朝。
キッチンでカップを洗ってた志摩がふと視線をやると、リビングのソファで久住がぐっすり眠ってる。
例によって丸まりスタイルで、ブランケットから片手だけがはみ出してた。
その顔には……うっすら、ヨダレ。
「……あーあ。垂れてんじゃん」
志摩が呆れたように言う。
「ん?」
伊吹が顔を出して、久住の寝顔を覗き込む。
「あー……ほんとだ。べったべた」
「おまえ拭いてこいよ。放っとくとクッションにしみる」
「いや、拭いてこいって。俺、何係だよ」
「保護者係」
「はいはい……」
伊吹は渋々しゃがみ込み、指先で久住の頬をそっとぬぐう。
その瞬間――
「……ん、……おはよ……」
ぼんやりと、久住が目を開けた。
眠たげな目。焦点が合ってない。まぶたは半分落ちてて、言葉もトロンとしている。
「おはよって、おまえ……ヨダレまみれで挨拶すんなよ」
伊吹が小声で笑う。
久住はそのまま、ぺたんとソファに沈みながら、目をこすった。
「……なにしてんの、伊吹……また、なんかいじわるしに来たん……?」
「違ぇよ。ヨダレ垂れてたから拭いてやっただけだっつの」
「やめろや……触んな……」
と言いつつ、久住の声はふにゃふにゃ。
文句だけは一丁前だけど、全然力が入ってない。まだ半分夢の中だ。
伊吹はタオルを軽く投げてやる。
「口まわり拭いとけ、寝ヨダレキング」
「だれがキングやねん……」
そう言いながらも、久住は顔を隠すようにタオルをかぶって、もう一度くるんと丸くなる。
志摩がコーヒーを注ぎながらぼそっと。
「……あれで反省の顔らしいぞ」
「もう一回寝る気満々の顔だろ、あれ」
「それもいつものこと」
「……ふつうの朝になってんな」
伊吹が、くすっと笑う。
久住の寝息が、タオルの奥からまた聞こえてきた。
⸻
たぶん、もうすこしだけ寝たら、また文句たらたらで起きてくる。
でもその前にもうちょっと、この“ふつう”を、見ておいてもいい気がした。
コメント
7件
久住があなたの精神安定剤になる▶私の精神安定剤になる 永久機関
ありがとう。わたしはかつてない無償の愛をいただきました