家屋に吹き飛ばされた赤津は、 イチという女のハンマーを避けながら、 考えていた。この女の死因はなんだ? 今の所ハンマーで攻撃してくるだけで、 全く権能を使う気配がない。 いやむしろ、もう使っていると考えるのが 妥当か。それとも…使えない理由でもある のか?そう赤津が考えていると、 イチという女は、赤津を狙ったが外した、 と思わせて、地面を思いきりハンマーで叩 いた。 足場が悪くなり、体勢を崩した赤津に、 ハンマーの追撃が飛んでくるので、 思わず赤津も思考を中止して避けに回る。
「 あんた、 戦ってる最中に考え事とはいい度胸してるじゃない? なめてるの? 」
「 いーや、 なめてなんていないさ、 僕ァキミの権能が万が一にも僕を脅かす可能性を少しでもなくしたいだけだ 」
「 あっそ、やっぱり、なめてるわね? いいわ、 もう。 本当は、この姿にはなりたくなかったけれど… そうも言ってられないもの、 ここまでなめられたらね… 」
そう言って、イチは ハンマーを握りしめ る。 全身に力が入っているのが見て取れた。
「 喜びなさい、 我が法寸寺家に伝わる神を模したこの姿を見れるのを! “阿羅呉寝”! 」
そう言ってイチは、 背中から巨大な白い塊を生やした。 それはまるで蜘蛛の手足のように形を変 え、さらに、体の至る所から白い塊が体の あらゆる部位を覆うように突出する。 その姿は、人型の蜘蛛のようだった 。 そして、赤津はその姿を形作る白い塊の正 体に気づいた。
「 なるほど、骨か…? 阿羅呉寝、たしかどこかの小さな集落で闘神として崇められた神だったか… だがたしか記憶が確かなら、 その集落は無くなったはずだが… 」
「 その通りよ… 私は“法寸寺 一”! 阿羅呉寝様を信仰する、 今はなき法寸寺家の跡取り!私は阿羅呉寝様の勇ましい姿に憧れて、 この姿を手に入れた! わたしはこれが阿羅呉寝様の天啓だと信じてる! だから、 あなたなんかに負けはしない! 」
「 憧れのものになろうとするのは、 今の自分を捨てているのと同じだよ? 少し考え直した方がいい、 キミのそれは、 ただの盲信、なりきりだ 」
「 …あんた、阿羅呉寝様を馬鹿にするんじゃない! 祟りをくらうぞ! 」
「 生憎僕ァ無神論者だ、そういうのは、よそでやってくれ… まぁキミはもう、 よそに行くことはないわけだが 」
「へぇ‥? 随分な自信じゃないの! いいわ、 その挑発、 乗ったげる! 」
そう言って、イチは赤津に襲いかかる。 先程までのハンマーでの攻めに加えて、 阿羅呉寝の骨による攻撃が容赦なく赤津へ 繰り出され、時々阿羅呉寝の攻撃がかす る。ハンマーはくらったらまずい。 その思いも虚しく、今度はもろに側方にく らってしまった。 赤津にだけ、ボキボキという小気味のいい 音が聞こえる。 げほっ、と咳の勢いで血を吐く赤津。 高笑いする、イチ。 だが次に赤津から出た言葉は、 イチの顔を曇らせる。
「 何を、 笑ってるんだい? キミ、 もう終わりだよ? もう、わかったんだ、 キミのしてくるであろうことも、 全部。 だからもう、 諦めて降参した方がいい。 痛い思いをするよりは、 一瞬で楽になりたいだろう? 」
「 はは、 何を言ってるの? 今更命乞い? あなたはもうボロボロじゃない! そんな体で私を殺せるとでも思ってるの? 」
「 言ったはずだよ、 僕ァ仕事をするだけだ、 命乞いなんて時間の無駄になることはしない 」
へえそう、じゃあ死になさい!
そう叫びながら、イチは赤津にトドメをさ さんと駆けていく。 ハンマーと同時に阿羅呉寝を動かすが、 赤津は銃の持ち手を逆手に持ち、 銃の銃身で阿羅呉寝の骨を叩き折る。
「 痛っ! それ、 何でできて……! 」
骨が砕けた瞬間、イチは痛がる素振りを見 せる。その隙に、赤津は続けて阿羅呉寝の 骨を折る。折る。折る。 イチの抵抗も虚しく、全て、 叩き折られてしまった。
「 やはりね… キミの骨、 痛覚があるんだろう? 骨に関する能力ということは、 骨に関する死、 つまり、 キミの権能は“骨折死”の能力だ… そんなキミが、 骨を攻撃されて無事でいられるわけが無いだろう? それなら阿羅呉寝になりたがらなかった理由も頷けるしね… さあ、どうする? まだハンマーは残っているよ? 」
「 馬鹿に… するなっ!!! 」
イチはハンマーを振るうが、 赤津は銃を持ち手の引き金の方に持ち替え て、引き金を引いた。 その銃弾は無防備の首筋に当たり、 ひゅうっという息の漏れる音がする。 そのまま、イチはその場に倒れ込んだ。 倒れ込んだイチに、赤津は銃弾を追加で何 発も撃つ。動かなくなったのを確認してか ら銃を下ろし、 赤津はもう既に死んでいるイチに向かって 言った。
「 君の骨を鎧にして、 体のほぼ全てを覆うようにされていたら、 こう上手くはいかなかった… 恐らく僕の攻撃もヒビが入る程度で、 終わっていただろうね… だが君は、 ありもしない偶像をまねて、 隙だらけの神になりきった。 …闘神とはよく言ったものだ、 やはり、 神なんて矛盾の塊でしかない …つまり、 君の敗因は、 矛盾を疑わず受け入れたことだ 」
そう言って、赤津はその場を後にした。 次に向かうべき場所は、 孤立している百田の所だろう、 そう思い、彼は歩く。 信じられるのは、自分だけ。 今までの経験でそれはよく理解している し、曲げることは無い。 銃を肩にかけながら歩いている途中、 彼はそんなことを考えていた。
コメント
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面白かったです!!
赤津さんかっこよ!!強!にしても、赤津さんが無神論者なの想像どうり過ぎてなんか嬉しいです(笑)