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俺たちは北方山脈の中でも一番南に位置する山の麓に到着した。中央の山に比べればそこまで高くはないとは言えど、その山もかなりの標高を誇っている。
「じゃあまずはこの山の探索をしてみるか」
「了解!」
俺はセラピィにそう告げると再び飛行魔法を使用して飛び上がる。そのまま先ほどよりもゆっくりとしたスピードで山の周囲をしっかりと確認しながら山の頂上へと目指して進んでいった。
一通り見て回ってみたが特に何もおかしな様子はなかった。
それどころか生物一匹たりとも見つけることが出来なかったのだ。
「何か変だな…」
俺はこの山の異様な状況に首を傾げる。
ワイバーンがこの付近の生物を捕食しつくしてしまったのだろうか。
「ユウト~!!」
頭を悩ませているとセラピィが僕の元へと戻ってきた。この山を見て回っている時に少し精霊とお話ししてくると言ってどこかへ行っていたのだ。
「セラピィ、どうだった?」
「それがね…」
するとセラピィが精霊から聞いたという話を教えてくれた。
セラピィ曰く、ここ周辺には元々いろんな種類の動物や魔物が生息していたらしい。しかし約3週間ほど前から中央の山の上の方に住んでいたはずのワイバーンたちが下に降りてきて辺りの動物や弱い魔物を食べ尽くしてしまったのだという。
そのために多くの動物や魔物はこの周辺から遠くへと逃げていったらしい。
精霊たちはここを離れることが出来ないのでひっそりと隠れて身を潜めていたようだ。
「なるほど、やっぱり原因は中央か…」
話を聞く感じ、おそらく他の3つの山も同じような感じなのだろう。
本命は中央にそびえたつあの山…か。
俺は北にそびえたつ巨大な山を見上げる。
一体あの頂上で何が起こったのか非常に気になる。
とりあえず俺たちは本命のあの山に向かう前に他3つの山の状況も見ておくことにした。いくら飛行魔法を使って最短ルートで飛んでいるとはいえ、この山脈のあちこちを見て回るのは相当時間がかかった。
ようやく4つの山全ての状況を確認し終えたころにはもうすでに日が落ちかけていた。やはり予想通りに周囲の4つの山は全て同じような状況となっており、生き物の姿はほとんど見かけることが出来なかった。かなり元々の生態系が壊されてしまっていることが分かる。
「今日はこの辺りで野宿することにしようか」
「賛成~!!」
そうして俺たちは山脈の谷にあたる平らな地形のところでテントを張ることにした。今回のために新しく買っておいたテントセットをインベントリから取り出してすぐに設営する。何気にこの世界にやってきてから初めての野宿なので、少しキャンプみたいな感じでワクワクしている。
「よしっ、これで完成!」
そうしてものの数分で見事なテントが完成した。分かりやすい説明書のおかげでテント設営未経験の俺でも簡単に設営することが出来た。最新型のテントセットということもあって設営しやすい設計になっていたのもあるのだろう。
そして次は近くの森で薪となる木材を集めてきて焚火の準備を始めた。
そう、野宿と言えばやはりキャンプ飯!
そのためにいくつかの野外用の調理器具も今回準備しておいたのだ。せっかく料理スキルがあるのだから保存食で腹を満たすだけよりも暖かい料理を食べて心まで温めた方が気分的に良いだろう。
そうして集めた薪に火魔法で火をつけて焚火を完成させた。
パチパチと音を立てて燃える焚火を見ているだけでも何だか穏やかな気分になる。
次に俺はインベントリから食材を取り出して調理を開始した。
今回作るのは異世界版のシチューだ。
野菜や生肉を切り分けて焚火の上に設置した鍋で煮込んでいく。
するとその様子をセラピィが隣でじっと見つめている。
「外で料理するなんて初めて見るよ」
「そうか、キャンプとかしたことないもんな。なあセラピィ、時間が出来たらいろんな所に行っていろんな景色を見ながら今日みたいにキャンプとかしてみないか?」
俺がセラピィにそんな提案をしてみると目を輝かせていた。
どうやらお気に召したようだ。
「今日みたいなこと!?やりたい!!いろんなところでやってみたい!!そうだ、セレナとレイナも一緒に行こうよ!!!」
「そうだな、みんなでいつかキャンプ行こうか」
「約束だよっ!!」
セラピィは満面の笑みで楽しそうに答える。すると待ちきれない様子の彼女はどんなところに行きたいか、どんなことをしたいかなどのやりたいことを考え始めていた。流石に気が早すぎやしないか、セラピィ。
そんなこんな話ているうちに作っていたシチューが完成した。早速セラピィと二人で分け合って食べてみるとこれがとても美味しかったのだ。料理スキルのおかげか、はたまた材料が良かったのか前世以上の出来上がりだったように感じた。
二人ともたくさんおかわりもして鍋にあったシチューは全て綺麗に食べ尽くしていた。
そうして食事を終えた俺は食後の運動がてら周囲の探索とテント周辺に魔物の侵入を防ぐ結界魔法の構築をすることにした。周囲の探索を一応してみたは良いが、やはりこの辺りには魔物の気配が全くと言っていいほどなかった。正直結界も必要ないレベルかもしれない。
まあしかし用心するに越したことはないので結界はしっかりと張ることにした。
それに少しでも不安のある状態で寝たくないしな。
そうして俺はインベントリから複数の魔晶石を取り出して魔法発動のために所定の位置に設置していった。結界魔法とは任意の範囲に周囲と遮断する防壁を設置するための魔法である。設置する魔晶石の質や設置する陣形などによって様々な効果を持つ結界を張ることが可能なのだ。
今回は単純に防御力を重視した頑丈な結界を設置しようと思っている。もしかしたら寝ている間に突然ワイバーンの襲撃があるかもしれないから奴らの攻撃を数発は耐えれるぐらいの強固なものを作っておきたい。
そのため俺は今まで集めていた魔晶石の中でもそこそこ質のいいものを取り出して次々とテントの周辺に設置していく。初めての作業だったので少し時間はかかってしまったがおよそ十数分で完成した。
そしてその陣形に魔力を流し込んで結界を発動させる。
するとテントを包み込むように半球状の結界が展開されていった。
上空まで全てカバーされているためワイバーンがどこから来ても防御が可能となっている。もしものために地中にも結界が展開しているため地中からの強襲もしっかりと対策できている。
「よしっ、これで一安心か」
一仕事終えた俺はテントの中に入って寝袋やランタンなど寝る準備を整える。明日はついに大本命である中央の山へと向かうのでしっかりと睡眠をとっておきたい。
「セラピィ、そろそろ寝ようか」
「は~い!」
俺は焚火のそばで星空をボーっと眺めていたセラピィに声をかける。
彼女がこちらへとやってきたのを確認してから焚火に水をかけて火を消す。
「セラピィも寝袋で寝てみるか?」
「うん!ユウトと一緒に寝たい!!」
俺は布団ではなく、予備の寝袋をインベントリから取り出してセラピィに渡す。すると初めてのことにワクワクしている彼女だったがどうやって寝袋で寝ればいいのか分からないようだったので寝袋で寝る方法を簡単にだが教えた。
「すごーい!包まれてて気持ちいいね!!」
そんな様子を見ていると不思議と子を持つ親のような感覚になった。
俺に子供がいたらこんな感じなのだろうか。
「じゃあ、寝ようか」
「うん、おやすみ」
そう言うと俺も寝袋に入ってセラピィの隣で横になる。
頭の上にあったランプを消すとテントの中が一気に真っ暗になった。
俺は上を向いてゆっくりと目を閉じる。新しいことをいろいろとやったことで知らず知らずのうちに疲れが溜まっていたのかすぐに意識が遠のいていく。しかしとても心地よく何だかぐっすりと寝られそうだ。