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危険な香り漂う路地裏。
息を荒くした男子生徒が一ノ瀬の体を壁に押し付けて、顔を近づける。
「グフフフフ……め、めちゃくちゃにしてやる。全身を舐め回して、ぐっちゃぐちゃに犯してやる! それで、それで……僕の子を孕むんだァッ!!!」
「っ!!!」
「はぁ、はぁ……大丈夫。優しくしてあげるから……怖がらなくていいよ? ね? 雫たぁん」
「や、やめっ……!」
一ノ瀬が顔を引きつらせる。
男子生徒は下卑た笑みを浮かべながら一ノ瀬に迫った。
一ノ瀬がもがき、制服のシャツに皺を作る。
スカートは揺れ、際どいラインまでむっちりとした太ももが見えていた。
そして男子生徒がその丸々とした手を、一ノ瀬の膨らんだ胸に伸ばした――その瞬間。
「ブホッ!!!」
吹き飛び、宙を舞う巨体。
正確に言えば、俺が吹き飛ばした巨体、か。
「いたーッ!!! 痛い痛い痛い! 僕の体が! 僕の体がーッ!」
「――うるせぇよブタ野郎」
つい口が悪くなってしまった。
気を取り直して、ポカンと口を開く一ノ瀬に声をかける。
「大丈夫か?」
「あ、あなたは……」
どうやら俺のことに気が付いていないらしい。
それもそうか。今はきちんとした格好をしているし、そもそも同じクラスってだけで面識はない。
それに誰かに覚えてもらえるほど目立つタイプでもないしな。
ま、とにかく好都合だ。これだと後々面倒なことにはならない。
「あまり危ない橋は渡らない方がいい。君は女の子なんだから」
「う、うん……」
固まる一ノ瀬をよそに、痛がる男子生徒の下へ向かう。
「なんで……なんで! 雫たんが僕と付き合わないのが悪いんだッ!!! それにいいだろ一回くらい! 僕を好きにさせた罰だ!!!」
「それを決めるのはお前じゃない、一ノ瀬だ。そしてお前は選ばれなかった。それだけの話だろ」
「っ! く、クソぉおおおおおおおおお!!!」
立ち上がった男子生徒が一心不乱に襲い掛かってくる。
巨体をさらりと交わすと、顎めがけて拳を食らわせた。
「ぐはッ!!!!!!!」
男子生徒は宙に浮き、やがて地面にそのまま倒れる。
「ブヒッ、ブヒッ……」
泡を吹いて地面に伏したままの男子生徒。
どうやら気絶してしまったらしい。
「……やりすぎたかな」
ヒリヒリと痛む拳を見ながら、そう呟いた。
その後、やってきた警察により男子生徒の身柄は確保された。
諸々の話が終わったころには、すっかり日が暮れかけていて……。
「あ、買い出し行かないと……」
俺は急いでその場から立ち去ろうとする。
「待って!!!」
すると一ノ瀬に腕を掴まれた。
「どうした?」
「えっと、その……ありがとう。助けてくれて」
「いいよ、これくらい。当然のことだから」
見て見ぬふりをする方がおかしい。
それに俺としても、何もしないのは寝覚めの悪い話だ。
「ごめん、急いでるから」
一ノ瀬の手から逃れると、急いで駆け出す。
「あっ……」
一ノ瀬からの視線を背中に受けながら、俺は遅れてしまった買い出しに向かったのだった。
♦ ♦ ♦
※一ノ瀬雫視点
ここ数日、歩いていると嫌な視線を感じることがあった。
ストーカーされているとわかり、さらにそれがついこないだ振ったばかりの男だとわかると胸の中が不快感で満たされた。
こんなことばかりだ。
私にとって男の人は災いの下。いつだって勝手に好意を抱かれて、被害に遭ってきた。
その思いが募り、私は沸々と怒りを感じていた。
面と向かって言ってやる。これまでの鬱憤を晴らすつもりで。
そう思い、男を路地裏に誘い込んだ。
それが間違いだった。
まだ明るい時間帯とはいえ、路地裏に人は通りかからない。
それに男の体は大きく、私の力なんてちっぽけなもの。
「グフフフフ……め、めちゃくちゃにしてやる。全身を舐め回して、ぐっちゃぐちゃに犯してやる! それで、それで……僕の子を孕むんだァッ!!!」
肩に触れられ、全身が震える。
恐怖と身震いするほどの嫌悪感。
脳裏によぎる、最悪の展開。
嫌だ、嫌だ。
こんな男に触れられて、私の大事な“初めて”を奪われるなんて。
男の汗がぽたぽたと垂れる。
怖い……怖い。
誰か……助けてっ!!!
――その瞬間。
男が気づけば宙に舞い、吹き飛ばされていた。
遅れてガシャンと音が聞こえてくる。
いつの間にか私を襲おうとしていた男はいなくなり、颯爽と彼が現れた。
「いたーッ!!! 痛い痛い痛い! 僕の体が! 僕の体がーッ!」
「――うるせぇよブタ野郎」
この人が私を助けてくれた。
彼の横顔を見て、血液の温度が上がる。
そして彼は私の方を見て言うのだった。
「大丈夫か?」
目が合い、声を聞いた瞬間。
――ドクン。
心臓が強く脈打つ。
体が芯から熱くなり、心まるごとこの人に奪われてしまったような感覚に陥った。
それからというもの、私はずっと上の空だったように思う。
ハッと我に返ったのは彼が立ち去ろうとしたときで、慌てて声をかけようと手を伸ばす。
しかし、彼は私に目もくれず立ち去ってしまった。
心がキュッと締め付けられる。
それと同時にお腹の下あたりがじんわりと熱くなった。
思わず手が下腹部に伸びてしまう。
「……もう一度会わないと」
会って話をしなければならない。
もう一度ちゃんとお礼を言いたい。
それから……。
「…………ふふっ、絶対に見つけるんだから」
気づけば彼のことで頭がいっぱいになっていた。
心が、体が彼のことを求めている。
感じたことのない、でも喉が渇くことに近い飢え。
もう誰にも、この気持ちを止めることはできない。
「どこにいようと、ね。ふふふっ♡」