テラーノベル
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ギルベルトは暫く黙った後、優しく微笑みながら口を開いた。
「芣婭、俺の身を案じてくれるのは嬉しいが…。あまりその事は口にしない方が良い」
「え?どう言う意味??おこ??」
「おこ?」
「あ、怒ってる?って意味」
「怒っていない、ただ世の中には良からぬ事を考えている奴等がいる。そんな輩に芣婭が狙われたりしたら、たまったもんじゃない。それに、俺は芣婭の体を傷付けてまで呪いを解こうとは思わない」
そう言って、ギルベルトは甘野芣婭の手を優しく握る。
甘野芣婭を迎えに行く数分前、オルタニアとした会話の事をギルベルトは思い出していた。
***
ギルベルト・カーディアック(20歳)
サバサに身支度の手伝いをしてもらっていると、父上が部屋着のまま部屋に入って来た。
「仲が良くなったそうだな、ギルベルト。彼女に、お前の呪いの事を話しておけよ。いずれ、彼女にも…」
「父上、あの子を利用しようとお考えではないでしょうね」
「利用ではない、協力してもらいたいだけだ。彼女と仲良くなる分には口出しはしないさ、寧ろ良い事だからな」
芣婭とのデートを純粋に楽しみたいだけなのに、父上は芣婭に何かさせたいらしい。
彼女に特別な力でもあると言うのか?
「それと、コンラットとヒューズも連れて行きなさい」
「何故?2人を?」
父上の突然の申し出に、違和感を感じる。
中部街の領地は我々、カーディアック家が管理しており治安も良い方だ。
27年前、当時の皇帝がルナ帝国の都市を分けると言い出してから、上部街・中部街・下部街と言う名前で3つに分けられた。
中部街は上部街よりも少しだけ街が小さいだけで、人口も多くと街も広い。
西側を俺達カーディアック家、東側をイーヴェル家が領地とし、2つの公爵家で中部街をまとめていた。
主に黒騎士団の団員や奴隷から解放した獣人族達と手分けして、2時間おきにパトロールをさせている。
街の治安管理は俺、金の管理は父上と役割部担をしていたのだが。
俺の目が届く中部街を選んだのだが、父上には何か考えがあるようだ。
「シュベルトから連絡鳥が届いてな、芣婭さんが何者かに狙われているらしい。」
「芣婭に怪我は?」
「本人に接触する前に、ケルベロスが処理したようだが。聖魔法で生成した鳥達を使い、芣婭さんの事を監視しているようにも見えたそうだ。現皇帝ガルシアが芣婭さんの事を嗅ぎつけたとは思わんが、警戒しておく分には良いだろう」
現皇帝ガルシア・A・オルティスの代になってから、色々と厄介な事が増えた事は言うまでもない。
奴隷制度の強化に人種差別、貧困民への差別も日に日に増して来ているからだ。
俺達で助けられる範囲でしか助けれなくなって来てるのも、認めたくない事実だ。
「芣婭の安全が第一ですから、護衛として2人を連れて行きます。これで失礼します」
父上との会話を手短に済ませ、部屋を出るとコンラットとヒューズの2人が待機していた。
「ギルベルト様、党首様からの御命令で我々も同行させて頂きます」
「せっかくのデートなのに、申し訳ないっすね。芣婭ちゃんを狙ってるって、どう言う事なんですかねー」
「おい、ヒューズ。その話し方は直せと言っているだろ、ギルベルト様の前でやめろ」
「わっ!?分かりましたから、拳を下ろして下さいって!!!」
お調子者のヒューズだが、団長の座にいるコンラットには逆らえないらしい。
「自分の身は自分で守れる。お前等は芣婭の身の安全を優先して行動しろ」
「「承知しました、ギルベルト様」」
2人の返事を聞き、俺達は芣婭がいるローベルク家に
向かって馬車を走らせたのだった。
ローベルク家に到着し、現れた芣婭を見て衝撃が走っ
た。
マダムロザリアのドレスを聞いている女は山程居たし、見て来た筈だ。
貴族の婦人の中で人気なマダムロザリアのドレスは、パーティーでも茶会でも街中でも目についていた。
見ていても何も思わなかったのに、芣婭が着るだけで、こんなにも綺麗に見えるのか?
見た事がないデザインだ、芣婭の為に作ったのだろう。
大人しいベージュだが、芣婭の上品さと可憐さを引き立てている。
気の利いた褒め言葉を考えて来た筈なのに、芣婭の事を見たら飛んでしまった。
馬車に芣婭を乗せ、俺達は中部街の広間に向かった。
***
甘野芣婭(17歳)
ギルベルト君はおこではないけど…、芣婭の事を心配して言ってくれたんだよね。
「芣婭、見てみろ」
「
ん?わ!?お祭りみたい!!!」
馬車に備えられた窓から街並みを見てみると、夏祭りの屋台らしき出店がズラッと並んでいた。
この景色、異世界ものの漫画やアニメで見た事あるんですけども!!!
「ここは中部街の中でも屋台がメインの広場なんだ。 他にも服屋や喫茶店、ケーキ屋なんかもある」
「凄いね!!!興奮しちゃう!!!」
「ふ、ここからは歩いて行こう。他にもにも屋台が出ているからな」
ギルベルト君がそう言うと、馬車が止まりドアが開かれる。
「どうぞ、俺の手に掴まって下さい」
「あ、コンラット。へへ、ありがとう」
コンラットの差し出された手を掴み、馬車を降りると人々の楽しげな声が聞こえてきた。
獣人や狼人、色んな種族の人達が楽しそうに屋台で食べ物を買いながら歩いている。
あれ?ケロちゃんとベロちゃんの姿が見当たらないな…。
「ケロちゃんとベロちゃんは?」
「あー、あの2人なら…、空から芣婭ちゃん達の事を見るって言って、飛んで行ったよ。今日も可愛い芣婭ちゃんに」
芣婭の問い掛けに答えたヒューズが、手に持っていたハート型の綿菓子を渡して来た。
綿菓子に小さな白いハートが散りばめられていて、砂
糖の甘い匂いが鼻を通る。
「めっかわ!!!ありがとう、ヒューズ!!!」
「へへ、喜んで貰えて良かったよ。俺達はパトロール
に行きま〜す」
「あ、お仕事だったんだ2人共」
「俺達の事は気にしないで、思いっきり楽しんで来て」
そう言って、コンラットとヒューズは人混みの中に消えて行った。
「芣婭、手を。離れないように、手を繋いでおこう」
「うん!!!」
ギルベルト君の差し出された手を掴み、芣婭達は屋台を見て回る事にしたのだった。
少し冷たいゴツゴツした大きな手、男の人なんだなって実感する。
こんなカッコイイ人が、芣婭とデートしてくれてるんだ…。
歩いている女の子達は、ギルベルト君の事を見て目がハートになってるし…。
綿菓子を食べながら隣を歩くギルベルト君を見つめていると、ふと顔を覗き込まれた。
「へ!?な、何?」
「口元に綿菓子が付いてる。取るから、動くなよ」
「え!?う、うん」
ギルベルト君が優しく口の端についた綿菓子を取ってくれる。
「赤ちゃんみたいで可愛いな、芣婭」
「えぇ…?芣婭は赤ちゃんじゃないよー」
「ふ、そうだな。赤ちゃんだったら、こうやって手の甲に口付け出来ないな」
チュッ。
そう言って、ギルベルト君は手を握った状態のまま手の甲に唇を落とした。
え、えええええええええ!!!?
い、今、何されたの芣婭!!!?
刺激が強すぎるんですけど!!!?
「すまない、周りの男が芣婭の事を見ていたんだ」
「へい?」
「牽制でもしておかないと駄目だろ?」
「けんせー?」
宇宙猫状態になっている芣婭の肩を優しく抱くと、ギルベルト君は得意げな表情を浮かべた。
「芣婭は何も気にしなくて良い。俺が守れば良い話だからな」
「守ってくれるんだ、嬉しい!!!」
「安心して、俺の隣に居れば良いさ。何か食べるか?」
「うん!!芣婭、お肉食べたい」
「なら、俺の知り合いがやっている屋台がある。そこに行こう」
ギルベルト君はそう言って、賑やかな広場から逸れた所に立っている屋台の前で足を止めると、強面のおじ
が笑顔で芣婭達を出迎える。
焼き鳥に似た焼き物がズラーッと並んでいて、焦し醤
油の良い香りが食欲を唆る。
お肉が大きいし、ビジュがうま確じゃん!!!
⭐︎うま確とは、美味すぎ確定と言う意味であり、めちゃくちゃ美味そうとかにも使う⭐︎
「ギルベルトの旦那、いらっしゃいませ」
「調子はどうだ」
「ぼちぼちですかね、この顔なんで怖がられてしまって…」
「お前は腕が良い、おすすめを2本焼いてれ」
「分かりましたって、隣にいるべっぴんさんは…」
強面のおじが芣婭の顔を見て、めちゃくちゃ驚いてる。
それにべっぴんさんて、初めて聞いた。
「ギルベルトの旦那がエリア以外の女の子を連れている所を、初めて見ましたよ!!!」
「エリア?」
強面のおじの言葉を聞いて、芣婭か思わず反応してしまった。
ちょっと待って、エリアって誰?
そりゃあ、ギルベルト君はモテるから、女の子を連れて歩く時はあるさ。
芣婭はギルベルト君本人から、女の子にエスコートしたりしないって聞いてたから…。
なんか、こっちに来る前にも似たような事があったな…。
「芣婭、好きピさ?さっき、他の女と2人で帰ってたよ」
菜穂がたまたま現場を目撃し、後を付けたら2人はラブホの中に入って行ったって。
スマホ画面に映っていた写真が、言葉がなくても真実を物語っていた。
芣婭には他の女の子とは遊ばない、浮気はしないって言っていたのに。
ギルベルト君も、芣婭の元カレ達と変わらないのかも。
「エリアは遠征部隊に加わっているから、しばらくはここには来ない」
「あー、成る程。焼き始めますから、隣のベンチに座って待ってて下さい」
「芣婭、ベンチに座ろう」
強面のおじとの会話を済ませたギルベルト君は、芣婭の手を引きベンチに誘導し座らせる。
「どうした?元気がないように見えるが」
「さっき、おじが言ってたのはガチ?」
「ガチ?」
「本当って意味」
ギルベルト君は少し考えた後、ハッとした表情を浮かべながら芣婭の方に顔を向けた。
「エリアは俺の獣人部隊の1人でな、たまに2人でパトロールをしていた。元々は奴隷として売られていた所を、父上が買収してカーディアック家に連れて帰って来たんだ」
「奴隷って、あの奴隷?」
芣婭が知ってる奴隷って、漫画に出て来るイメージしかない。
「芣婭が想像している奴隷で合っているよ。少し難しい話になるが、このルナ帝国では獣人達の奴隷化が進行していてな。俺と獣人部隊の奴等で奴隷制度の撤廃運動をしているんだ。中部街に人達は獣人に対しても、人間と同じように接しているが…」
「他の人達は違うって事かな?今までは獣人達は、奴隷じゃなかったって事だね」
「あぁ、200年前から獣人や亜人達の奴隷化の宣言を皇帝がし、そこからだ」
「嫌な奴だね、その皇帝!!!よく、酷い事が出来るね」
ギルベルト君の話は芣婭には難しいが、良くない事だけは分かる。
芣婭達の前を小さい獣人の子供達が、楽しそうに笑いながら目の前を通り過ぎて行った。
「あんなに、おきゃわなのに…。何で、そんな事するのかなぁ…、何も悪い事してないのにね」
「「「っ!!!?」」」
芣婭の発言を聞いた獣人達が動くを止め、芣婭達の周りに集まり出す。
あれ?さっきまで屋台で何か焼いてたりしてたよね?
「お嬢さん、ルナ帝国に来たばかりかい?」
白銀色の狼の獣人のお爺さんが、恐る恐る芣婭に声を掛けて来たのだ。
なんて答えたら良いのかな…。
「あぁ、彼女は俺の大事な客人だ」
「なんと!!!ギルベルト様の!!?お嬢さん、ギルベルト様には良く御世話になっているんだよ。やはり、ギルベルト様がお連れしている事だけある」
「へ?」
ギルベルト君の言葉を聞いたお爺さんは、嬉しそうに芣婭の方に顔を向けて苺飴を差し出した。
「これ、わしの屋台で出している苺飴じゃ」
「これはクッキーだよ!!!貰って頂戴な」
「甘いものばかりじゃ飽きるだろ?これは、俺の故郷の魚の1本焼きだよ!!!」
獣人達が次々と芣婭に料理やお菓子を渡してくれて、いつの間にか両手が塞がってしまった。
これは、どう言う状況?
「芣婭の言葉を聞いて、獣人達は嬉しかったんだよ」
「え?芣婭は思った事を言っただけなんだけどなぁ。大した事しいてないのに、申し訳ないな」
「優しいんだよ、芣婭の言葉は。嘘がない言葉と言うのは、何よりも人の心に響く。俺も、芣婭に出会ってから、この目が少しだけ嫌いじゃなくなった。芣婭が褒めてくれたからな」
ギルベルト君の耳が赤い…、芣婭が赤くさせたんだ。
やばい、めっかわなんですけどおおおおおおおおおおお!!!!
あ、みんなで♪
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!(リズム○国コーラス)
座ったまま隣にいるギルベルト君の顔を覗き込むと、ギルベルト君は照れながら口を開く。
「な、なんだ?」
「ギルベルト君、可愛い♡」
芣婭の言葉が聞こえたのか、周りに居た人達の目が零れ落ちおそうになっている。
小さい声で「あの子、何者?」と呟いている人達も居る。
ギルベルト君が、こんな事を言われても怒らないのは分かっていた。
この人は可愛がられる事に慣れてないだけ、男の人に対して可愛がりたいって思った事はなかった。
「なっ!?なななっ!?俺が、か、可愛いだと?」
この初々しい反応が堪らないし、もっともっと見たいなぁ…。
「ギルベルト君の事、もっと可愛いしたいなぁ…、だめ?」
そう言って、芣婭はギルベルト君の瞳を覗き込んだ。
***
この時、ギルベルトの目に映った甘野芣婭は、砂糖菓子のように甘い言葉を吐く小悪魔に見えていた。
自分の事を泥々になるまで甘やかし、甘野芣婭無しでは生きられないようにされるのではないか。
レッドピンクの瞳が、多くを語らなくても甘く囁いている。
ギルベルトが今まで会って来た女達よりも、遥かに甘野芣婭はギルベルトの心を掻き回していた。
言葉の1つ1つ、彼女の仕草だけでもギルベルトは目を離せなかったのだ。
「君は小悪魔だな、俺が断れないのを知っていて聞いてきたな?」
「小悪魔?」
「自覚がない方が厄介だな…。芣婭の好きなようにしてくれて良い、俺には拒否権はないんだからな」
ギルベルトの言葉を聞いた甘野芣婭は、満足げな笑みを浮かべる。
2人のやり取りを見ていた人達は、驚きの表情を浮かべたまま赤面化して行く。
だが、物陰からギルベルト達を睨み付けている男達がいた。
「ボス、ギルベルトの野郎が油断してるでやんす!!!」
「あぁ、女に気を取られているうちに行くぞ!!!あの時の恨みを晴らしてやるぜ!!!」
「「「おおおおお!!!!」」」
***
その頃、地上からケロちゃんとベロちゃんが2人の事を監視していたのだが…。
「やっぱり、この間の聖魔法で生成した鳥がうじゃうじゃいんな」
「攻撃はして来ませんが、明らかに芣婭の事を見てますね」
「何で、芣婭を見てんのか分からねーな。いや、監視させてんのか」
そう言いながら、ベロちゃんは飛んでいる光の鳥を
次々と空間把握で、透明な箱の中に閉じ込めて行く。
ズンッ!!!
2人の体に何か重いものが乗っかる感覚がし、一斉に
上部街の方向に視線を向ける。
「悪魔の気配がしますね、身に覚えのある気配です」
「あぁ、俺等がよーく知ってる奴の気配だ。50年ぐらいか?俺等の元から消えたのって」
「それぐらいだったと思いますけど?」
「おい、変な奴等が物陰から出て来たぞ」
ベロちゃんが異変に気付いている時、コンラット達も謎の男達の存在を目撃していたのだった。
「ヒューズ、ギルベルト様達に接近しようとしてる男達が出て来たな。俺達も行くぞ」
「了解でーす…、ん?なんかアイツ等、見た事ありません??あの妙な格好、見覚えがあるんですけど?」
ヒューズの言葉を聞いたコンラットは、何か思い出したような表情を浮かべた。
「この間、捕縛した海賊団の連中だ!!!しかも、奴 奴等は脱走したメンバーだ」
「腹いせで来やがったって事ですか!!!俺が先に行って止めまず!!!」
すぐに走り出したヒューズだったが、爆発音と同時に白い煙が立ち込める。
ボンッ!!!!
「え!?何事!!?」
「芣婭!!!俺の側から離れるな!!!」
「ええええ!!?」
「へへへへっ、そうはさせねーっての!!!」
ギルベルトが甘野芣婭の腕を掴もうとした時、海賊団の1人がギルベルトに斬り掛かった。
ブンッ!!!
キイィィンッ!!!
ギルベルトは素早く腰に下げていた剣を抜き、海賊団の男の振り下ろした剣を受け止め、脇腹に回し蹴りを喰らわす。
ドカッ!!!
「ぐへっ!?」
「オラオラ!!!背中がガラ空きだぜ!?」
「闇弾」
ビュンビュンッ!!!
背後から現れた男の方を振り返らずに、ギルベルトが呪文を唱えると、魔法陣の中から闇の弾丸が現れ、一斉に男の方に放たれた。
*闇弾(闇魔法)闇の下級魔術、圧縮した闇の弾丸を放つ攻撃魔法。また、弾丸の数と威力は術師の能力で変わってくる。ギルベルトの場合、弾丸のサイズは大きくないが威力っと破壊力が高く、巨大な隕石が体当たりして来たような衝撃を与える事が出来る*
ズシャッ、ズシャッ!!!
ブシャアアアアアア!!!
「グアアアアアア!!!!」
放たれた闇弾は男の体を貫き、血飛沫を上げながら後ろに吹き飛ばされて行く。
白い煙で視界が見えないまま、ギルベルトは次々と海賊団の男達を倒していた。
「ゴホッ、ゴホッ!!!あー、煙が目に染みて痛い…」
「芣婭様!!!」
「その声は…、コンラット!?なんか、ヤバめな状況なんだけども」
ガシッ!!!
「ふえ!?」
甘野芣婭の肩を乱暴に掴んだのは、兎耳を生やした小太りの中年の男だった。
「ぐへへ、お嬢ちゃん。悪いが、一緒に来てほしい」
「ぎ…」
「ぎ?」
「ギャアアアアアアアアア!!!!変態が現れた!!!!」
兎耳の中年の男を見た甘野芣婭が大きな叫び声を上げた瞬間、甘野芣婭の視界が大きく揺れる。
「「芣婭!!!」」
ドンッ!!!
ブワァァァァァッ!!!
ベロちゃんとケロちゃんが地面に着地したと同時に、煙が腫れたが甘野芣婭の姿だけが無かった。
「チッ、テメェと出掛けた所為で芣婭が攫われたじゃねーかよ!!!人間相手に気を取られ過ぎだ!!!」
ギルベルトに向かってベロちゃんが怒号を浴びせるが、ギルベルトは眉間に皺を寄せるだけで言い訳はしない。
「騎士を連れて来ても意味無かったな。こんな事してる場合じゃないですよ、芣婭の気配を追って…」
「待て!!!俺も連れて行け」
ガシッと、ケロちゃんの腕を掴んだのはコンラットだった。
「はぁ?連れて行く訳ないでしょ?来た所で、何の役にも立たないでしょ」
「ケルベロス、お前達の力を借りたい。芣婭が攫われてしまったのは、俺の所為だ。一刻も早く、芣婭の事を迎えに行きたい」
ジャキッ!!!
そう言ったギルベルトの足元から冷たい冷気が流れ出し、周りの地面から氷が出現していた。
「お前、複数持ちか」
地面の氷を見ながら、ベロちゃんはギルベルトに尋ねる。
ギルベルトは氷属性と闇属性の2つの属性を持ち、ルナ帝国の中でも数少ない複数の属性持ちであった。
「あぁ、それと芣婭を攫った奴等の検討はついている。俺が数日前に捕縛したが、逃亡した海賊団の残りのメンバーだ。恐らく、まだ離れた距離にいない筈だ」
「奴等を逃した黒騎士団の責任だ。アイツ等、芣婭ちゃんの事を拐いやがって!!!」
「芣婭様が拐われた?どう言う事ですか」
ギルベルトとヒューズの会話を聞いていたシエサが、会話に割って入る。
「あ!?何で、ここにメイドがいんだよ!!!」
「旦那様の命令で、芣婭様の護衛をすように言われまして。そんな事は、どうでも良いです。何故、芣婭様が拐われたのですか」
ベロちゃんの顔を見ずに答え、シエサはギルベルトに詰め寄った。
「「あ、これはまずい…」」
静かに起こるシエサの姿を見たコンラットとヒューズは、額に冷や汗が流れ出す。
タタタタタタタタタタッ!!!
「ギルベルト様、団長!!!脱走した海賊団の一味の捕縛が完了しまし…」
「えっ!?そ、そこにいるのは、シエサ副団長!!!?」
駆け付けた黒騎士団の団員達は、メイド服を来たシエサの姿を見て後退りして行く。
「成る程、捕縛しきれなかった一味が、芣婭様を拐ったと言う事だな。ヒューズ、お前が副団長になってから腑抜け団になったのか」
甘野芣婭と話す優しいトーンではなく、低いシエサの声が響き渡った。
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