テラーノベル
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「ねぇゆうまぁ、今日の服なんか派手じゃない? 授業参観のお母さん?」
楽屋のソファに深々と体を預けていたゆうまは、耳元で聞こえた軽快な声にパッと顔を上げた。目の前には、いたずらっぽい笑顔を浮かべたふみのりが立っている。
「は? どこが! これめちゃくちゃ気に入ってるブランドのやつだから」
「冗談だって。でもさ、その帽子もちょっと独特じゃない?」
「うるさいな、ふみくん! さっきから何なの?」
ふみのりは「ひどいな~」とおどけて見せると、またいつものようにゆうまの髪をくしゃっと撫でたり、肩を軽くつついたりしてきた。
しかし、今のふみのりの内面は、その明るい態度とは裏腹にボロボロだった。朝起きた時から頭がガンガンと割れるように痛み、体の節々が熱く重かった。今日はBUDDiiSの大切なグループ仕事。自分が体調を崩して現場の空気を重くしたくない、みんなに心配をかけたくないという一心で、必死に「いつもの元気なふみのり」を演じていたのだ。
その焦りが空回りし、体調の悪さからくる思考力の低下も手伝って、いつも以上にしつこくゆうまにちょっかいをかけてしまっていた。
「ねえねえ、ゆうま~、この後ご飯行こうよ。奢ってあげるからさ」
「行かない! てか、さっきから本当にしつこいんだけど!」
ゆうまはついにイラ立ちを隠さず、強い口調でふみのりの手を振り払った。
「あのさ、僕いま真剣にダンスの動画チェックしてんの。邪魔しないでよ。いつもいつも、子供みたいにちょっかい出してきて……正味ウザいんだけど!」
バン、とゆうまがスマホを机に叩きつけるように置いた。楽屋が一瞬で静まり返る。
ふみのりは固まった。
(あ……やりすぎちゃった……)
怒られたショックと、熱で弱り切っていた心が限界を迎えた。頭の奥がツンとし、視界が急激に滲んでいく。いつもなら「ごめんごめん!」と笑って流せるはずなのに、今はどうしても言葉が出てこない。
「あ……うん。ごめん……邪魔して……」
小さな声でそう呟くと、ふみのりはゆうまから目を逸らし、逃げるように楽屋の隅にある小さな椅子へ移動した。そのまま壁に向かって膝を抱え込み、小さく背中を丸める。
怒られた悲しさと、体調管理ができていない不甲斐なさで、涙がぽろぽろと零れ落ちて止まらなかった。声を殺して鼻をすする音だけが、静かな部屋に響く。
一方、怒鳴ってしまったゆうまは、急に大人しくなったふみのりの背中を見て、胸のあたりがモヤモヤとし始めた。
(……ちょっと言いすぎたかな。でも、本当にしつこかったし……)
最初は自分の正当性を確かめるように動画に目を戻したゆうまだったが、どうしても集中できない。ふみのりの背中があまりにも小さく、そしてどことなく震えているように見えたからだ。
ふと、ゆうまはさっきふみのりに触れられた肩の感覚を思い出した。
(あれ……? ふみくんの手、なんかすごく熱くなかったか……?)
違和感を覚えたゆうまは、そっと立ち上がり、ふみのりの元へ近づいた。壁に向かって丸くなっているふみのりの肩に、そっと手を置く。
「……ふみくん?」
「っ……!」
ふみのりの肩が跳ねた。慌てて袖で目を擦りながら、顔を伏せたまま「な、なに……? ごめんね、もう邪魔しないから……」と掠れた声で答える。
その声を聞いて、ゆうまの胸に嫌な予感が走った。ゆうまはふみのりの前に屈み込み、下から顔を覗き込んだ。ふみのりの頬は赤く染まり、目は涙で潤んで重たそうに開いている。呼吸もどこか荒い。
「ふみくん、顔赤いよ。体調悪いの……?」
「ううん…なんでもない。ちょっと眠いだけ……」
強がるふみのりの額に、ゆうまは迷わず自分の手を当てた。手のひらから伝わってくるのは、明らかに尋常ではない熱さだった。
「熱あるじゃん! なんで言わなかったの!?」
「だって……みんなに迷惑かけたくなかったし……ゆうまも忙しいのに……」
ぽろぽろと再び涙をこぼすふみのりを見て、ゆうまはさっき自分が投げつけた「ウザい」という言葉を激しく後悔した。体調が悪い中、必死で場を盛り上げようとしていたふみのりの気持ちに、自分は全く気づけていなかったのだ。
「ごめん……僕、何も知らなくて酷いこと言った。本当にごめんね、ふみくん」
ゆうまは優しくふみのりの背中を擦り、ゆっくりと立ち上がらせた。
「とりあえず、奥のソファで横になって。スタッフさんに言って、氷嚢とお水もらってくるから」
ふみのりを長ソファに寝かせると、ゆうまは素早く動いた。スタッフに状況を説明して休ませる手配を整え、冷たい水と冷却シートを確保して楽屋に戻ってきた。
「ふみくん、これおでこ貼るよ」
冷たいシートが額に触れると、ふみのりは「気持ちいい……」と小さく息を吐いた。ゆうまはふみのりの頭元に座り、濡らしたタオルでふみのりの首筋や手を優しく拭いてあげる。
「お水、少し飲める?」
「うん……ありがとう、ゆうま……」
少しだけ水分を補給させた後、ゆうまは自分の上着を脱いで、ふみのりの上からかけてあげた。
「僕、ここにいるから。仕事の準備ができるまで、ゆっくり寝てていいよ」
「ゆうま……さっきはしつこくしてごめんね……」
「もうその話は禁止! 僕こそ怒鳴ってごめん。体調悪いのに気づけなくてごめんね。だから今は、何もしないで休むことだけ考えて」
ゆうまが柔らかく笑うと、ふみのりはホッとしたように目元を緩め、そっと瞼を閉じた。ゆうまはふみのりが安心できるように、その手をそっと握りしめた。ふみのりの規則正しい寝息が聞こえ始めるまで、ゆうまはずっとその手を離さず、傍で優しく見守り続けた。
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桜華
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