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俺たちは今、集落の広場で熊人族による歓待を受けていた。
広場といっても幼稚園の園庭ぐらいのものだ。
そこに毛皮や莚を地面に広げみんなで座りこむ。
つまりギチギチ。外なので冒険者ギルドよりかはマシだが……、ここにも公衆浴場を作りましょうかね。
周りには酒や料理が所狭しと並んでいく。
(これは逃げられないな)
これから交渉しようという相手を無下にはできないとアランさんとも話し合い、今日はゆっくりしていくことにした。
こちらも腐るほどあるワイバーンの肉を惜しげもなく振舞った。
熊人族の娘たちもキャーキャー言って俺に近づいてくるのだが、横にいるナツにことごとく切り捨てられていた。ハハハハハッ。
………………
そんなこんなで、ダンジョン前の町づくりを熊人族は全面的に協力してくれる事となった。
そして夕刻になり、
「詳しい事はまた後日に……」
「まぁーまぁーまぁー、もう一献!」
俺たちが席を立とうとすると追いすがるように座らせられる。
「もう少し飲みましょうよ。もう少し……」
それを何度となく繰り返し、
食いさがる村長やクマギャルたちをなんとか振りきって王城に帰ってきた。
(ふぅ――――――っ、あの調子じゃ朝まで続きそうだったからなぁ)
ちなみに『炎竜の首』は国王様へ献上することにした。
その報告を聞いたカイゼル国王は大そう喜ばれ、はく製にして王城に飾るそうだ。
そうか王城の広間になら……、そういうのもこの世界らしくて良いよな。
「あの首だけでもオークションに出せば白金貨 (100万バース)以上になるからね」
アランさんがそう教えてくれたが、今のところお金には困ってないしね。
それよりもオークションか……。
楽しそうだよなぁ。行ってみたいものだ。
奴隷オークションなんかも有ったりして……。
――良い! こんど詳しい情報を聞いてみよう。
そして数日後。
今日はデレク (ダンジョン)から延ばした街道を進んでいき、その先にある町『モレスビー』まで行ってみるつもりだ。
モレスビーにある冒険者ギルド宛ての手紙を、今朝のミーティングの折にアランさんから預かっているのだ。
内容は今回行われているダンジョン改革の件を知らせるためである。
「シロ、久しぶりに俺たちだけだなぁ」
「ワンッ!」
俺の言葉にシロはこちらを向いて一吠え、ブンブン尻尾を振っている。
どうやらシロも嬉しかったようだ。
「よし行こうか!」
歩き始めた俺たち。シロはいつものように3歩先を軽やかに進んでいく。
行った先々で邪魔になりそうな大岩を粉砕したり、大木やブッシュ (棘草) などを刈っていく。
樹海に覆われていた大半の部分はデレクによって切り開かれ、水はけの良いレンガ敷きの道路が出来あがっているので、あとは楽なものだ。
昼時になったので一休。王都で見つけた一味違う串焼きを頂くことにした。
――何が違うのか?
この串焼きには胡椒が使われているのだ。
それも挽きたてのめっちゃスパイシーなやつ。
(やっぱり有ったよ胡椒。さすがに王都だな)
そう感心しつつも、串を焼いてるおやじに、
「これをどこで?」
「商売のタネをそう簡単に教えられるか!」
至極真っ当な答えが返ってきた。
それもそうだよなぁ。
「そこを何とか……。20本買うから……。じゃあ30本……」
しつこく聞く俺に串焼き屋のおやじはとうとう折れて出元を明かしてくれた。
それを聞いた俺はビックリ!
なんでも数年前に自分で見つけてきたらしいのだ。
納屋の隅で乾燥していたそれをすり潰して舐めたところ……。
――辛い!
はじめは毒だと思って放置していたそうだが……。
何故だか、その香しい匂いとピリピリ感が癖になるのだ。
何回舐めても害にはならないようだし、いつしか肉にかけて食べていたそうだ。
そして瞬く間に村中に広がっていった。
『この串焼き肉は売れるぞ!』
そう踏んだおやじは知人を頼って田舎の村からはるばる王都にやってきたという。
今はようやく準備も整い、10日程前からこうして串焼きを焼いているのだそうな。
「…………」
確かに胡椒を使っているはこの店一軒だけのようだが。
しかし、これは……。
こんな所で串焼きを売っている場合ではないよな?
(う~ん、放っておくか?)
とも思ったのだが、串焼き屋にはいつもお世話になってるしなぁ……。
こういう時こそ恩返しをせねば。
てなわけで、まず大銀貨を1枚渡してこの日は店をたたませる。
そして場所を移し、胡椒がいかに大切で重要なのかをとくとくと説明してやった。
さらに流通させるため、仲良くなっていた商店を紹介した。
ここは魔道具屋のナナが勧めてくれた猫人族がやっているお店で、俺も何度か利用している。
そして両者を前に胡椒というものが何たるかを説き、ブラックペッパー、ホワイトペッパー、ペッパー警部を教えていく。
乾燥させる時間や砕いた粗さによって風味が変わる事なども説明していった。
………………
「また旨い串焼きを食わしてくれ!」
そう言って二人と別れたのが数日前の出来事であった。
その時にもらった胡椒の実をデレクに分析させてみたところ、テリトリー内でその植物を発見することができた。
モノさえ見つかれば栽培や乾燥も自由自在。ダンジョン内で胡椒を生産して個人で楽しむことにした。
腹もふくれたことだし、ぼちぼち行きますかねぇ。
すると辺りが急に暗くなりだした。
空を見上げれば雲の流れが速い。
(ヤバいなぁ、スコールがきそうだぞ)
ゲリラ豪雨と言ったほうが分かりやすいか。
このサーメクス星も地球と似ていて、天気もだいたい西から東へと移り変わっていく。
この星にも偏西風や貿易風といった気流があるのかもしれない。
いやいや、今はそんなことを考えてる時ではない。
稲光が近づいてきている。
俺はシロを側に呼ぶと、ダンジョン・デレク 前にある温泉施設へ転移した。
ふぅ――――っ、危ないところだったなぁ。
結界を張ればいいとはいえ、さすがに雨の中は嫌だもんな。
せっかくなので、ひとっ風呂浴びていくことにした。
ささっと装備を収納し、服を脱いでシロと露天風呂へザブン。
かぁ――――っ! 日本人に生まれて良かった。
て、もう違うけど。
おお、ここから見ると南の空が真っ暗だよ。
半刻 (1時間) ほど誰も居ない露天風呂を堪能した。
さて雨もあがったようだし、ぼちぼち行きますかね。
シロを連れて再びトラベル!
モレスビーへ向けグングン進んで行く。
まあ、身体強化して走り抜ければ今日中には到着できるのだが、今回は目的が違うからね。
街道を敷くにあたり障害になるものが無いかチェックしながら歩いているのだ。
ほんのちょっとの傾斜や凹みでも馬車が止まってしまう恐れがある。
なので慎重に見ていく必要がある。
ん、そろそろ暗くなってきたか……。
今日はここらで野営だな。
トラベルを使って戻ることもできるが、あくまで現地調査だからな。
一般で旅をするのと同じようにここで夜を明かすことにした。
シロにも魔力を極限まで抑えさせ、付近に現れる獣や魔獣を把握していく。
竈作りも慣れたものだ。薪はつねづね集めているので十分な量がある。
竈に火をおこし、水をはった鍋を火にかける。
湯が沸いたところで干し肉を入れ出汁をとる。
あとは適当に切った野菜とワイバーンの肉を入れ、しばらく煮こんで最後に胡椒で味を調えたら完成だ。
塩分は干し肉に付いてるやつで十分だな。
まずシロの分を器にとりわけ冷ましてあげる。
冷めたところで俺も器によそい一緒に頂いた。
うん旨い!
やはり胡椒は偉大だ。
この胡椒で戦争が起きるのも分かるような気がするなぁ。
次は肉を焼いていく。
肉の両面に塩と胡椒をまぶし加減を見ながら焼いていく。
シロの分は素焼きだな。犬なので。
そして焼き上がった肉をナイフで切り分けて一口。わ~お!
もう一口。わ~~~お!
――これはヤバし。
これを知ってしまったら奪い合いが起きるよ。
胡椒の生産は地域も限られていて難しいと聞くし。
供給体制が整うまでは危険だな。
これは帰ったらアランさんへキチンと報告しないと……そのうち大変な事になるかも。(汗)
食事を終えた俺は膝上にあるシロの頭をやさしく撫でながら紅茶を飲んでいる。
こうして、ゆったりとした気分で双月を眺めるのも久しぶりだな。
最近は何かと気ぜわしかったし。
こんな静かな晩もたまには良いもんだなぁ。
うっ、ううん、……いつの間にか寝ていたようだ。
天空は薄明るくなっており日の出も近いようだ。
シロと一緒に包まっていた毛布をはぐり、周りに出ていた食器などを収納していく。
朝ご飯を食べて日が昇ったら出発しよう。
串焼きと水でシンプルに朝食を済ませると、草原の道を南に向かって歩きだした。
この分だと今日中には町へ到着できるだろうか。
町に近づくにつれ道幅も広くなってきたな。
旅人は少ないと思うが、冒険者はよく利用しているのだろう。
これなら街道としては十分にいけそうだな。
あとは人を出してもらい道や野営場の整備をすれば、馬車が往来することも出来るようになるだろう。
俺とシロはおおかたの予定どおり昼過ぎにはモレスビーの町へ到着した。
早速、門の前に居た衛兵に冒険者ギルドの場所を尋ねる。
「ああ、ここをまーすぐ行ったとこにあるよぉ」
「そうか、ありがとう!」
挨拶代わりに手をあげて町に入っていく。
見たところそれ程大きな町ではない。
この道がメインストリートのようだから行けば分かるのだろう。
しかしなぁ……、牧歌的というかなんというか。
のんびりした田舎の町という感じだな。
すれ違う人とあいさつを交わしながら道沿いをテクテク歩いていくと冒険者ギルドの看板が見えてきた。
(おっ、ここだよな)
さっそくギルドの中に入ってみたが…………誰も居ない。
このパターンは初めてだな。
昼過ぎだし冒険者が居ないのはわかる。が、カウンターにも誰一人いないのだ。
「…………」
カウンターに近づいてみるが、やっぱりいない。
途方に暮れていると出入口の方から冒険者 (かっこは農夫) が現れてカウンターに近寄ってきた。
そして、のそのそと俺の横を通ると、
「ちょっと、前をごめんよ~」
そう言ってカウンターの上に置いてあった木槌を持ち、木製の丸い台座をコンコンコン……と5回ほど叩いた。
すると奥の方より、
「は――――い! ただいまぁ~」
扉が開くと、おばちゃんが一人エプロンで手を拭きながらカウンターに現れたのだった。