朝、小鳥のさえずりとともに目を覚ました。
言われるがままベッドで1人で寝てしまった。心に余裕が無かったとは言え、酷い言葉に気遣いのない行動をしてしまった自分に嫌気が差す。
リビングに向かうと、アーサーさんの姿は無かった。ソファには、昨日掛け布団にしたであろう、毛布が丁寧に畳んでおいてあった。
そりゃあ、昨日あんなことを言われた人に顔を合わせたくないですよね……。なんて1人で悲しみに暮れていた時、トイレのドアが開いた。
「あ、おはよう、菊。」
「……おはようございます。」
案の定、出てきたのはアーサーさんだった。出ていってなかった安心さと、気まずい空気の中、彼は私の隣に座り、会話を続けた。
「昨日はほんとにすまなかった、でも俺……お前と関係が崩れるのは嫌だから、その……、」
あぁ、そうだ。彼はこういう人なんだ。不器用で、素直になれない性格ながらも、しっかりと自分の気持ちを伝えて仲直りしようとしてくれる。そんな根っから優しさがある人。
自分と比べてしまってはいけない気がして、気持ちを抑え込み、口を開いた。
「いえ……私の方こそすいません…。思いのないことを言ってしまいました、」
「………なぁ、菊。」
「? はい。」
「昨日の夜、沢山考えて、言うことにしたんだ。俺から提案なんだが……、」
「退職しねぇか?」
「………え、」
思いもよらなかった提案に目を丸くした。また遊びの提案だと思ったからだ。でも、そんなこと受け入れられる訳もなく…
「そんな、駄目ですよ。私は国なんです、そんな身勝手な事、」
「お前頑張りすぎなんだよ。それにあんなクソしかいない会社、潰れて当然だ。」
「分かってんだろ、体が限界なことぐらい…。ちょっと休むって言っただけで舌打ちがされる治安の悪さだ。お前が輝ける場所なんて、いくらでもあるだろ、」
私の輝ける場所がある?あるわけないじゃないですか、こんな社畜に、なんの取り柄があるというんですか……。
アルフレッドさんみたいに、自身に満ちて陽気で自由に生きようとする精神も、持ち合わせていません。
フェリシアーノ君みたいに、誰からも愛されて愛想が言い訳でもありません。
ルートさんみたいに、テキパキ動けてみんなをまとめる力もありません。
フランシスさんみたいに、冗談で場を静める才もありません。
イヴァンさんみたいに、無邪気で面白い感性を持ち合わせている訳でもありません。
耀さんみたいに、物腰が鷹揚で自分をさらけ出せる訳でもありません。
アーサーさんみたいに、心の底から親切な訳でもありません。
私の輝ける場所なんて、そんなのたかが知れています。
本当に、私は自分が大嫌いだ。私に向けられた心配、慰めの言葉。も、素直に受け止められない自分に嫌気が差す。
ありがとうございます。という言葉よりも、知ったような口を聞くな。と言いかけた自分に吐き気がした。私はいつからこんなに墜ちてしまったのだろう。
いや、もともと私はこういう性格だったのかもしれない。それが今になってボロを出してくるとは、残酷なものだった。
「……放っておいてくださいよ、」
「っ、私のこと、何も知らないくせに、!」
それでも、空気を読もうとしないほど私には余裕が無かった。これでまたありがとう。とかすいません。って言うと、またそれか。と思われることは分かっていた。実際そうだから、日本人の私でも思ってしまうのだから。
「……ごめん。またお前の気持ち考えないで、こんな事、他国の俺が口出ししたら駄目だよな、」
罪悪感で潰されそうだった。私が発した言葉でまた彼を悲しませた。
違います。こんな事を言いたかった訳ではないんです。すいません、私のせいで。ごめんなさい、ごめんなさい、……私はどうしたら良いんですか?分かりません。誰か教えてくださいよ、
私は臆病者です。
優しいと言われている性格も、本当は人から嫌われるのが怖くて、外見を繕っているだけなんです。嘘つきなんです。ダメ人間なんです。
「………すいません。頭、冷やしてきます、」
こんな私が、国ごめんなさい。
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