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あれから数日が経った。
あの後に何かあると言うわけでもなく、俺たちは至って変わらない日常をすごしていた。俺はいつも通り学級委員として仕事をする。鈴助は周りの友達とふざけあって笑っている。そこに決定的な繋がりはなく、暇な日にたまに一緒に帰る。そんな、平凡でしかない日常…になったと思っていた。いやでも、これは本当に些細なことで、俺の平凡な日常の基準が高いだけなのかもしれない。この日常には最近新しい習慣ができつつある。先程、鈴助と暇な日にたまに一緒に帰ると言ったが、その帰る途中がどうもおかしい。最近明らかに鈴助のスキンシップが増えた。よく抱きついてくることはあったが、最近はその頻度が増えている。俺は恋愛に対しては本当に疎いと思う。恋愛講座の本を高校に入ってからはよく見るようになったが、それでも恋愛というのは難しい。鈴助の行動もよく分からないし、犬飼さんにどのようにアピールすればいいかも最近では鈴助に気を取られて考えられていない。俺は一体、鈴助に対してどのように接したら良いのだろうか?
「綾っ!」
「っお、っと。すまん、少し考え事してた。」
「綾、最近多いよそういう事。ちゃんとストレス発散できてる?勉強勉強って、…また親になんか言われたの?」
「……その話は出すなって言ってるだろ。オレの努力不足なだけなんだ。俺がもう少し頑張ればいいだけなんだよ、だからお前は気にすんな。」
俺の親というのは正直に言ってしまえば世間一般で言う毒親というやつだ。幼少期の頃から強制的に勉強をさせられたし、暴力だって日常的に行われていた。俺の父親は酒癖が悪くよく母と喧嘩をしていた。そのせいでヒステリックを起こした母は、ストレス発散の為か夜を出歩き彼氏を作るようになった。時には俺がそのはけ口になることだってあった。そのせいか、俺の恋愛対象から女性は自然と外されて行った。それでも勉強だけはどんな状況でもさせられた。親は俺が成人した時に養ってもらう気満々なのだろう。出来れば逃げ出したいが、それは何年か前に試した。そのせいで俺の大切な人を傷つける結果となった。俺に”大切な人”ができた瞬間からこの人だけは失いたくないと思った。その人は優しいから、そいつは俺のことをよく知っているから。だからこそ、もう”お前”には何も言わないんだよ。
「…綾、このあと暇?今日は俺の家で遊んでいきなよ!」
「何言ってんだ…、俺は勉強で忙し…」
「いーや?勉強する上でリフレッシュはすごく重要なんだよ。だから、ほらっ、早く!」
「え…?でも、ってうわっ!」
「ほらほら早く〜」
鈴助は俺の手を取り走る。多少歩幅を調節しているのか、俺が転ぶほどの速さではない。なんだか鈴助に気を遣わせているようで申し訳なかったが、その気遣いが少し嬉しかった_
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鈴助の家には誰もいなかった。鈴助には親がいない。鈴助は記憶も残らないくらい幼い頃に里親に出されている。当時夫を亡くした叔母さんが鈴助を引き取ったのだと言う。現在叔母さんは翻訳者として海外を飛び回っている。夫を無くして憔悴していた叔母さんも、鈴助を引き取ってから活気を取り戻し、度々海外へ行っては働いている。普段叔母さんを見ることは滅多にないが、鈴助との仲はとても良く、俺も良くしてもらっている。母親というのはこういうものなのかと、初めて心を許した女性だ。
「ほら、上がって!いやぁ〜、こうやって俺の家で遊ぶってのも久しぶりだなぁ〜」
「確かにな…。んで、遊ぶって何するんだ?」
「ん〜、まずはね…服脱いで?」
「……?、 は……? 」
一瞬鈴助の言っている意味が理解できなかった。何をどうしてそんなことを言ったのか。ナニをする気でいるのか。俺はソレを想像して、一気に顔が熱くなっていった。恥ずかしさのあまり上手く言葉が出ず、出した声は言葉の羅列と成らずに小さく消えていった。
「なぁんでそんな顔を真っ赤にするかね?小さい頃は良くしてたじゃん?」
してる?な、なんでソンナことをするんだ。ましてや小さい頃なんて、し、知らないはずだそんなこと…!
「ほぉら早く、その”長袖”脱いで、」
「あっ、ちょ。あ」
鈴助の手は早く、まず袖をばっと捲られた。そこからは赤黒い痣がいくつも姿を現した。その中には傷跡が幾つか存在する。俺はそれらから目を逸らした。捲られた袖を戻そうと手を伸ばした時には胸元のボタンに手をかけられていた。
「ちょ、待て、無言でボタンを外していくな!」
「正直、新学期の始まりから今まで綾が半袖だったことってないんだよね。長袖って時点でだいたい予想はしてたんだけど…。最近の綾は、俺から離れるようになったから、小さい頃みたいにこうやって手当てが出来なかった。でもね、もう見てられないよ。」
服を脱いでというのは手当てをしたかったから…か。なんだか心のどこかで”期待”をしていた自分が馬鹿みたいだ…。……期待?いや、これはおかしいな、期待なんてする意味が無い、意味がわからない。きっとさっきの鈴助の言葉に動揺していたんだろう。小さい頃はよく鈴助に手当てをしてもらっていた。傷付いた俺を見た鈴助は、すぐに家から救急箱を持ってきてよく公園で傷の手当てをしてくれたものだ。でも、今はもう、ダメなんだ。もう鈴助にこんな姿を見せるつもりなんて無かった。そもそもこの家に来ることすらもないと思っていた。そうだ。”あの出来事”から、もう鈴助には深く関わらないと決めていたはずなんだ…が、やっぱり、お前には敵わないよ、鈴助。
「綾、傷をあんまり手当してないよね?これじゃ、傷跡が残っちゃうよ。」
「…別にいい。俺の肌を見るやつなんて多分この世に一人もいない。俺にはきっと、生涯を共に添い遂げる人なんて一生できないんだからな…。」
それを聞いた鈴助の顔は少し困ったような悲しい顔をしていた。お前がそんな顔をしているところなんて見た事ないよ。鈴助の手当てはとても優しい。前に学校の保健室で鈴助の手当てをしていた俺の手より余程優しいのがよく分かった。
「ごめんな、手当てなんてしてもらって。」
「俺が勝手にやり始めたことなんだから謝らなくて良いよ。…やっぱり、俺は綾から離れられないよ… 」
そんな弱々しい言葉が耳に入ってくると同時に肌に暖かいものが触れた。気づけば鈴助が抱きついてきていた。普段の鈴助からは想像もできないほど弱った顔だ。その顔を向けられて、なんだか少し嬉しかった。きっと、こんな感情は鈴助に向けていいものじゃない。そうだ、今まで気付かないふりをしていたんだ。だから鈴助から離れたんだ。そうしたら鈴助の方から近づいてきやがって。オレの努力を無駄にしやがってこのやろう。おまえの、鈴助の優しさに触れてしまったら、期待してしまうだろう?この先がハッピーエンドになるはずなんてないのに。それはとっくの昔に分かっていたことだ。
「鈴助…もう少しだけこのままでいいか…?」
鈴助は何も言わずに俺を優しく抱きとめ続けてくれた。
今だけは、少しの間だけでいいから、この姿を許してくれはしないだろうか?もしこの世界にカミサマがいるなら、少しの間だけこの関係を_
to be continued_