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次の日、白鳥は大幅に遅刻し、2時間目の体育の授業にやっと姿を見せた。
「はい遅刻」
「あー油断した!」
二人一組になってストレッチをしていた青木が笑うと、白鳥は滑り込んできた。
「俺も混ぜてよ。いい?」
白鳥は青木ではなく、一緒に柔軟をしていた赤羽に向かって言い、赤羽は「どうぞ」と短く答えた。
こうしてると、死刑囚とか実験とか関係なく、ただの高校生のようだ。
青木はおそらくはもう二度と過ごせない平凡な学生生活を噛みしめていた。
「ってか今日、人数多くない……?」
白鳥がキョロキョロと体育館を見回す。
「ああ、なんか2組の担任が急遽休みになったとかで、体育の授業を合同でやることになったんだって」
「へえ……あっ!」
何かを見つけたらしい白鳥は慌てて目を反らした。
「?なんだよ?」
青木も体育館を見回す。
「……あのさ、2組の風紀委員が言ってたんだけど」
白鳥は声を潜めた。
「ステージに近いところで柔軟やってるのいるじゃん?あの2人、有名人なんだって」
青木と赤羽は同時にステージを振り返った。
そこには他の生徒たちとは明らかに異質の二人がいた。
ピンクブラウンに染めた髪の毛を肩まで伸ばしている小柄な男子は、二度見してしまうほど美しく、どこからどうみても女の子のようだ。
その小さな背中を押している男子は対照的に背が高くモデルのようで、今どきのグレーのマッシュルームカットがよく似合っている。
「へえ。なんか芸能事務所に所属してるとか?」
あながち外れてもいなそうな予想を言ってみると、
「じゃなくて、その……」
白鳥はわずかに頬を染めながら言った。
「カップルなんだって」
「カップル?」
赤羽が聞き返す。
「うん。付き合ってるらしいんだよね」
「……へえ」
青木は改めて2人を振り返った。
(わざわざノンケ同士に無理やり恋愛させなくても、もってこいな被験者がいるんじゃねえか)
「あの小さい方はね」
白鳥が青木に顔を寄せてくる。
「名前は桃瀬。その容姿からよからぬことを考える男子が寄ってくるらしいんだけど、めちゃくちゃ口が悪いんだって。その毒舌と塩対応で一刀両断、全部跳ねのけてきたらしいんだよね。それでついたあだ名がピ〇チ姫」
「……おい白鳥。それ、固有名詞的に大丈夫か?」
「隣の背が高い男子はさ」
白鳥が無視して続ける。
「名前は黒崎。端正な顔とは対照的に普段はボーっとしてるけど、桃瀬に関してはめちゃくちゃシビアで、ナイトみたいに守って紳士的にエスコートしてるらしいんだよ。それでついたあだ名が黒執事」
「はいアウト!アウトだろ今のは!!」
青木が白鳥に頭突きする。
「いてッ……!黒執事は固有名詞じゃないよ!それをいうならセバ〇チャンだろ!?」
「もういいからちょっとお前黙れ!」
青木は白鳥の桜色の唇を手でふさいだ。
(それにしても――マジなBLカップルか」
どこからどう見ても絵になる2人を再度振り返る。
(……ヤッてんのかなー)
その後ろ姿を赤羽が睨んでいることには、青木は気づかなかった。