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放課後の体育館は、相変わらず騒がしい。 ボールの音と、誰かの声と、床を擦るシューズの音。 その全部が混ざった空気が、なんとなく好きだった。
扉の近くで立ち止まっていると、
「お、来たな」
振り返ったのは、高校に入学してすぐ絡んできた黒尾鉄朗だった。 軽く手を上げながら、すぐにまたコートの方へ視線を戻す。
「今日も見学?暇人だな〜」
そう言いながらも、少しだけ口元が笑っている。 適当に返事をして中に入ると、 体育館の端にいつもの姿があった。
孤爪研磨。 床に座って、ゲーム機をいじっている。 近づくと、ちらっとだけ顔を上げて、
「……来た」
それだけ言って、隣の床をぽん、と軽く叩いた。
ここ、ってことか
無言の合図に従って隣に座ると、
またすぐに視線は画面へ戻っていく。
「それ、何のゲーム?」
覗き込むと、少しだけ画面をこちらに傾けてくれた。
「RPG。今ボス戦」
「へぇ、強い?」
「まあまあ」
淡々としているけど、ほんの少しだけ声が柔らかい。 そのまま横で見ていると、
「おーい研磨!サボってねぇでアップくらい来い!」
コートの方から黒尾の声が飛んできた。
「……今無理」
「いや無理じゃねぇだろ!?」
やり取りに、思わず笑う。 すると黒尾がこっちを見て、
「お前も笑ってねぇで連れてこいよ」
「え、無理じゃない?」
「裏切ったな!?」
大げさに肩を落とす黒尾と、 何事もないようにゲームを続ける研磨。 その間にいるこの感じが、なんとなく心地よかった。
____
しばらくして練習が終わる。
「っはー、疲れた…」
タオルで汗を拭きながら、黒尾が近づいてきた。
「で、今日も最後までいたな」
「悪い?」
「別に?むしろ来なかったら違和感あるわ」
何気ない一言なのに、少しだけ引っかかる。
横で研磨が立ち上がりながら、
「……来ないと変」
ぽつりと同じようなことを言った。
「ほらな?」
黒尾がニヤッと笑う。
「もう部員でよくね?」
「それは違うでしょ」
「じゃあマネージャー」
「急に勧誘しないで」
そんなやり取りをしながら、3人で体育館を出る。
____
帰り道、少し寄り道してコンビニへ。 外に出たときには、もう空が少し暗くなっていた。
「それ何買った?」
黒尾が袋を覗き込んでくる。
「アイス」
「いいじゃん、一口くれ」
「まだ開けてないんだけど」
「今開ければいいじゃん」
そう言うが早いか、勝手に開けられた。
「ちょ、待って」
「うま」
「早い」
呆れていると、横から小さな声。
「……一口ならいいよ」
見ると、研磨が自分のアイスを少しだけ差し出していた。
「え、いいの?」
「ん」
黒尾が「俺には?」と手を出すと、
「やだ」
即答だった。
「差別だろ!?」
「当然」
そのやり取りが可笑しくて、また笑ってしまう。
____
帰り道は、いつもと同じはずなのに、 なんとなく今日の方が少しだけ楽しい気がした。
「……この時間、好きだな」
ぽつりと零すと、 黒尾が一瞬だけ黙ってから
「……俺も」
珍しく、少しだけ静かな声で言った。 隣で研磨も
「……うん」
短く、でもはっきり頷いた。
その返事が、なんだかやけに嬉しくて。 何も特別なことなんてないのに、 この時間が続けばいいと思った。
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