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あの日々を、もう一度過ごしたかった。
2006年 春
晴れて高校生になった私はこの呪術高専に入学した。
私の学年は自身を含めたったの3人らしい。
少なすぎると思ったが呪術界隈ではこんなものなのかなと思い、気を取り直して教室へ入ると同級生2人が既に居て、真っ先に黒髪の元気な人が自己紹介をしてくれた。
彼は灰原雄と言うらしい。そしてもう1人の金髪の物静かな彼は七海建人と言った。
この2人となら安寧な生活を送れるだろうと、私は安心感を抱いた。
入学してから1年経った夏頃、任務をこなすことも慣れてきた。
明日、七海と灰原2人での任務が、私は単独での任務が入った。
近頃任務続きだったため、私は2人にこんな提案をした。
「あのさ!それぞれ明日の任務終わったらさ、どこか遊びに行かない?」
「いいね!最近任務続きだし……そうと決まれば早く終わらせないとね! 七海!」
「はぁ……分かりましたよ。灰原も頑張って下さいね。」
そう言った彼は柔らかい表情を浮かべていて、満更でもない様子だった。
当日になった。実は結構楽しみにしているので2人に声をかけた。
「2人とも、行ってらっしゃい!私結構楽しみにしてるから、頑張ってね。」
「君もね!僕も楽しみだから!」
「早く行って終わらせましょうか。」
ふふ、2人とも楽しみにしてくれてるんだ……嬉しいな……
そしてこれが、私が最後に見た灰原の姿だとは思いもしなかった。
任務から帰ると、七海は目にタオルをかけていて、灰原は下半身が無い状態で横になっていた。
頭が真っ白になった。灰原が、死んだ……?
私はおぼつかない足取りで灰原の近くへ行った。言葉が出ず、視界がぼやけてきた。
放心したまま七海の隣に座り、しばらく沈黙したままでいた。
「七海……お願いだからさ、私より先に死なないでよ。」
呪術師として身を置いた以上、親しい人が死ぬ事だってちゃんと分かっていたはずだったのに。頭では理解していても、心が追いついていない私の口はそんな事を言っていた。
「…………じゃあ、貴方も私より先に死なないで下さいね。約束です。」
バカみたいな約束。この一件で分かっただろ。私達に明日が訪れる確証は無いって。
…………遊びに行く約束、もう無理になっちゃったね。
部屋に戻った後、私の嗚咽は止まらなかった
それから目まぐるしく日々が過ぎていった。
夏油先輩の離反や卒業後に七海が呪術師辞めたりとか、大きな出来事もあったけれど。
七海が呪術師を辞める事に安心した私がいた。そのまま一般企業に就職して家庭を築いたりして、幸せな生活を送って欲しかった。
私はというと、そのまま呪術師を続けている。あの日から私は任務を詰め込んで悲しむ隙が無くなるようにしている。彼の死は私にはあまりにも大きすぎた。最近は少し受け入れるようになってきたが。
そんな生活を卒業から4年続けていたら七海が戻ってきて……私ももう1級術師で20代半ば。本当、時の流れは早いな。
いつも通り1級の討伐任務が入った。
ちゃっちゃと終わらせてゆっくりしようとしたのに、未登録の特級案件だった。
大方上層部の仕業だろうな。こんな状況なのに頭は冴え切っている。この時点で私は自分の死を悟っていた。
2級案件だったのに1級だったという、高専時代の灰原が死んだ時の記憶を彷彿とさせた。
あぁ、本当、呪術師はクソだ。
………………それなりに頑張った。だが今の状態は?片目が見えないし、血だらけでボロボロ。
ここままじゃ死ぬだろうなと、悟った私はせめてこいつを道ずれにしてやる……と残った呪力を使って特級を祓ってやった。
同時に体が倒れた。冷たい地面が心地良い。
私が死んだ後、七海は泣いてくれるかな?
あぁそうだ、約束………守れなかったな、ごめんね。でも七海の遺体は見ずにすんだからいいや………… 灰原に会える、かな………
次に目を開けた時、目の前には微笑んだ懐かしい同期の姿が居た。
七海side
「そう…ですか。報告ありがとうございます。」
同期が死んだと報告が入った。
彼女はフレンドリーで素っ気ない自分にも優しく接してくれた。
そんな彼女は灰原の死後、七海は死なないで、と言ってきた。はい、という返事はしなかった。けれどあの時は精神状態が不安定だったため、私も死ぬなと言ってしまった。
なのに酷い仕打ちだ、それを破るなんて。
友人の遺体はもう見たくなかったというのに。
頬に一筋の涙が溢れた。
2018年 10月31日
目の前に友たちの姿が見える。その指が指している先には虎杖君。
駄目だ それは違う。言ってはいけない。
それは彼にとって”呪い”となる。
「___虎杖君、後は頼みます」
暗転。
「七海もこっちに来ちゃったか。ちょっと早いんじゃない?」
「そうだよー、七海には人生大往生して欲しかったのに。」
「貴方達の方がよっぽど早いですよ。ていうか早すぎます。」
「あはは……ま!私達また会えたんだしさ、」
『他愛もない話をしよう』