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ちらりと傍らを盗み見る。
共通の旧友たちは、“ここ最近、宇彌殿が綺麗になった”と、事あるごとに口を揃える。
“前からだろ?”と応じて、無闇に冷やかされるのも癪だ。
この話題になると、口を噤むのが常だった。
『絶対なにかある! なにかあったんだ畜生め!!』
酒乱の友が吼えて暴れようが、“何もねえよ”の一点張りで通す。
こちとら、浮わついた物で一喜一憂する質でも無し。
何より、恋路の闇をぶらぶらと渡るには、えぐいモンを見すぎてきた。
いや、それを祓うための酒か。
佐気は百薬の長。 言い得て妙だ。
「今夜は誰と呑むんですか?」と、ふと宇彌が、えらく勘のいい事を言った。
仙力を働かせた様子はない。
他人の逐一を見澄ます観察眼も、ここまで来れば神仙に足る。
さて置き、今夜はどうするか。
またぞろ沖の宮へ行ってもいいが、正直あいつと酌るのは疲れる。 典型的なカラミ酒だ。
泰山の兄弟も、とくに悪い酒ではないが、酔うと説教をくどくど。 こっちの酔いもパッと醒める。
「まぁ……、どうするかね? 今夜」
「………………」
気がつくと、橋の中ほど。
次第に朝霧の晴れゆく頃合いに、山向こうから薄っすらと差し始めた陽光が、川流れを淡く照らしていた。
ちと足を止め、欄干に身をあずける。
これに倣った宇彌が、隣で同じようにして、澄んだ川面に目をやった。
上流に住まうという斎女が手向けたものか。
若々しい葵の葉が、葛の花びらともども、すべるように流れていった。
「お前さん、俺のこと好きか?」
酔ってる自覚が無いわけではないが、何とも突拍子のない質問が口を衝いた。
「ん。 嫌いじゃない」と、こちらはさすがに糟糠の妻。 最善の切り返しを弁えている。
「愛してはない?」
「愛して欲しいんです?」
そこで、いよいよとなった俺は吹き出し、これに打たれた彼女もまた、ふにゃふにゃと笑った。