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琥珀色の風に
十七歳の夏、僕とハルは、地元の古い跨線橋の上で笑い合っていた。
空が暗くなり、線路がオレンジ色に焼けるのを眺めながら、「来世もまた、ここで会おうぜ」なんて、冗談めかして話していたんだ。今日自分たちが死ぬとは思いもせずに。
その直後、足場の崩落というあまりにあっけない事故が、僕たちの未来を奪い去る。
視界が黒く染まる中、最後に聞こえたのは、ハルの「忘れるなよ」という震える声だった。
琥珀色の風が僕たちを包み込んだ。
次に目が覚めたとき、僕は赤ん坊になっていた。
新しい名前は「湊(みなと)」。言葉を覚え、歩き始めるにつれ、頭の中に「湊」ではない誰かの記憶が鮮明に浮かび上がるようになった。
前の人生の名前、好きだったサイダーの味、そして、共に死んだ親友・ハルのこと。
僕は確信していた。僕に記憶があるのなら、ハルもどこかで、前世を抱えたまま生きているはずだと。
高校生になった僕は、わずかな手がかりを頼りにハルを探し始めた。
ハルが好きだったマイナーなバンドのライブ会場、前の人生で住んでいた町の跡地、あるいはSNSで「前世の記憶」を匂わせる投稿……。
しかし、現実は甘くない。似たような境遇の人は見つからず、月日だけが虚しく過ぎていく。
「もしかして、記憶を持っているのは僕だけなんじゃないか?」
諦めと孤独が、少しずつ僕の心を蝕む。
二十歳になった春。僕は導かれるように、かつて僕たちが最期を迎えた場所——今は綺麗に整備された展望公園へと向かった。
夕暮れ時琥珀色の風が吹く頃。ベンチに座り、沈みゆく夕日を眺めている一人の同じ歳くらいの青年がいた。
その背中を見た瞬間、心臓が跳ねた。理屈じゃない。魂が、彼を知っていると叫んでいた。
僕は震える声で、彼に近づき、あの日交わした「秘密の合言葉」を口にした。
「……なぁ、知ってるか? 琥珀色の風が吹く日は、何かが起こるんだぜ」
青年がゆっくりとこちらを振り返った。その瞳には、みるみるうちに涙が溜まっていく。
「……ああ。そう言って、お前はいつもサイダーの栓を抜くんだよな。湊……いや、シュン」
それは、ハルにしか教えたことのない僕の癖だった。
「探したんだぞ、ずっと」
「俺だって、お前がいつかここに来るって信じてた」
名前も、顔も、声も、前とは違う。
けれど、夕闇の中で笑い合う二人の魂は、あの日の跨線橋の上と、何ひとつ変わっていなかった。
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