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夜の帳が下りた、日本のとある静かな街。豪邸の自室で、一人の少女が息を潜めていた。名は 白石 瞳(しらいし ひとみ)。大きな瞳を細め、まるで遠くの景色を覗き込むかのように、彼女は虚空の一点を見つめていた。
彼女の右目は、常人には見えない未来を映し出す。それは、鮮明で、時に残酷な映像だった。今、瞳に映るのは、見慣れたはずの平和な街並みが、紅蓮の炎に包まれる光景。そして、その炎の中心には、妖しい光を放つ隻眼の男が立っていた。男の周囲には、人々が操られたように無表情で彷徨い、やがて力なく倒れていく。
瞳は、その男の名を知っていた。魅了の男。彼の左目は、視界に入った者を意のままに操るという恐ろしい力を持つ。これまでにも、彼の能力によると思われる不可解な事件がいくつか報告されていたが、その全貌は闇に包まれていた。
(また、この未来……!)
瞳は、何度も同じような光景を見ていた。魅了の男が力を増幅させ、より多くの人々を破滅へと導く未来。この悪夢のような未来は、刻一刻と現実味を帯びて迫ってきている。
「このままじゃ、たくさんの人が……」
震える声で呟き、瞳はベッドから跳ね起きた。富豪の娘として何不自由なく育ってきた彼女だが、その瞳に宿る未来視の力は、彼女に重すぎる使命を背負わせていた。
(私が、止めなければ……!)
そう決意した瞳の脳裏に、以前、未来視で垣間見た、奇妙な力を持つ人々の姿が蘇った。一人目は、常に所在なさげに街を歩き、時折、何かを探るように目を凝らしている男。彼の右目は、千里眼の力を持つという。名は確か……。
「確か、霧島 怜(きりしま れい)……だったか」
そしてもう一人。古びた洋館にひっそりと住む、異質な雰囲気を纏う男。文献の中で見つけた『石化の騎士』の伝説と、彼の持つ隻眼の力は酷似していた。
(あの人も……きっと、私と同じ力を持つ人間だ)
しかし、彼らが協力してくれるかは分からない。特に、千里眼の男は、未来視で見る限り、どうにも頼りない印象だった。
「それでも、頼るしかない!」
瞳は、自らの運命を切り開くため、重い腰を上げた。未来を変えるための、孤独な戦いが始まろうとしていた。彼女の細められた瞳の奥には、強い決意の光が宿っていた。