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指揮の姿は、長い耳と丸いしっぽを携えた卯人に変貌する。
機縁病による幻覚かとも思ったが、俺以外の奴らにも卯人になった指揮は見えているらしく、残念なことに現実だ。
俺の記憶が合っていれば、まあ間違いなく指揮は卯人じゃないし、人間であったと思う。
卯人になれると言えば……天竺から天神が思い浮かぶ。
天竺は、黄色いリボンがついているナイフ、すなわち黄落人であると判断できる要素は隠していた。
ぱっと見だったら人間だと思える。
もしかして、指揮も同じなのか?
人間と偽っていて、本当は黄落人なのか?
となると、いつも俺と会っていた姿も本当の指揮の姿でないかもしれない。
それか、天竺みたいに黄色いアイテムを持っているのを隠しているか、の二択。
最低でも、卯人に姿を変えた時点で、黄落人であることは確定している。
そして、卯人になった指揮は、いつもの二倍くらいの速度で走り出し、天神に負けず劣らずの剣技で魔法使いの人形に急接近。
天神のが凄いんだろうが、正直どっちも早すぎて何してるか分からないところは同じだ。
だから、俺の目には違いが分からなかった。
その後、天神と似たフォームで魔法使いに攻撃を与えた。
かなり威力がバグっているのか、首が半分くらい切れている。
今まで攻撃できるビジョンが浮かんできていなかったが、その固定された「ダメそう感」を切り裂くような一撃だった。
現状、もし憶清天戦のMVPを決めるなら、指揮以外いない。
そんな英雄とも言うべき指揮は、その一撃を決めた後、一分ほどは立っていたが、その後膝をついて崩れ落ちた。
半分夢みたいにその光景を見ていたが、膝から崩れ落ちる指揮を見てとっさに体が動いた。
「おい指揮、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……もう平気です」
「黄落人は、普段変身しねぇ奴に急に変身すると体が追いつかなくて、指揮みたいに具合が悪くなったりとかすんだよ」
「やっぱり指揮は黄落人なのか」
「はい。今まで黙っていて申し訳ございませんでした。本名は楊梅指揮と言います」
「……楊梅?」
「楊梅って……花芽の苗字だろ」
「花芽は私の双子の姉に当たります」
「こいつらは黄落人の姉妹だ。俺様は黄落人特有のネットワーク的なので知ってる。黄落人内じゃ有名な姉妹だよ。なんでも、地主の女二人に変身して裕福に暮らしてるとかでな」
「桐原家は私達黄落人の保護区付近の地主の一家でした。私と花芽が外出している時に偶々出会った桐原家の令嬢二人に変身し、桐原指揮と名乗っておりました」
「ふーん……なんとなく状況は分かった。で、お前は今戦えんのか?」
「先程の一撃に色々費やしすぎました。動くことは可能ですが、さっきのような攻撃をもう一度繰り出すのは不可能に近いかと」
「あの人形の首を切るとなると、さっきのやつで半分くらい削れてますから、もう一回できたら切れそうですけど……」
「もっかいするのはムズイんだろ。なんとかして攻撃が来ないうちに決めきりたいが……」
と言った感じで、指揮の状況を理解した奴らは黙った。
そして、みんなの視線が某昔のインドに向いていった。
現状指揮の攻撃を再現できそうなのは同じ種族になれるあいつしかいない。
それを小卒未満の頭で理解したのか、天竺はギリ聞こえるくらいの音量で舌打ちをして、胸に手を当てる。
暫くして、奴は見慣れたあの姿になった。
そして、指揮の焼き直しのように走り出し、再放送のように人形に接近する。
しかし、まああり得ない速度だ。若干指揮より早い。
その速度を維持したまま、短剣を取り出し、首目がけて切りかかった。
視界の端に人形の頭が飛んできた。首を切ることは成功したらしい。
人形の魔法よりもはやく人形を討伐できた。
すなわち、無傷突破ができたということだ。
人形がもういないとなると、必然的に俺達の敵は憶清天本人になる。
「そういえば、こいつの反射って……」
と、俺達が睨みつけるように憶清天を見つめると、憶清天は突如泣き出す。
「ふぇぇえ、ひどいよお(泣)。ぼくのだいすきなおにんぎょうさんをこわさないでぇぇえ(哀)」
「いや襲ってきたんだからしょうがないだろ」
「……って、それよりも……」
「反射が……消えてる」
「おにんぎょうさんこわれちゃったからかなしくなっちゃったのー……(悲)」
「え、じゃあ……反射の条件って、人形が存在することなのか」
「難しいことはよくわかんねぇけど、要はもう攻撃できるってことだろ。こっちには卯人が二人もいるんだぜ、一転攻勢だ」
「ですね。やっちゃいましょう!」
「やばぁい……ちょっとピンチかもぉ……(焦)」
そうと決まれば戦闘集団共の足は速い。
まるで示し合わせたかのように、カンマ何秒くらいの誤差にしかならない程度に同タイミングで駆け出したかと思えば、一斉に憶清天に切りかかる。
指揮は一度切ると離脱したが、天竺はその間に何発も切れ込みを加え、それが堪えたのか、憶清天は倒れこむ。
好機と見て、俺はレーザーの準備を進め、小指は魔法で応戦し、messiahは憶清天を押さえつけている。
なんか……すごいチームワーク。
全員がMVPになれそうな戦いをしていると、事態は動き出した。
「……ぼくね、おうらくてんみたいにかくごがきまってるわけでもないし、おにいちゃんみたいにかしこくないから……たぶん、いのちをすててこうげきしたほうがいいとおもうんだけど、でも……ぼくにはそれができないから……」
「ーーもうひとりのおにいちゃんのわざ、つかってみるね……!(覚)」
憶清天は、そう言ったかと思えば、最期のあがきか、俺達に手を伸ばす。そして、
俺達の時は完全に止まってしまった。
*
時を止める能力。
完全に思考から外れていた。
確かに、ネームド全ての能力を使用できるなら、emptyの能力も使用できるはずなのか。
ネームドである姉からは、よくこっそり会ってネームドの話を聞いていた。
昔あった金髪イケメンがいただとか、ネトフリガチ勢のガチ勢がHuluとDisney+とアマプラとGYAOとABEMAとDアニメとUnextに契約してて面白かっただとか、そんなくだらない話を聞いていた。
で、その中にemptyの話も出ていた。
花芽もあまり彼のことは知らなかった……というか知らされていなかったようだが、音端の中に人格が内蔵されていて、時を操る能力を持っているらしい。
そして、元は坂巻と名乗る医者で、bloodと共に神化人育成プロジェクトに携わっていたが、とある規則違反により単独で動けないネームドになったとのこと。
bloodはemptyのことを語りたがらないのであまりよくわかっていないが、真偽が不明の噂によればbloodとemptyは元は先輩と後輩だったともいわれている。
emptyの方が先輩だったようだが、今の様子から察するに権力を持っていたのはbloodのように見える。
果たしてこの二人の間に何があったのだろうか。
おそらく、それが私たちの求める真相に直結していると思うのだが。
まあ、それは全てbloodと戦う過程にまで到達しないといけないわけで。
この時止めに対抗しないことには始まらないのだが。
……そういえば、emptyの話をしている時に、花芽が変なことを言っていたような気がする。
「ねぇ、もし時が止まったらさ、超早く動いたらワンチャン突破出来たりしないかな?」
「……何言ってるの?」
「いつもの戯言だけどね。でももし本当に時を止めてきたら、私超早く動いてみようかな」
「……まあ、時止めを解除できそうなことならなんでもしたいだろうけどね」
「でしょ?だから、やっちゃおって」
「はぁ……いいけど」
超早く動いたらワンチャン突破出来たりしない?か。
いや、普通に考えても突破できるわけない。
でも、花芽はemptyと同じ場所で亡くなっていた。
二人には争った痕跡があった。
emptyにも当然傷がついていた。
つまり、花芽は超早く動く作戦?で時止めを突破したことにならないだろうか。
花芽と私はいつでも一緒だった。私たちは双子だから。
気持ちも分かる。花芽は、多分あの卯人を使ったんだと思う。
私達が、生き残るために、成り替わるために殺してしまった卯人。
今の私の姿だ。となれば、答えは一つだろ。
時が止まっていることは重々承知したうえで、私は体をなるべく早く動かした。
動け、動けと念じるんじゃなくて、早く、もっと早くと願って。
体力も半分までになってきた頃、私は動き出す。
そして、脳内で何度もイメージした動きで、
憶清天にとどめを刺した。
*
指揮によって時間から解放された俺達は、指揮に飛びつくような勢いで近づき、各々感謝を述べた。
指揮は謙遜しているようだが、俺らの速度についていけないらしい。
しかし、そんなお祝いムードも次第に終焉を迎える。
「……遅いな。72回目からずっとお前らの事を待っていたぞ」
「待たせてんのはそっちだろ、blood!なんで形態が三つもあんだ?!」
「あぁ、悪かった。木更津兄弟よりも兄弟愛がないからな、兄弟を戦わせることも厭わないんだ」
「「……」」
「……ともあれ、貴方を倒せば私たちは脱出できるんですよね?」
「どうかな。今この計画が回数を重ねている原因は俺ではないからな、原因の奴がお前らに感銘を受けてくれたんなら脱出できるんじゃないのか?」
「だから難しい話すんなよ!俺様の事殺す気か?!」
「ああ、事情は知らんがお前の事は殺したいよ」
「……俺様以外も殺したいだろ?」
「そうだな。悪魔共を狩りたいという意志はある」
「悪魔?」
「……そろそろ真相を知るべきだ。お前たち参加者の正体、そして招集をかけられた理由を」
「僕たちの……正体……?」
「そうだ。お前たち参加者は、まあ個性的なメンバーが集っているわけだが、そいつらにももちろん共通項がある。それは」
「お前たち全員、犯罪者であることだ」