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『別々に寝ようと言ったら、彼氏が毎晩理由をつけて来ちゃいます』~a×s~
side佐久間
朝七時、洗面所の鏡をのぞき込んだ俺は、思わず自分の顔に問いかけた。
「どなたですか」
もちろん鏡の中にいるのが俺だということは分かってる。
だけど、一度確認せずにはいられないくらい目の下が黒かった。
昨日まで人間だったはずなのに、一晩でだいぶクマに近づいている。
できれば今日から冬眠したいと思っていたら、背後から大きな手が伸びてきて俺の髪を直した。
「おはよう。朝からかわいいね」
「なあ、ちゃんとこの顔見て言ってる?」
「見てるよ。どうしたの?」
「どうしたも何も、目の下すごいだろ。阿部ちゃん、一回眼科行こう」
「いいけど、佐久間も一緒に行ってくれる?」
「俺はその間に寝かせてほしい」
阿部ちゃんはそう言って俺の肩に顎を乗せると、鏡越しに目を合わせてきた。
鏡の中でも俺の後ろをすっぽり覆うくらい大きくて、寝起きなのに腹が立つほど顔がきれいだ。
しかも目の下に一切クマがいない。
とても同じベッドで寝ていた人間とは思えない。
「阿部ちゃん、昨日何時間寝た?」
「七時間くらいかな。佐久間は?」
「二時間半」
「え、それだけ?どうして眠れなかったの?」
どうしてって、この人は本当に分からないんだろうか。
俺は鏡から目を離してゆっくり振り返った。
昨夜も十一時には布団へ入ったはずだった。
ところが、今日あったことを話すたびに阿部ちゃんがキスしてくる。
笑ったらかわいい、怒ってもかわいい、困ってもかわいい。
俺の顔を全種類収集する気か。
話もキスも終わらず、気づいたら日付が変わっていた。
ようやく眠ったと思ったら、午前三時に腰のあたりが重くて目を覚ました。
見ると阿部ちゃんの腕が乗っている。
そっと外したのにまた乗ってきたから、もう一度外した。
すると今度は脚まで絡んできて、俺は掛け布団の中で完全に捕獲された。
『阿部ちゃん。重い』
『うん』
『うん、じゃない。ちょっと離れて』
『いる』
何がいるんだ。
腕をどかせば脚が来るし、寝返りを打てば俺まで連れていかれる。
俺は巻き寿司の具じゃない。
そう説明すると、阿部ちゃんはようやく申し訳なさそうな顔をした。
同棲を始めて半年、毎日楽しいし、めちゃくちゃ幸せだ。
一緒に飯を食って、同じベッドで眠る。
その全部が好きだった。
ただ、好きと睡眠時間は別の話だ。
このままだと仕事中にも頭が回らない。
実際昨日は『お世話になっております』と打つつもりが、『おやすみなっております』と打っていた。
なるな。
取引先へ寝言を送るな。
俺は鏡ではなく阿部ちゃんの目を見て、はっきり宣言した。
「今日から一週間、別々に寝よう」
俺の肩に触れていた手が止まった。
阿部ちゃんは何も言わず一回、二回と瞬きをした。
「……別々って、俺はどこで寝るの?」
「仕事部屋。お客さん用の布団あるだろ。俺は寝室で寝るから」
「それ、今日から?」
「うん。今日から七日間」
「七日も俺だけあっち?」
「俺もこっちで一人だよ。阿部ちゃんだけ修行に出すみたいに言わないで」
情報が全然入っていかない。
阿部ちゃんは俺の肩から手を離すと、なぜか洗面台に置いてあった歯ブラシを二本まとめて持った。
「じゃあ、歯ブラシも分けたほうがいい?」
「何で歯ブラシまで?」
「別々にするって言うから……」
「寝る場所だけだから!洗面所でまで距離取らなくていいんだよ!」
歯ブラシを戻してもらってリビングへ移動すると、阿部ちゃんは俺の後ろへぴったりついてきた。
いつもならかわいいと思うところだけど、今は病院へ連れていかれる前の大型犬にしか見えない。
「嫌いになった?」
小さい声で聞かれ、俺は慌てて振り返った。
「違う。寝不足なんだよ」
「俺といると?」
「夜、喋りすぎるんだよ。あと腕と脚」
阿部ちゃんは自分の両腕を見た。
「腕、どかせばよかったんだね」
「どかしたよ。ご丁寧に脚まで連れて戻ってきた」
俺は阿部ちゃんをダイニングの椅子へ座らせた。
隣にくっつかれると、結局まあいいかと言ってしまいそうだったからだ。
「一週間ちゃんと寝て、週末の仕事も済んだらまた一緒に寝よう。それでいい?」
「……終わったら、ちゃんと戻してくれる?」
「もちろん。ずっと別々に寝たいわけじゃないもん」
「じゃあ、そのあと俺もベッドに戻っていいんだね」
「いいって。阿部ちゃんの枕まで処分する話してないだろ」
そこでやっと阿部ちゃんの表情が少し緩んだ。
俺はメモ帳を持ってきて、一週間だけ別々に寝ること、十一時には布団へ入ることを書いた。
基本は朝まで相手の部屋へ入らない。
どうしても用事があるときだけ、話は五分まで。
ただし本当に困ったときは呼んでいい。
書き終えた紙をテーブルへ置くと、阿部ちゃんが最後の一行を指さした。
「本当に困ったときって?」
「具合悪いとか、怖いとか、水漏れとか」
「佐久間がかわいいときは?」
「日常だろ」
言ってから、自分でかわいいことを日常にしてしまったと気づいた。
阿部ちゃんの口元がわずかに上がるのを見て、慌てて言い直そうとした。
「そうだね。毎日かわいいもんね」
「待って、今のなし。俺が言ったことは忘れて」
「忘れても、明日の朝また思うけど」
「明日の分まで予約しなくていいんだよ!」
紙に『かわいいは緊急事態に含まれない』と書き足して、会議を終えた。
その日の夕方、仕事部屋にはもう布団が敷いてあった。
枕元には水まで用意されている。
阿部ちゃんが黙って布団の端をそろえたとき、脇に置かれた服が目に入った。
見慣れた色だなと思ってよく見たら、俺のパーカーだった。
「何で俺の服がここにいるの?」
「枕カバーの代わりにしようと思って」
「袖ついてるだろ。どう見てもパーカーじゃん」
「でも、ここ持てるからちょうどいいんだよ」
「寝るとき枕の袖つかみたい人、初めて見たよ」
持てる枕カバーなんて、寝具売り場で一度も見たことのない機能だった。
―――――――――――――
一日目。
午後十時五十分、俺は久しぶりに一人で使うベッドの真ん中へ座っていた。
こんなに広かったんだな。
いつも端へ追いやられているわけではないけど、阿部ちゃんに真ん中へ集められすぎて広さを忘れていた。
試しに両腕を伸ばしてみても誰にも当たらない。
脚を伸ばしても、別の脚が絡まってくることはなかった。
「自由だ」
思わずつぶやいたら廊下から声がした。
「何から?」
びっくりして肩が跳ねた。
振り向くと扉の前に阿部ちゃんが立っていた。
「びっくりした!まだ十一時じゃないけど、出入りするときはノックして」
「ノックする」
「今は何?」
「おやすみを言いに来た」
おやすみを言うのは大事だ。
俺が立ち上がって近づくと、阿部ちゃんは両腕を広げた。
いつものようにその中へ入った途端、普段より少し強く抱きしめられた。
「ちゃんと寝てね」
「うん。阿部ちゃんもな」
「明日の朝は何時に起きる?」
「七時くらいかな。八時間寝られたら最高だ」
「そっか。八時間、会えないんだね」
「阿部ちゃん、同じ八時間をそんな寂しそうに数えないで」
続きは、pixivとnoteにて同タイトルで公開中です。
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R-18『一週間「待て」をした彼氏、甘やかしたら忠犬のふりした猛獣でした』
本編とはひと味違う、特別な一篇。↓
俺が上目遣いで甘えるように尋ねると佐久間は顔を真っ赤にして視線を泳がせた。
さっきあんなに激しくイカされたばかりなのにまたすぐに求められるとは思っていなかったのだろう。
けれど佐久間は俺を拒絶することはなく小さく頷いてくれた。
「うん……いいけど俺ちょっと疲れたから阿部ちゃんが全部してね」
「うん。わんちゃん、ご主人様のためにいっぱい奉仕するね」
俺は佐久間の身体から退きソファの上で佐久間の身体をゴロンと寝返らせた。
うつ伏せになった佐久間の腰に手をかけ少し持ち上げるようにして四つん這いの姿勢にさせる。
佐久間の顔はクッションに埋もれて見えないけれど耳から首筋にかけてまで真っ赤に染まっているのがよくわかった。
下着もズボンも足首まで下げられたままの無防備な後ろ姿。
丸みを帯びたお尻の双丘が俺の目の前に無防備に晒されている。
俺は喉をごくりと鳴らし犬が初めて見るおもちゃに興奮するような気持ちでそのお尻に顔を近づけた。
すうっ、すんすんっと鼻を押し当てて匂いを嗅ぐ。
「んぁっ、あべちゃんっそこ匂い嗅がないでっ汚いからっ」
「汚くないよ。ご主人様の匂いここからもすっごく甘くていい匂いがする」
「ばかっ、犬みたいに嗅ぐなっ恥ずかしすぎるってば」
【9月まとめ公開中】に収録されているギャグコメディを少しだけチラ見せ☆
渡辺「愛っていうのは『この人となら不幸になってもいい』っていう気持ちのことらしいよ」
宮舘「へぇ…じゃあ、俺、翔太となら不幸になってもいいかな」
渡辺「ごめん、俺は嫌だ」
宮舘「orz」
康二「阿部ちゃん、赤ちゃんはどこから来るの?」
阿部「コウノトリが運んでくるんだよ」
康二「じゃあ、そのコウノトリはどこから赤ちゃんを?」
阿部「…アマゾンで注文してる」
康二「orz」
宮舘「はい、そこの自転車止まってー。二人乗りは危ないよ」
深澤「す、すみません!」
宮舘「今回は見逃してあげるから、次から気をつけるように。で、後ろの子は?」
深澤「え?他人ですけど…」
佐久間「「お客様、熱いのでお気をつけください」って言われた鉄板を「どれくらい熱いのかな?」って触ってみたら、店員さんが「これくらいです」って言わんばかりの顔でこっち見てた」
岩本「すみません、この服、試着してもいいですか?」
宮舘「はい、どうぞ。あちらの試着室へ」
岩本「(試着後)すみません、ちょっとサイズが合わなくて…」
宮舘「大丈夫ですよ。ちなみに、それ、私の私服です」
目黒「『薔薇』って漢字、書ける?」
康二「書けるよ。『草冠』に『土』を書いて、その下に『人』を書いて…」
目黒「それ、たぶん違う」
康二「え、じゃあ正解は?」
目黒「俺も書けない」
※最初から最後まで甘く、濃く、容赦なく。読み応えたっぷりのR-18作品となっております。
コメント
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ああ〜もう、この距離感がたまらないです……! 同じベッドで寝たい気持ちと睡眠時間を天秤にかける佐久間くんの切実さに、編集者としてめちゃくちゃ共感しました。「巻き寿司の具じゃない」ってツッコミ、好きすぎます。でも「嫌いになった?」って聞く阿部ちゃんのあの不安げな感じ…デカくて綺麗な顔でそれやられたら佐久間くんも揺らぐよね、分かる。パーカーを枕カバー代わりに持ってくエピソード、愛おしすぎて悶えます。kiyuさんの描く男同士の絶妙な距離感、本当に素敵です…! 続き、気になります。