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目覚ましが鳴るより前に、俺は目を覚ました。
「……」
天井を見上げたまま、体がしばらく動かない。
眠い、というより「起き上がる」という言葉がやけに遠く感じた。
布団の中で一つ深呼吸をする。
「……よし…大丈夫……」
大丈夫、声に出せば良くなるような気がして、俺は勢いで体を起こした。
顔を洗って、歯を磨いて、制服に袖を通す。
鏡に映る自分はいつも通りで、少しホッとする。
ーー大丈夫。
ーー俺は元気だ。
ーー笑顔でやれてる。
俺は少し胸につっかえができるのを感じながらも、若干重い足を動かした。
リビングには香ばしい匂いが充満していて、少し心が軽くなるような気がした。
すると、そこに柔らかい声が響く。
「おはよ〜」
俺は笑顔を作って答えた。
「おはよ、ご飯ありがとね。」
「全然!料理だけは得意だからね〜」
彼は誇らしげに言った。
その柔らかくて優しい笑顔が、俺の心のなかにスッと溶け込むように落ちていった。
「早く食べよー!」
「…うん。」
いつもの光景。いつもの朝。
テーブルの上には少し焦げたトーストと、湯気の立つスープ。
椅子に座ると、Broooockが向かいから俺をじっと見る。
「……?」
「なんか今日、やけに静かだね?」
「え、そう?」
自分では全然わからなかった。
でも、言われてみれば喋るのに少し力がいる気がする。
「まあ、眠いだけでしょ。」
「…そっか、無理しないでね。」
その一言がやけに胸に引っかかった。
無理、してないはずなのに。
パンをかじって味を確かめた。
うん、確かに美味しい。
でも、頭がじわっと重い。
朝食を終え、Broooockも準備をして学校へ向かう。
大丈夫。俺はいつも通り。
何も変わらない道。
隣にはいつもみたいに彼がいる。
でも、今日は少し距離が近いような気がする。
「……なんか近くない?」
「え〜?そうかな?いつも通りじゃない?」
そう言いながら肩を寄せる彼。
少し笑おうと思った。
ただ微笑むだけなのに、俺の口からはびっくりするほど浅い笑いが漏れた。
「はは…、そっか…」
……あれ…おかしいなぁ…?
俺はもう一度唱えた。
大丈夫。俺はまだ頑張れる。
何度も何度も唱えているうちに、気づけば学校に着いていた。
「おはよう、Nakamu、Broooock。」
教室へ入ると、後ろから俺たちの名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り向くとそこには俺の親友、きんときがいた。
「あ、おはよう!」
「おはよ〜」
誰にでもわけ隔てなく接してくれる優しい人。
「…きんとき、ちょっといい?」
「え?俺?」
「うん。」
「…?」
Broooockは少し手招きをして、きんときを呼び込んだ。
きんときはすぐに深刻な表情になって、何を話しているのか全く見当もつかない。
俺は自分の席に座り、少し顔を伏せた。
何もない密閉空間。
このまま目を閉じれば、全てを忘れられるような気がしてーー
『Nakamu、おはよ!』
ふと声をかけられて顔を上げると、目の前には仲の良いクラスの友達がたむろしていた。
「あぁ、おはよう!」
『Nakamuくん、大丈夫ー?』
『朝から元気ないなんて珍しくないか?』
「いやいや、俺は元気だし!ちょっと眠くて…w」
『ちゃんと寝ないと身長伸びねぇぞw』
「うっさいなぁ!w関係ないし!w」
ちゃんと笑えてるし、喋るのだって楽しい。
多分、寝不足なんだろう。
確かに、昨日は寝るのが遅かったし、授業を受ければきっと目も覚める。
『それでさー、相談なんだけど…』
『え、私も!』
『俺が先ー!』
「え、あはは…w一度には無理だよーw」
うん。いつも通り。
楽しい。大丈夫。
いつも通りが一番大切なことだからーー
授業中。
ノートに書き写す鉛筆の音と先生の声だけが響く。
でも、なぜかいつもと違うような気がした。
みんなは普通に問題を解いているのに、俺はなにも手につかなかった。
黒板の文字は写せるし、文章は読める。
でも、いくら先生の声を聞いても、文章を読んでも意味が通らない。
何を言っているのかわからなくて、俺だけ取り残されているような気がした。
不安が募る。
みんなは分かっているのに、俺だけ分からない。
覚えたはずの公式が思い出せない。
俺がおかしいんだ。
俺がーー
目元が熱い。
視界が歪む。
俺は少し俯いて、顔を隠すようにして問題を解くふりをする。
なんで。
こんなところで泣いている場合じゃない。
やらなきゃ。
置いていかれる。
頭の奥がズキッと痛む。
耐えられないほどではないけれど、違和感が残る。
俺は涙が出ないように何度も瞬きをした。
やらなきゃ。頑張らなきゃ。
何度瞬きをしても、何度拭っても止まらない。
隣にいるBroooockに見られるのだけは嫌で、必死に抑えた。
今ではそんな彼も俺を置いていっているような気がしてーー
『ーーさん?ーーん?』
やらなきゃ。頑張らなきゃ。
弱音なんて吐いてられない。
やらなきゃ何も進まない。
「ーー?ーーー!」
やらなきゃ置いていかれるから。
駄目なのは誰でもない俺自身なのだからーー
「Nakamu!」
「っえ…?」
「Nakamu!ほら、先生に当てられてるよ?」
「あ…すみません…」
『…しっかり授業に集中するように。』
「はい…ごめんなさい…」
体が熱い。
惨めな姿を見られた羞恥からだろうか。
ズキッーー
「っ…」
…何やってんだろ。
こんな変なこと考えてる場合じゃない。
早く解かないと…
ようやく終わった。
重い体をなんとか持ち上げて、廊下を進む。
ズキッーー
相変わらず、気持ち悪い頭痛は治ってくれない。
ーー今日は一人で帰ろう。
今はどうしても、Broooockには会いたくない。
早く帰って勉強しないと。
まずは今日の復習と…次のテストの勉強と…
その瞬間ーー
「ぅわっ…!?」
誰かに腕を引っ張られ、そのまま後ろから抱きかかえられるような形になる。
視界に映る腕と、匂いだけでわかる。
「ちょっと、そこ行き止まりだけど?」
ーーBroooockだ。
「…え…?」
気づけば、俺の目の前には壁があって目指していた方向とは全く違う場所にいた。
考え事をしていたからだろうか。
「…ほんとだ…道間違えちゃったかな…w」
「こんなことある…?wもう2年以上ここ通ってるのに…w」
「帰ったら何しようか考えててーー」
言い訳を必死に考えていた途中で、彼は口を挟んだ。
「へー、そっかぁ?」
「お家に帰るのそんなに楽しみ?」
「え、あ…いや…まぁ…」
なんだ…?
俺、そんなまずいこと言ったか…?
「ふーん、そっかそっかぁ…」
ずっとニヤニヤしている彼は少し気味が悪い。
「…なに…?」
彼は耳元で甘く優しい声で言った。
「じゃあ、帰ったらいっぱいぎゅーしてあげよっか?」
「…!?」
不意打ちを食らって嫌に心臓がうるさい。
そんなことしている暇なんかーー
「疲れた体、いっぱい癒してあげる。」
「……っ…」
ダメだ。
疲れてちゃダメなのに。
「別に疲れてないよ。」
「あと、学校でからかうのはやめて…」
「はいはい、こういうときはツンデレなんだもんねー?」
「Nakamuは。」
本当に、Broooockといると調子が狂う。
こんな大事な時に…
Broooockみたいに気楽に生きていければ
少しは楽になるのかなーーー