に起こされるような日が
あるくらい僕は今幸せ。
ちゃんと目の前にある大切なものを手放さないように、
しっかり握っておかないとね。