テラーノベル
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第一陸軍大隊隊長を務める俺、シャオロンにはライバルと呼べる同期が二人いる。
一人は同じく陸軍大隊をもつコネシマ。
ライバルの名に相応しく同じぐらいの好成績で軍学校の頃から張り合っており、今でも互いに幹部として模擬戦をすることもしばしば。
もう一人は、非常にいけすかないこの国唯一の女幹部、ローズである。
彼女はもはやライバルどころではない、俺にとって倒すべき敵で、壁であることに違いなかった。
なにせ彼女は超が付くほど優秀。
学校内での成績は常に一位から揺らがなかったし、悔しいことに性別の差があるはずなのに模擬戦でも勝てたことはなかった。
単純な力の話ではなく、身体の使い方が上手い。流れるように攻撃を受け流し、素早く動いて視界の外から反撃。
そんな風にして渾身の一撃を舞うように躱されてしまえば、こちらのストレスは溜まりに溜まる。
それなのに、そんな彼女は俺に見向きもせず飛び抜けて顔の良い(俺も中々に良い自覚はあるけど)コネシマに媚を売る始末。
いつかボコボコにして、余裕ぶってる彼女の必死な顔を拝んでやろうと意気込んで数ヶ月、コネシマ以外にも媚を売り始めたのにはびっくりした。
まあコネシマのめちゃくちゃ険しい顔を見る限り、ローズが何か地雷を踏んでビビって媚売れなくなったってとこだろうけど。
そんないけすかない同期が毒を飲んだと聞いて約30分、目の前で模擬戦している同期の調子がさっきから明らかにおかしい。
「コネシマぁ、戦っている最中に余計なこと考えてんな、よっ!」
「…っ、チッ。うっさいわ、言われんでも分かってんねん。」
煽り返すことなく受け止める姿なんて、随分長い間見てこなかった。
俺は真剣にコネシマを倒そうとしているのに、当の本人の意識はこっちに向いてない。
そんな状況が酷く腹立たしくて、隙をついて相手のゴムナイフを弾き飛ばした。
「ほら、変なこと考えてっから俺に負けるんやで?」
持ってたゴムナイフを首に突きつけ、煽る。
いつもなら彼の反論が飛んでくるのに。
「……」
「…なんやねん、んなあの女の事気になんの?お前あの女のこと一番嫌いなんやろ。何か分からん毒飲んで危険です、なんてむしろあいつが死んだら丁度ええ……っ!?」
ぶわっ、と肌が粟立つような殺気が飛ぶ。
武器は俺が飛ばしたばかりだってのに、その刺すような空気に本当に殺されるんじゃないかと思って反射で飛び退く。
確実に、地雷を踏んだ。
俺は、てっきりコネシマはローズを心底嫌っているだけなのだと思っていた。
こいつが女嫌いというのは有名な話だったし、本人の口からも聞いたことがある。
特にすぐ手のひら返しをするような、媚を売るだけの人間は特に嫌いなのだと、そう語ったのを聞いてだからあんなにローズのことを睨んでいたのか、と納得もした。
けど、それだけじゃなかった。
こいつは、きっと______
「…シャオロン、もうええか。」
半端に空いた距離の向こう、少し冷静になったのか殺気を弱めたコネシマが喋る。
問いかけるような口調だが、それは有無をも言わさぬ雰囲気を纏っていた。
俺はただ無言で、医務室に向かうコネシマを眺めることしか出来なかった。
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