※桃青です
※死ネタ(桃が帰らぬ人となってます)
苦手な人は自衛お願いします。
水視点
ないちゃんが死んだ。
それは、まだ蝉の鳴き声が響き渡る夏の日の出来事。その日は、メンバー全員で会社に集まり、ゆったりと会議をしていた。毎日のように熱中症警戒アラートが出されている今年の夏は、昨年よりも一段と暑く、ムシムシした気候。誰が言い出したかもわからないが、僕達は皆で少し歩いた所にある昔ながらのかき氷屋さんに行こうという話になった。
沢山のビルやお店が立ち並ぶ大通りを抜けて、少しくたびれた一軒家やアパート、個人営業の店などが並ぶ、幼少期を思い出すかのような街並みに出る。しょーちゃんとりうちゃんが先頭を歩き、アニキがその後ろ、ないふの二人が一番後ろからついてくるような形だった。前からは「見て、あの雲、蜘蛛みたい」なんていうしょうもない会話が聞こえてき、後ろからはいふくんのくたびれた声とないちゃんの 楽しそうな笑い声が聞こえてきていた。
もうあれから15分ほど経っただろうか。時々、他のメンバーも「まだー?」とか、「あつ~い」など弱音を漏らし始めた。自分もこんなに掛かるなら車で来れば良かったなぁ 。なんて、そんなことを考える。
すると、だんだんと小学生ぐらいの元気な子どもたちの声が聞こえてきた。鉄棒とシーソー、小さな滑り台がある公園。そこを丁度過ぎたにある信号が赤になってしまい、6人ぎゅっとなって小さな木陰で涼み、信号が変わるのを待っていた。
そして、その小さな木陰が、6人全員でいた最後の場所になった。
僕の横を過ぎたトラック。その数秒後に聞こえたいふくんの叫び声。咄嗟に動かした視線の先に映るのは、熱いアスファルトに倒れているないちゃん。そしてその反対側には、尻もちをついた男の子。少し奥に転がったサッカーボール。
たくさんの情報が一気に頭に流れ込んできて、その瞬間一切動くことも、声を発することもできなかった。
ないちゃんが倒れてる。頭から血が流れてる。いふくんがそこに駆け寄って何かこっちに叫んでる。アニキはトラックの運転手さんに何か喋ってて。あれ、何が起こってるんだ?
「…ぅ…しゃ…」
「きゅ…ぅ…しゃ!」
「早くッ!!救急車呼べッ!!」
いふくんの声で、やっと現実が頭に入り込んできた。そうだ、救急車呼ばないとッ!震える手でスマホを取り出し119に連絡する。もう自分が何を言っていたかもよくわからないが、いつの間にか救急車が到着して、ないちゃんが運ばれていって。気付いたら皆病院にいて。
そしていつの間にか、ないちゃんの死亡が告げられた。
医者から告げられたその言葉は、やけに現実味がなくて、今日の日の事は全て僕の悪い夢だったのではないかと思った。だけど次の日集まった会社には、ないちゃんの姿は無くて。社長室にも、会議室にも、Discordのサーバーにも居なくて。もうないちゃんには会えないんだという現実に涙が溢れて止まってくれなかった。
今日は、ないちゃんのお葬式。
参列したのは御遺族とメンバー、お世話になった数名だけ。お葬式は、できるだけこじんまりとしたものが良い、 というないちゃんのお母さんからの要望だった。
いざお葬式が始まって、お坊さんがお経を唱えだす。その間も僕は、ないちゃんの遺影が目に入ってしまい、涙が止まらなかった。その遺影は、今年の誕生日に撮った飛びきりの笑顔の写真。何枚も撮ったのにあの写真以外は、全部変顔だったのは、ご家族には内緒にしといてあげようかな。
そして無事葬式は終わった。ここの葬式場は、何人かが泊まれるようになっていて、ご家族の計らいで何故か僕達が泊まらしていただくことになった。まあ、そこまではいいのだが、僕には一つ気になることがあった。
いふくんの様子がおかしいのだ。
といっても、何か変な行動を取っている訳でも、柄にもなくわんわんと泣きじゃくっている訳でも、魂が抜けたかの様にぼぉーっとしている訳でもない。寧ろその真逆だった。
いふくんはメンバーの中でも、一番ないちゃんとの付き合いが長い。活動当初から二人は相棒で、仲が良いと評されるいれいすの中でも、誰も真似できないような絆がそこにはあった。それに加えて二人は恋人関係にもあった。おもむろにメンバーの前でイチャイチャしてくることは無かったが、二人がお互いを見つめる目は、本当に愛おしいものを見ている目だった。
そんないふくんが、ないちゃんの死んだあの日から、涙を流しているところを僕は一度も見ていない。それどころか、いふくんのほうがよっぽど辛い筈なのに、泣きじゃくる子供組を抱きしめ、慰めてくれていた。更には、ないちゃんのご家族と一緒に式の中身を決めて、後日行う予定の活動者を呼んだお別れ会の準備も進めて、まるで一つの仕事かのように動き続ける彼に少しの恐怖すら感じていた。
しかし、彼の心情がわかったのは、色々と落ち着いてきて、メンバーが寝床につき初めた深夜のことだった。
僕がなかなか寝付くことが出来なくて、起き上がった際にまだ横の布団に誰も来ていないことに気がついた。そう、いふくんだ。何をしているんだろう?まだ手続きか何かが残っているのかな?なんてことを考えながら、トイレに行き、また戻ろうとしたその時。式が行われていた小さな会場から聞き馴染んだ、優しい声が聞こえてきた。
「なぁ、ないこ…?」
「いつまで寝てるつもりなん…?」
いふくんは棺桶に入ったないちゃんの前に座り、ないちゃんの顔を見ながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「もう2日ぐらい起きひんやん。」
「あんだけ休めって言っても全然休まんくせにさ…。急にスイッチ切れんねんから」
「もうそろそろ戻ってきてくれへんと、今やってるコラボとか企画とか進まへんで、、?」
「昨日入ってた会議も、、。今日する予定やった配信もドタキャンしてさ…」
「初めてちゃう?こんな事、、。」
「あと、狭苦しくないん?こんなとこ…」
「楽しい場所が好きなお前が、珍しいやん。」
「服も…こんなペラッペラの真っ白でさッ、、、」
「似合ってへんよ…。全然似合ってへん。」
「いっつも動き回って子ども体温のお前がさぁ…、、、、ッ何でこんなに、冷たいんよっ、、?」
いふくんの手がないちゃんの頬に触れる。こちらからいふくんの表情は見えないが、声は微かに震えているように感じた。
「なにちびっこ三人泣かしてくれてんの、、?」
「一昨日ぐらいからずぅ〜っと泣いとる…ッ」
「あいつらを本気で笑かせんのは、、、ッお前しかおらんねんで…?なに寝てるんッ…、、」
「起きろょ、、、ッ」
「起きろってぇッ、、、」
「お前がッ言ったんやん…ッ、、一生一緒におんねやろぉ…ッ?おじいちゃんになってッ、、、よぼよぼになってッ、、、なんも出来ひんくなってもっ、、お前がずっと守ってくれんねやろッ……?」
「どこがよぼよぼやねんッ、、、。」
「しわ一つ無いやないか…ッ」
いふくんがそう言い俯いた瞬間、大粒の雫が棺桶の中に溢れた。いふくんはその後も「起きろ、起きろ。」とかすれた声を絞り出すかのように、何度も何度も呟き続ける。まるでないちゃんがもう死んでしまったことから目を背けるように。
そらそうだ。辛くないわけない。一緒にいるときの二人は、見ているこっちも嬉しくなるぐらい幸せそうだった。
あぁ、、、もうその幸せそうな笑顔を見れることは出来ないのか。あのとき、僕をグループに誘ってくれた、二人の優しい声はもう聞けないのか。
一度止まっていた涙が、再び溢れ出して止まってくれなかった。残りの三人も僕と同じで寝れなかったらしく、帰ってこない僕といふくんを心配して、いつの間にかこちらに来ていたようだ。
アニキは俯き、涙を流しながらも、地面にへたり込んだ僕の肩を抱いてくれた。りうちゃんと初兎ちゃんは、今までとは比にならないぐらいに嗚咽を漏らしながら泣いていた。
扉の向こうのいふくんは、棺桶に縋り付くように力を預け、今まで受け止めきれなかった現実に押しつぶされるかのようにしゃくりを上げている。そんな様子を見て、更に涙があふれると同時に少し安心したんだ。いふくんが唯一、弱音を吐ける相手。彼はそんな相手に最後の最後、しっかりと全ての本音を吐き出してくれた。
だから今度は僕達の番だね。ないちゃん、大丈夫だよ。ないちゃんが出来なかった分、僕達がずっと一緒にいるよ。僕達がないちゃんの大切な人、全力で守るよ。だから、、だからさぁ、。
来世では絶対。二人で幸せになってね。
コメント
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小説でこんなに感動したの初めてです… ありがとうございます🙇 今回も、神作品でした!本当に最高だし好きです!