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第1話-1 松谷翔真という男は
ピーーーッ
笛の音が校庭に響き渡り、俺たちは動きを止めた。
「よし!2ー4で松谷チームの勝利だな!」
サッカー部顧問の上原先生の言葉で、練習試合が終わった。俺たちが各々休憩に向かう中、「キャーーーー」という歓声が鳴り止まない。
「お疲れー、部長さん」
そう言って俺の肩に腕をまわした男は、河野蓮で、このサッカー部の副部長だ。
「あぁ………」
そう返事をして俺は蓮を見た。
こいつの顔はもう何度も見てきたが、改めて端正に整った顔だと思った。
形のいい一重の目に、鼻筋に通った鼻。吹き出物ひとつ無い肌は、本当にこの炎天下の中サッカーをしているのかと聞きたくなるほど白い。
「なにー?俺の顔に見惚れちゃった?」
「別に………」
いつも思うが、こいつは本当に軽薄な男だと思う。
こいつが言う言葉は、「部長」なら「ブチョー」
「俺の顔」なら「オレノカオ」といったように、漢字表記よりカタカナで表した方がいいほど、感情がこもってないのが伝わってくる。
「でもさ、そんなふうに言ったって、みんなは俺らの顔に見惚れてるぜ?ほら、」
俺は蓮が見ているほうに目を向けた。
多くの人が俺たちを見ている。
今は、5月上旬で、新入生の体験入部期間だ。
特に、サッカー部は人気で、多くの人が見に来ているのだろう。
おそらく、実際に入る気のあるやつはほとんどが男子だろう。しかし、引けを取らないほどの多くの女子が見に来ている。
さっき、こいつが言ったように彼女たちはサッカーではなく、サッカーをしている俺らを見に来たのだろう。
「おっ!!あの子めちゃ可愛いじゃん!
ほら、お前も見てみろよ。」
そう言われて、仕方なしに目を向けると、確かにそこには可愛らしい女の子がいる。
大きな二重の目が小さな白い顔に乗っている。栗色の髪は二つにまとめられていて、この距離からでも、可愛いということが十分に分かった。
「あぁ、確かに………誰だろうな」
「ええっ!お前知らねえの??」
驚いた顔で見てくる蓮に、俺は怪訝そうな目で見返した。が、気にする様子もなく、蓮は続けた。
「あの子は穂田花音ちゃん。今年入ってきた可愛い子。ってか、それくらい知っとけよな!」
「………そうか。でも、知ったところで意味ないだろ」
「………まあ、確かに」
そう、知ったところで意味などないのだ。
なぜなら、どれほど可愛いかろうが、同じ高校にいる時点で、あの子とはヤレないから。
そう、俺たちは正真正銘のヤリチンだ。