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9月も中旬になると、日の光に柔らかさが加わった。カフェテリアに到着すると、ツヨシ、ミエ、キヨシ、そしてDJが丸テーブルを囲んでいた。健太は離れて目立たない壁際のテーブルを選んだ。
二個あるサンドイッチのうち一個を食べ終えたとき、DJが「こんなとこにいやがって」と言ってやってきた。
昨日、取立て屋からの手紙が舞い込んできた。そこには「期限までに払わない場合は裁判に訴えることがありえます」と書いてあった。健太は書類に書いてあった連絡先に電話をしてみた。きちんと事情を話せば分かってくれるかも知れない。
しかし、そんな期待はすぐに海の藻屑と消えた。取り立て屋は健太側の事情など一切聞くことなく、払え、払わなければ訴えるとの一点張りだった。そんなことをDJに話した。
「お前が正しいのは俺がよく分かってる」DJは言った「でもな、正義ばかりが正しいんじゃない、分からねえかなあ。ときには長いものに巻かれることも必要だぞ。いくら自分が正しいって言い張っても、支払い遅延を理由に裁判で訴えられて、その上仕事までなくしたらどうするつもりなんだ」
健太の席からツヨシが見えた。ここまで声は届かない。楽しそうな表情だけ見える。健太もついこの夏まで、ああいう表情をしていたのか。
DJはがなりたてる調子から、おとなしい口調になった。
「お金の心配ならするな。俺が全額、立て替えてやる」
DJが韓国の裕福な家の生まれで、そのために徴兵令を逃れてここに留学しているということを、かつてキヨシに聞いたことがある。その話はやはり、本当だったのか。
「DJ、その気持ちだけでいいんだ。俺がほしいのは、その気持ちだけなんだから」
健太は下を向いたまま、何度もうなずいた。